花夢

うたうつぶやく

081:露のうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
2009年4月18日

露はなる恥辱のこゑは洩れながら父ははげしく孤独である 露:あら
大辻隆弘

友達のままさまよえばひさかたの遠い場所からおちた朝露
水野彗星

その朝は庭じゅうの葉から露の落ちる音で目覚めたような気がした
野樹かずみ



水野彗星さんの作品は、お名前と呼応しているようにも感じる内容。
とても身近なことを詠んでいるようで、どこか宇宙に流れる星を思わせるような作品に感じます。


080:富士のうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
12月15日

はつなつののぞみに富士を見逃して降り立つ横浜駅の寂しさ
香山凛志

たまはりし「死」をしづやかに待つこころ武富士弘前支店放火魔
大辻隆弘

しめりけはあめをひとつぶ思いきり砂糖をこぼして富士山とする
やすまる

うつくしい空想のように東京の狭い空から見える富士山




死刑判決を受けた放火魔に思いを馳せる歌を詠まれる大辻隆弘さん。
異彩を放ってます。
思い浮かぶのはポケットティッシュで配られていた犯人の似顔絵。

やすまるさんの作品はほんものの富士が出てこない。
なんとか富士山を入れた光景よりも、手元の砂糖のほうがリアリティがあります。

香山凛志さん、霰さんは、リアルな富士山の作品。
その存在感、わかる気がしました。


079:塔うた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
12月15日

節度あるストーキングの帰り道いつも先だけ見えた卒塔婆
市川周

老婆とて心に花は咲いている卒塔婆小町の言い分に酔う
夏瀬佐知子

氷上のあなたは青い塔としてそのささやかな死を受け入れた
笹井宏之

タロットで塔のカードが暗示する運命から逃げ恋人になる
木下奏



卒塔婆(そとば)
仏舎利を安置したり、供養・報恩をしたりするための建造物。インド・中国では土石やせんを積み、日本では木材を組み合わせてつくる。塔。塔婆。そとうば。
YAHOO!辞書より

卒塔婆小町
能楽作品の一つ。
乞食の老女が卒塔婆に腰掛けているのを、高野山の僧が見咎め、説教を始めるが、逆に法論でやり込められる。驚いた僧が彼女の名を聞けば、かつては才色兼備を謳われた小野小町の成れの果てだという。

wikipediaより

市川周さん
節度あるストーキングにうーん。うなる。記憶が、ある。

夏瀬佐知子さん
上の句がいいですね。「卒塔婆小町」はじめて知りました。興味あります。

笹井宏之さん
青い塔の美しさに魅せられました。

木下奏さん
その結末は・・・!?


アジカンの「電波塔」という歌がけっこう好きです。チェックオッケー?


078:経うた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
12月15日

悲しみを経てきた分だけ強くなるなんてまやかし海は果てない
五十嵐きよみ

少し前まではなかった未来図にあなた経由でたどり着く町
描町フ三ヲ

経血の赤をさだめとうけとめて襦袢を解けば千の花咲く
萩 はるか



五十嵐きよみさん、描町フ三ヲさんの作品は、心が寄り添いやすい作品でした。

萩はるかさんの上の句に滲む、おんなのさだめをどっしりと構える姿勢。
赤色が強烈に焼きつきました。


意外だったのは、写経・般若心経など仏教系の言葉が多く見られたこと。

宮沢賢治の有名な「雨ニモマケズ」の詩にも、
最後にお経(南無妙法蓮華経)が書かれてあると言います。
しかし、一般的にはカットされていることが多いようです。


077:写真うた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
12月9日

去年(こぞ)の夏買った心霊写真集押しつけあえばお別れの朝
市川周

どうすれば伝わるだろう撮りためた写真を燃えるゴミとして出す
みち。

君撮りしピンボケ写真の中の我ただ遠ざかりゆくだけである
平岡ゆめ



写真は・・・想像以上に難しいものですね。
ノスタルジックな歌の歌詞のようなものや、
カメラで撮れるもの・撮れないものを描写した作品が多かったです。

そのなかで、気になった作品。

市川周さんのお別れの朝の滑稽な光景。いやぁ、よく思い浮かぶなぁ。と思います。(笑)

みち。さんは、写真を撮られる方の言葉だなぁ。と感じました。
その、捨ててしまう潔さ。表現者です。

平岡ゆめさんの作品は、情景のぼかしかたが素敵。
遠ざかっていくのが他者でも君でもなく「我」という自分自身。そして、下の句の突き放し具合。
あの日に戻れないのは、だれのせいでもなくただここまで来てしまったような。


076:まぶたうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
12月9日

幸せが遠くで待っている予感ひかりのキスをまぶたに受ける
五十嵐きよみ

薄いうすいまぶたを閉ざし漂へるひかりとわれを句切らうとする
大辻隆弘

やはらかくまぶたに触るる月明りながく祈りを忘れてゐたり
萱野芙蓉

はらはらと散る花びらや羊などまぶたを閉じて思ひ出にする
minto



まぶたと言えば、視覚をさえぎるもの。
そのまぶたのうえにひかりを降り注ぐ、五十嵐きよみさん、大辻隆弘さん、萱野芙蓉さんの作品。
それぞれに完成度が高く、その光の強さも、意味合いも、各々の作品で変わってくるので面白いです。

mintoさんの作品は、まぶたを閉じることで、見ないようにするのではなく、一気に思い出へと変えようとしているところが印象に残りました。


075:うがいのうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
12月2日

川沿いを行けばひとりとひとりなり鳥の名前を教えあっても
香山凛志

あさがおの双葉のようなはじまりに鳥たちはもう帰りたくない
橘 こよみ

きみは白いやわらかな風を遊ばせて小鳥のやうにしづかに眠る




鳥になりたいというのはありきたりだ。(私がやりました!)
その憧れに対し、鳥は飛びたくて飛んでいるのではない。という作品もあったけれど、それは人間が歩きたくて歩いているわけじゃない。と同じことで、逆に現実的ではないというか、現実はそこまで卑屈でもない。
と、まぁ今更になって冷静になってみる。

香山凛志さん。
同じ場所にいてもひとりひとりのとき、ありますね。

橘こよみさん。
この流れは絶妙ですね。
鳥たちがそのはじまりを祝福しているような、不思議な作品。
とても心地よくて好きです。

霰さん。
羽毛のようなやわらかな作品。


074:英語のうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
12月2日

フォルダには英語のスパムがあふれてて、愛の言葉もぼやけてばかり
小春川英夫

母国語をいくさの中に置いてきたフランチェスカと英語で話す
萱野芙蓉

みぎ胸でひらりとゆれた情調をひとひらの青い英語で伝える
やすまる



小春川英夫さんの作品が印象的。
英語のスパムはやたら愛の言葉に溢れている。


073:像のうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
11月27日

待ちぼうけ食らはされたる男あり陰茎欠けしダビデ像の前
小早川忠義

聴くひとの母親像も引き受けて歌う<この道>三番の歌詞
あいっち

肖像はひかりのようで なんとなく返しそびれた本の頁に
ひぐらしひなつ



小早川忠義さんの作品のインパクト。
男の権威の失墜を哀しくリアルに見せられて絶句。
バブル崩壊以降、男性は弱くなったとも言われるが、この作品はその象徴なのか。
いや、それとも、そもそも男性とはダビデ像の作られたころから哀しき存在であったのか。


072:リモコンのうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
11月27日

視線一つそれで十分リモコンで消されたみたいに言葉を切った
稚春

指先でリモコンボタン押すほどのためらいさえもなくて 震える
青野ことり

きみはどこかが壊れたようにねむっているリモコンを棄ててとなりにすわる
やすまる

リモコンが壊れた夜は背を向けて眠る なにか倒れる音がする
ひぐらしひなつ



リモコンのお題で好きな作品をピックアップしてみたら、
なにか欠けてるようなすうすうした雰囲気を感じさせるうたばかりでした。

「リモコン」みたいな言葉は
リモコンでなにができるか?と考えて作歌に入ってしまい、
「リモコンの歌」みたいになってしまいます。

だけど、リモコンなんて小道具ですよね。ほんとは。