花夢

うたうつぶやく

091:命のうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
3月11日

唐突に寿命の尽きたモニターの画面のように僕らは終わる
椎名時慈

じゃがいもがふいに崩れるようにして父の命は暮れてしまいぬ
瑞紀

このままでいいのかいいやいいんだな かけた命がぶらぶらゆれる
稲荷辺長太



椎名時慈さんの作は無機物を比喩に関係がぷつんと終わってしまう。それはそれでなるほどというリアリティ。
一方で、瑞紀さんの作は有機物を比喩にしているぶんそこにあった温度のような息づかいのようなものを感じながら、ふっと命が暮れてしまう。
また、その一方で、稲荷辺長太さんのようにぶらぶらして生きている感じも・・・頷ける。


090:質問のうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
3月11日

時間がないから質問はのちほどと言ひて講師はさつと帰りぬ
野州

疑問詞のない質問が続くから どちらでもないほうを差し出す
こはく

秋の日に点字でとどく質問は「せんせいのかみのいろをおしえて」
やや

質問はたとえば練炭自殺した男女の姿で車のなかに
野樹かずみ

それはすでに質問ではなくわたくしはここからはやくかえりたかった
空色ぴりか



想像しやすい情景が多かった質問のお題。
そのなかでリアリティがあったのが、野州さん、ややさん。双方とも学校のような場所の光景でしょうか。作品内容やその温度はまったく違うものですが、人間味ある、人間同士の紡ぐ光景が切り取られているなぁ。と思いました。

こはくさん。疑問詞のない質問。「こうなの?」ではなく、「こうなんでしょ!」といったところでしょうか。その議論はまだまだ終わりがなさそうです。そう考えると、空色ぴりかさんの状況とも似ているのかな。こはくさんが鬱蒼とした議論の森をさらに鬱蒼とさせてゆく一方、ぴりかさんは状況を冷静に見切り、自分の感情に正直に・・・。

野樹かずみさんの作品は、濃密です。呼吸ができません。


089:こころのうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
2010年3月11日
こっそりと過去の記事に追加。
もはや自己満足の世界でしかないけれど、私のやりのこした宿題。


ころっけがいっこころっところがってあいけんころのはなさきに(ワン!)
ふしょー

雨匂うままに暮れゆく夏至の日のこころほのかにひかりを帯びて
本田鈴雨

なくしたといってるあかいこころならみつばとたまごとじにしました
中村成志

開かれぬそのこころにも届くやう月びようびようと蒼く光れり
やや



ひさびさに、題詠作品を新鮮に読ませていただきました。
「こころ」って怖い題ですね。
どれも特別に見えて、どれもありふれて見えてしまう。

ふしょーさんの言葉の語感のよさは「085:きざし」のお題でも感じました。「こころころころ」の語感はありがちで、そうやって読んでいる人、多かったですけどね。ふしょーさんの作品は、そうは落ち着かず、ころっけがいっこころっところがる。可愛いです。情景も、短歌を詠むことも、楽しそうなのが全体から感じられました。

本田鈴雨さん、ややさんは、ひかりの作品。美しいな。と思いました。

このお題では、中村成志さんの作品がとても嬉しかったです。
あかるいこころはおいしいものですね。やはり。みつばとたまごとじ。視覚的にもあかるくておいしそう。なくしたものの歌なのに、ひらがなもやさしくて、ステキ。


088:暗いうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
9月28日

あたしたち何してたんだ読み返すメールはどれも暗号みたい
稚春

昨日みたひとつの星がなくなってサバンナの夜ひとつ暗くて
田崎うに

この森のどこかに小さな暗室を建ててあなたの日々を焼きたい
小野伊都子



稚春さん。そういうこと、あるある。恐ろしいことに。

田崎うにさん。サバンナの星ひとつの差に気づく繊細な暗さ。都会じゃありえない。

小野伊都子さん。インパクトのある作品。「焼く」(消滅させる)ためにわざわざ「暗室を建てる」(なにかを生み出す)というのが想いの強さを感じさせて余計に怖いのです。



087:テープうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
9月28日

ガムテープよりマシかなと思うけど実際きみは役に立たない
よさ

ざんざんとセロハンテープを剥ぐ度に冬の匂いがお部屋に満ちる
佐藤羽美

かさぶたを覆う救急傷テープ剥がせば二度目の羽化がはじまる
ワンコ山田



よささん。言ってくれますなぁ。

佐藤羽美さんは、情景から季節へと想いが傾いてゆく様子。なぜセロハンテープを剥いでしょうか。衣替え?

ワンコ山田さんの作品いいなぁ。傷ついて、再生して、別のものになってく感じ。


086:石うた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
9月28日

半年ぶりに更新。
だれも気づいていないだろうけど、密かに完走するのだ!いつか!


川辺まで降りる石段 近づけば届かなくなるものをみている
青野ことり

先生はチョーク(正しい石灰)で数字(正しい雑念)を書く
橘 こよみ

くちびるのふるえはたぶん宝石をくわえて旅をしていたからだ
笹井宏之



青野ことりさんの作はやわらかくて難しいことは言っていないんだけど、その空気が良いのだと思います。
橘こよみさんの作は、逆に小難しいような面白さがあって印象的。
笹井宏之さんの旅は美しい。


085:きざしうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
4月18日

だれひとりいないおやしきおくざしきざしきわらしをおしむおはやし
ふしょー

それはもうあなたのきざし 震え きて わたしのなかで弾く 遺伝子
K.Aiko

しあわせのきざしだなんて思わない 四つ葉は見つけてほしかっただけ
小野伊都子



ふしょーさんのひらがなの語感を楽しむ作品。こういう作品はときどきただの言葉の羅列というものがあるですが、この作品はちゃんとストーリーになっていて、その内容がまた良いと思いました。

K.Aikoさんは、ぽろぽろと見られる1字あきの空間が、まだきちんと定まっていない不安定なものの存在を感じさせている気がします。

小野伊都子さんの作品は、可愛らしい純粋な物語のようです。



084:退屈うた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
4月18日

退屈を奏でるならばハ長調 そみみ ふあれれ おなかがへつた
村本希理子

転生を思い出すほど退屈なぼくは足で抱き枕を馴らす
橘 こよみ

目を閉じてきみを見つけて退屈が赤いかけらになってこわれた




退屈は難しいお題ですね。改めて思いました。
退屈=面白くないものですから。面白くないものを面白くないと詠んでも面白くないですし。

この三作は、ありきたりな退屈ではないものを感じました。
ハ長調だったり、転生を思い出したりしているわけですから。
赤いかけらになってこわれる退屈を持つ、霰さんの心象風景がきらめいていてステキでした。


083:筒うた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
4月18日

筒抜けの午後にぽつんと置き去られ手当たり次第に疑ってみる
野良ゆうき

筒切りのナイルパーチの唐揚げに生態系ってささやいておく
田崎うに



筒といえば、「伊勢物語」の「つづいづつ」の歌が浮かびます。
上の句のあのリズムはいいよなぁ。

ナイルパーチ
ナイルパーチは大型魚で、肉質も癖がない白身であることから、食用として需要が高く全世界に輸出される。日本ではレストランや給食などでフライ用の「白身魚」として供される。
水産資源としての価値が高く、もともとの分布範囲を超えてアフリカ各地に放流され、定着している。放流された水域では外来種として在来生物群集に大きな影響を与えている。たとえばヴィクトリア湖では、ナイルパーチの放流が原因で固有種が激減し、生態系に深刻な影響が出ているとされる。ドキュメンタリー映画・映像番組『ダーウィンの悪夢』は、ヴィクトリア湖における養殖から派生する数々の社会問題を主題としている。

Wikipediaより

田崎うにさんの作品は、この生態系に深刻な影響が出ているというナイルパーチの作品のようです。
この事実を知らなくても、なんだか呪文みたいで、儀式めいていて不思議ですけど。
「生態系」と発されているその意味が、ナイルパーチが生態系に与える影響を指しているのだとすれば、ただの台所にある唐揚げの歌が、突如として世界の利己主義な成り立ち方に触れてしまいそう。
だけど「ささやいておく」ことになんの意味があるのか。いや、意味がないから、とりあえず「ささやいておく」のか。そっと。

野良ゆうきさん。不安になって悲しくなるのではなく「疑ってみる」というのがリアリティ。


082:サイレンのうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
4月18日

五分刈りの伸びゆく様を笑いあう 九月になれば遠いサイレン
市川周

今ならば言い返せるのにもう遅くサイレンを背に遠吠えをする
水野月人

アンドロイドの秘書のヒップに触れしとき作動すサイレンサーつきビンタ
砺波湊



アジカンの「サイレン」という歌が離れなかったこのお題。

市川周さん。野球小僧の作品です。サイレンの似合う光景。
水野月人さん。サイレンと共に鳴く犬と、負け犬の「遠吠え」を重ねたところが面白いです。そういえば、最近、サイレンのときに鳴く犬、見かけなくなった気がするのは気のせいでしょうか。
砺波湊さん。コミカルな漫画みたいな作品。カタカナが多めに使ってあるのも近代的な雰囲気を出してます。