3月11日
時間がないから質問はのちほどと言ひて講師はさつと帰りぬ 野州 疑問詞のない質問が続くから どちらでもないほうを差し出す こはく 秋の日に点字でとどく質問は「せんせいのかみのいろをおしえて」 やや 質問はたとえば練炭自殺した男女の姿で車のなかに 野樹かずみ それはすでに質問ではなくわたくしはここからはやくかえりたかった 空色ぴりか 想像しやすい情景が多かった質問のお題。 そのなかでリアリティがあったのが、野州さん、ややさん。双方とも学校のような場所の光景でしょうか。作品内容やその温度はまったく違うものですが、人間味ある、人間同士の紡ぐ光景が切り取られているなぁ。と思いました。 こはくさん。疑問詞のない質問。「こうなの?」ではなく、「こうなんでしょ!」といったところでしょうか。その議論はまだまだ終わりがなさそうです。そう考えると、空色ぴりかさんの状況とも似ているのかな。こはくさんが鬱蒼とした議論の森をさらに鬱蒼とさせてゆく一方、ぴりかさんは状況を冷静に見切り、自分の感情に正直に・・・。 野樹かずみさんの作品は、濃密です。呼吸ができません。 |
2010年3月11日
こっそりと過去の記事に追加。
もはや自己満足の世界でしかないけれど、私のやりのこした宿題。
こっそりと過去の記事に追加。
もはや自己満足の世界でしかないけれど、私のやりのこした宿題。
ころっけがいっこころっところがってあいけんころのはなさきに(ワン!) ふしょー 雨匂うままに暮れゆく夏至の日のこころほのかにひかりを帯びて 本田鈴雨 なくしたといってるあかいこころならみつばとたまごとじにしました 中村成志 開かれぬそのこころにも届くやう月びようびようと蒼く光れり やや ひさびさに、題詠作品を新鮮に読ませていただきました。 「こころ」って怖い題ですね。 どれも特別に見えて、どれもありふれて見えてしまう。 ふしょーさんの言葉の語感のよさは「085:きざし」のお題でも感じました。「こころころころ」の語感はありがちで、そうやって読んでいる人、多かったですけどね。ふしょーさんの作品は、そうは落ち着かず、ころっけがいっこころっところがる。可愛いです。情景も、短歌を詠むことも、楽しそうなのが全体から感じられました。 本田鈴雨さん、ややさんは、ひかりの作品。美しいな。と思いました。 このお題では、中村成志さんの作品がとても嬉しかったです。 あかるいこころはおいしいものですね。やはり。みつばとたまごとじ。視覚的にもあかるくておいしそう。なくしたものの歌なのに、ひらがなもやさしくて、ステキ。 |
4月18日
だれひとりいないおやしきおくざしきざしきわらしをおしむおはやし ふしょー それはもうあなたのきざし 震え きて わたしのなかで弾く 遺伝子 K.Aiko しあわせのきざしだなんて思わない 四つ葉は見つけてほしかっただけ 小野伊都子 ふしょーさんのひらがなの語感を楽しむ作品。こういう作品はときどきただの言葉の羅列というものがあるですが、この作品はちゃんとストーリーになっていて、その内容がまた良いと思いました。 K.Aikoさんは、ぽろぽろと見られる1字あきの空間が、まだきちんと定まっていない不安定なものの存在を感じさせている気がします。 小野伊都子さんの作品は、可愛らしい純粋な物語のようです。 |
4月18日
筒抜けの午後にぽつんと置き去られ手当たり次第に疑ってみる 野良ゆうき 筒切りのナイルパーチの唐揚げに生態系ってささやいておく 田崎うに 筒といえば、「伊勢物語」の「つづいづつ」の歌が浮かびます。 上の句のあのリズムはいいよなぁ。 ナイルパーチ ナイルパーチは大型魚で、肉質も癖がない白身であることから、食用として需要が高く全世界に輸出される。日本ではレストランや給食などでフライ用の「白身魚」として供される。 水産資源としての価値が高く、もともとの分布範囲を超えてアフリカ各地に放流され、定着している。放流された水域では外来種として在来生物群集に大きな影響を与えている。たとえばヴィクトリア湖では、ナイルパーチの放流が原因で固有種が激減し、生態系に深刻な影響が出ているとされる。ドキュメンタリー映画・映像番組『ダーウィンの悪夢』は、ヴィクトリア湖における養殖から派生する数々の社会問題を主題としている。 Wikipediaより 田崎うにさんの作品は、この生態系に深刻な影響が出ているというナイルパーチの作品のようです。 この事実を知らなくても、なんだか呪文みたいで、儀式めいていて不思議ですけど。 「生態系」と発されているその意味が、ナイルパーチが生態系に与える影響を指しているのだとすれば、ただの台所にある唐揚げの歌が、突如として世界の利己主義な成り立ち方に触れてしまいそう。 だけど「ささやいておく」ことになんの意味があるのか。いや、意味がないから、とりあえず「ささやいておく」のか。そっと。 野良ゆうきさん。不安になって悲しくなるのではなく「疑ってみる」というのがリアリティ。 |
4月18日
五分刈りの伸びゆく様を笑いあう 九月になれば遠いサイレン 市川周 今ならば言い返せるのにもう遅くサイレンを背に遠吠えをする 水野月人 アンドロイドの秘書のヒップに触れしとき作動すサイレンサーつきビンタ 砺波湊 アジカンの「サイレン」という歌が離れなかったこのお題。 市川周さん。野球小僧の作品です。サイレンの似合う光景。 水野月人さん。サイレンと共に鳴く犬と、負け犬の「遠吠え」を重ねたところが面白いです。そういえば、最近、サイレンのときに鳴く犬、見かけなくなった気がするのは気のせいでしょうか。 砺波湊さん。コミカルな漫画みたいな作品。カタカナが多めに使ってあるのも近代的な雰囲気を出してます。 |