花夢

うたうつぶやく

2008年題詠 056~060

2013年03月13日 | 題詠2008感想


判りづらい揶揄がトイレの壁にあり惱んだ後に水を流した
056:悩(酒井景二郎)

悩まずにまゐりませうか私はただわたくしの容れものとして
056:悩(本田鈴雨)

夏蜜柑ほどの重さだ左手に悩みをひとつ抱えつつ行く
056:悩(佐原みつる)

パジャマだけ豊富に持っている彼は引きこもりだが毎日着替える
057:パジャマ(やましろひでゆき)

八月の帽子売場は海の匂い雨の匂いあの首を濡らした
058:帽(ひぐらしひなつ)

お祭りの金魚をごはん茶碗にて飼えば淋しきあぶくがひとつ
059:ごはん(暮夜 宴)

秋弛む夕べはきはき炊きあがる豆ごはんとはつよい食べ物
059:ごはん(村上きわみ)

僕の名は酒井景二郎といひます 影を半分背負つてゐるんです
060:郎(酒井景二郎)

女郎花泡立つ午後を笑わなくなった姉から離れて歩く
060:郎(ひぐらしひなつ)



重さ、湿度、匂い。
文字から与えられるはずのない五感が刺激される。
これだから、短歌は。


2008年題詠 051~055

2013年03月13日 | 題詠2008感想


春の熊わたしがねむっているすきに角砂糖ひとつ略奪されたし
051:熊(松下知永)

考えるかたちをしてる鈴蘭に 雨 雨 翠雨 のまれてしまう
052:考(斉藤そよ)

みそラーメンだけが割高そのわけを考えていてもはやゆふぐれ
052:考(市川周)

1,000円の黒ネクタイは不意の死を待ちわびキヨスクの棚に垂れる
053:キヨスク(沼尻つた子)

けど今はキヨスクよりも網棚であなたに呼びかける傘がある
053:キヨスク(我妻俊樹)

ほうっておけば重さがつのる沈黙にあなたはうすく口笛を吹く
054:笛(こはく)

口笛で語らう風よ、言葉とは役にたたない呪文だつたと
054:笛(萱野芙蓉)

とてもよわい笛の音色だいま空にいのちのようなものがのぼった
054:笛(みち。)

乾燥に強い種だからとだまされていやだまされたふりで受け取る
055:乾燥(やましろひでゆき)

肌よりも乾燥しやすい心かも知れずちいさな詩集をひらく
055:乾燥(あいっち )



この年、自分は題詠を完走できなかった。
こうしてみなさんの作品と一緒に読んでいると、その理由がわかる気がする。
これでは、走れなくなるなぁ。と。

だからと言って、今後、上手に舵が取れるようになるかといえば、それはまた別の話なんだけど。
また詠みたいなぁという気持ちと、途方のなさが入り混じるこのごろ。