老眼のツライところは小さい物がよく見えないということにつきる。そのような鮮明な画像が得られないハンデを負っていても、現場で虫をみつける作業は、ある程度なんとかできると思う。経験と、対象物の色彩を解析する画像処理能力を培えばよいだろう。私の脳にはこの素晴らしい画像解析システムが備わっており、シバンムシ科の微小種を発見!といって拾い上げた採集物がクロゴキブリの糞であったりする誤認識率は、控えめに言って僅か6割程度である。
先日、大阪府下の食品工場で、エアコンのフィルターが小麦粉で汚れたところを見つめていると、体長約1mmの黒っぽい虫が複数チミチミと動いていた。このくらいの微小種になると、肉眼で形態など分かるはずも無いので、脳内的な画像解析に頼るしかない。
色目で分類すると黒っぽい茶色なので、これらはすべてクリイロチャタテか、脚が超速いヒメマキムシという認識結果になる。
実体顕微鏡でみるとクリイロチャタテだったが、念のために交尾器を確認してみた。
まずはスプラッタな交尾器のプレパラート作りである。水を浅く入れたシャーレの底で柄付き針を駆使して、解体を進める。
昆虫の交尾器というのは複雑なものが多い。チャタテムシは微小種が多いから、生殖に関わる器官などは簡略化されてても良さそうなものだが、手抜き無しでしっかりとこだわりの複雑さを有しまくっている。
メス腹端の腹面にある板のような部分(1)を外して、さらに内側(2)の板状部分(3)を文献と見比べてみた。やはり、クリイロチャタテでOKのようである。
オスの腹端背面には、左右不対称な謎の文字のような交尾器がある。へたくそな字のようだがどのオスにも同じ形のものがあるので驚く。腹端から少し離れてウンコのカケラのようなものがみえるが、実は透明な膜で腹端としっかりつながっていて、やはりこれも全てのオスにみられる。たぶん交尾器の一部なのだろう。交尾にこれらの複雑なパーツ群がいかなる必要性を持ち、どのようなギミックで動作するのか、私には全く想像できない。