花夢

うたうつぶやく

2006年題詠感想を終えて

2007年02月28日 | 題詠2006感想
2008年2月3日
ようやく2006年の題詠100首。感想を書き終えました。

119人の作品をお借りしました。

たくさん借りすぎてトラックバックが申し訳ないことになった方、ごめんなさい。
また、通り過ぎたあとに、素敵な作品を見かけたことも、たくさんありました。
きちんと立ち止まれなくてごめんなさい。
曲解を繰り広げたり、単調な感想しかかけなかったりすることも多かったと思います。
お見苦しくて申し訳ありませんでした。

最初は、恩返しのつもりでした。
自分が感想をもらえて嬉しかったから、誰かに同じことができたらいいな。と。

だけど、実際は、違いました。
皆さんの作品が、2007年題詠の、自分の走る指針になりました。自分の走る力になりました。

ありがとう!!
拙いながら、いろんな作品と向き合えてよかったです。

100:題うた

2007年02月28日 | 題詠2006感想
ようやく最後まで来ました。
来てしまいました。


本題に入りそびれてもう一夜あいつの傍で眠ってしまう
星桔梗

「題」ということで、タイトルをテーマにした作品が多かったなか、
この作品は、とても小粒で身近な作品として好感が持てました。



夜明けには少し間がある書き上げた譜面に未だ題名はない
佐原みつる

書き上げたのが、短歌でも、文章でもなく、曲だったというところに、強く惹かれました。
どのような曲なのだろう。その夜に書き上げた曲は。

きっと、夜が明けるころには、題名もつけられるのでしょう。
今、できたばかりの、名前のない感情のようなメロディ。



けざやかに月光は降り 万物は無題の絵画となりて静まる
ことら

静かすぎる光景。絵画のような。
美しくて、立ち止まってしまいました。



あかるさの題名として秋といふ季節があつた、かつてこの地に
大辻隆弘

さすがです。立ち尽くしてしまいました。

あかるさのこと、秋という季節のこと、この地にもう存在しないもののこと。



<振り返り>
皆様の歌を読んでいると、
前半に輝く方と、後半に輝く方といらっしゃるように思いました。

どうも私はスロースターターらしく、
後半のほうが満足のいく作品が多く書けた気がします。
ここまで辿り着けた。という気持ちを持てたゴールでした。

099:刺うた

2007年02月28日 | 題詠2006感想

こわいものなんてないのにひいらぎの花も葉っぱもどうしても刺す
西宮えり

リズムが好き。
こよみさんのリズム。

そして、ひいらぎのその尖り具合が気になってしまう。
「どうしても刺す」なんて言われてしまったら、
どうしても刺さねばならない理由を探してしまう。
こわいものなんてないはずなのに。



刺繍糸かぼそい場所にくぐらせてひかりをふくむことばをつづる
おとくにすぎな

かぼそい場所。
ひかりをふくむことば。

とてもとても繊細なものを、まるで刺繍をするように、織り成してゆく。



刺しながら生き抜いてきた僕達のかしげた影を翔ける海鳥
小太郎

「かしげた影」がアンバランスで、
刺しながら生き抜いてきた僕たちの危うさを物語っていて、
でも、そこに海鳥が翔るのが清々しくて、好き。

きっと、どうしようもないのだ。



湯浴み後を刺し貫ける月の刃が洗へど落ちぬ我を見せしむ
yurury**

「月の刃」とは。
また、美しく、鋭いものを。

湯浴み後の無防備な姿。
その自分を、月の刃が照らす。
どうしようもない自分がぽつんと。


098:テレビのうた

2007年02月28日 | 題詠2006感想
テレビのある光景や、それに対するおもいを歌った作品が多かった気がします。
虚無感とか、リアリティーのなさとか。


壊れたテレビに映る壊れた人々。ぼくはもうたまらなく眠い。
kitten

kittenさんの作品は破調の形で作られています。
もう短歌という括りで考えるというより、キャッチーな言葉として面白いと思います。

「たまらなく眠い。」というくだりが好きです。
向い合うとか、目を逸らすとか、頭で考えて従うのではなく、
もう眠りという衝動に身を任せてしまう、この世の中のけだるさ。



いつのまに弱まっていた陽光がテレビの音をあたためている
斉藤そよ

そよさん、さすが。
あたたかい作品。
弱まっていてもひかり。



耐へがたし耐ヘがたし某テレビ局タレントアナの読む天気予報
萱野芙蓉

「耐へがたし」が2回リフレインしているところが面白いです。
しかも、文語。

甘え調なのだろうか。舌っ足らずなのだろうか。タレントアナの天気予報。
実感こもってるというか、日々の生活の妙な可笑しさがあります。


097:告白のうた

2007年02月28日 | 題詠2006感想
題詠2008年がはじまるまえには終われそう。
題詠の感想に1年以上かかってしまいました。
(2008.2.3更新)


そのかみの幼き恋の告白もいまは酒宴の肴となりぬ
寺田ゆたか

飲み屋の風景。
ガヤガヤとした酒宴の中で、おかみさんが語る、幼き恋の告白。
それは、もうすっかり過去のものとして、笑い話になっているけれど。
セピア色の光景は、現実の片隅にふと置かれながら。
年を重ねて生きるということが、
人々の喧騒のなかから、じんわりと沁みてくる気がします。



意味もなくカップのふちをなぞりつつ予定調和の告白を聞く
黄菜子

目に浮かぶ光景のようです。
手持ち無沙汰のように聞く、告白。
それは予定調和でしかないことを、知っている。
あなたも。わたしも。



告白を待てばすずしく天窓にひかりの気配して鳥が来る
ひぐらしひなつ

さすが。
眩暈がしそう。
この告白は、啓示のよう。


096:器のうた

2007年02月28日 | 題詠2006感想
ダントツでこの2首が好き。


もう何度だきしめられて最近はあなたのかたちにくぼんだ器
暮夜 宴

最初からじゃなくて、順番に変化していく。
ぴったりと繋がるパズルのようになってゆくあなたとわたし。



もう二度と鳴らぬ楽器が身の内のいちばん深い暗がりにある
五十嵐きよみ

「琴線」という言葉の意味が近いのでしょう。

自分の奥底にある琴線に触れる人が、
この世界にどれほどいると言うのだろう。

鳴ることを知ってしまった楽器。
そして、もう二度と鳴らない楽器。
身の内のいちばん深い暗がりにあるそれは、
もう一生、誰の前にも見せることはない。


095:誤うた

2007年02月28日 | 題詠2006感想

明け方の夢の誤り 届くのはあなたではなく雨のにおいだ
やすまる

夢はいつもあやふやで。
望むものとは違うものが届いてしまう。

雨のにおいが現実感を呼び起こさせる。



誤って選んだものの数々が少しただしくなる晩夏です
笹井宏之

そんな日もあるのでしょうか。
晩夏のせいでしょうか。



誤りは正すべきだがあの夏にあのゼラチンは必要だった
佐藤羽美

ゼラチンを使うんですか。ここで。
おそらく、オブラートと同じ働きをするものなのでしょうね。
やわらかい弾力のあるゼラチン。

「誤りは正すべきだが」という前置きとともに。
それでも必要なゼラチン。
すこしひんやりとしたゼラチン。
あの夏に。


094:流行うた

2007年02月28日 | 題詠2006感想
いろいろと迷ってこの3首。


流行が少し好きになってきてこれからたくさん笑うとおもう
わかば

流行に乗るとか、乗らないとか、そういう作品が多くて、
そのなかで、わかばさんは流行を少し好きになってきた人でした。
「これからたくさん笑うとおもう」と。

大抵の人は流行を気にするばっかりに、
流行に「乗るか」「乗らないか」ということが問題になってしまう。
焦点がそこに当てられてしまう。

けれど、実際は流行に乗るか乗らないかは「方法」であって、
自分の心地良い場所はどこなのか。
自分の心のおさまる場所はどこなのか。
ということが、本当は一番の問題になるのだと思います。

この作品の主人公さんは、たぶん、もともとは流行に乗るとか乗らないとか気にしていたんだろうなぁ。
けれど、今、心地良い場所を見つけ始めたところ。
とても素直な作品だと思いました。



だいたいはやさしい人です 時として流行おくれの帽子もかぶる
富田林薫

誰のことなのかはわからないのですが、誰かのことを説明しているらしい。
そして、その人のことをいろいろ想像させる独特の情報が・・・。
面白いです。

そして、そういう作品を書く富田林さんも面白い人なのだろうなぁ。
と、勝手に想像しています。



急行と各駅のあと流行が三番線を通過していく
中野玉子

ごく自然に、電車のなかに流行が混じっていた。
そして、通過していった。


093:落うた

2007年02月28日 | 題詠2006感想

落ちて来るしづくを雨と呼びながらこの子もいつか老いるのだらう
春畑 茜

文語であることが生きている作品だなぁと思いました。

この作品の根底には、
普遍に息づくものたちが静かに流れているようです。

美しいと思いました。
生きることは美しい。



千九百九十九小節目にはタクトを落とせ そして夜を聴け
岩井聡

かっこいい作品ですね。
舞台で見せる力のある作品だなぁ。と思いました。
千九百九十九小節目にタクトが落ち、そして静寂。夜。

毎年、年末31日の夜に、オーケストラが演奏する番組があるそうです。
そのオーケストラの演奏は、年が明ける瞬間ぴったりに終わるように演奏されるのだとか。



落ち椿ふみ場もなくて会長はいつから会長なのかわからない
みの虫

わけがわからないのに気になってしまいました。
落ち椿がふみ場もなくてあまりに綺麗だから?
そのなかで会長が途方に暮れているから?
会長って、なんの会長??

お名前も含めてひとつの近代アートのようで。
なんだかわからないけれど印象的で立ち止まってしまいました。


092:滑らかなうた

2007年02月28日 | 題詠2006感想

菜の花を左右に分けてゆくバスは 滑らかにわたる風をつれおり
はこべ

清々しい一首。
「菜の花を左右に分けてゆく」という表現で、
そこにいっぱいに広がる黄色い菜の花畑と、
その間を走るバスと風とを感じることができます。



夕焼けを背に振り向けばだるまさん滑って転んでだあれもいない
お気楽堂

わらべうたの延長のような作品。
子供ごころに感じる、夢中で遊ぶ楽しさと、取り残される心細さ。
夕焼けの明るさと、そこに落とされる黒い影のような対比。
リズム感よく演出されていると思いました。



滑稽とかなしいはひとつながりでわたしはわずか右に傾く
星川郁乃

わゎ。
すごく好きな作品です。
上の句と下の句の繋がり方がとても好き。

滑稽とかなしいはひとつながり。
その均衡を取るかのようにわずかに右に傾く。
そっとそっとこぼさないように生きる。