あのひとに愛されてからひらがながどんどん下手になっているけど
腕高く掲げたままで錆びている除雪機をつい父さんと呼ぶ 011:除(水須ゆき子) 負けないで夢は必ず叶うから(一部の地域を除く) ※かっこいちぶのちいきをのぞく 011:除(市川周) (ゆるゆると)蛇口ひねれば(思い出す)いつも(優しい)さびしい(あなた) 013:優(こはく) まっすぐに飛ぶものを優先させて流星群のなか すれちがう 013:優(やすたけまり) 祈りあう(何を?)(何かを)祈りあうたとえば朝が優しいように 013:優(瑞紀) やさしさをさしだす胸の、でもいつか涸れる泉を思う十月 014:泉(ひぐらしひなつ) 久方のひかりのどけき春の日に温泉を掘りあててもひとり 014:泉(市川周) アジアでは花に生まれた ものいわぬものにうまれてくりかえす罪 015:アジア(吹原あやめ) 2008年の題詠を読むにあたって、 その膨大な量を前に、できるだけざくざくと読んでいる。 ゆっくり、じっくり味わえば、うんうんと頷けるものもあるだろうし、 そこにはそれぞれの喜怒哀楽のある世界が広がっていることも知っている。 今の私は、キャッチーな魅力をもったものに足を止めがち。 ブラックホールのような吸引力。得体の知れなさ。 引きつけて離さないもの。 私には、ときどき、三十一字が狭い檻のように見える。 それなのに、そんな枠のなかでものすごく自由にはばたいているひとがいて、そんなふうに、どうして自由にいられるんだろうと思う。 うらやましくて仕方がない。 |
あたたかい部屋でドラマのきれはしがぽとりと床に落ちるのを見た 006:ドラマ(橘 こよみ) Dirty liberty,Dirty liberty 壁紙を引き裂くだけの毎日だろう 007:壁(西巻真) 椅子のないピアノがひとつ壁際にありぬ太古の小舟のように 007:壁(あいっち) 雪解けの頃のテレビの吉幾三これが守るということならば 008:守(本田瑞穂) それぞれが出かけし後の食卓に朝の会話が残つてをりぬ 009:会話(泉) ここ迄の會話は全て嘘でした さあ有り金を皆出しなさい 009:会話(酒井景二郎) 母からの電話に交じる風の音また蝶々を食べているのね 010:蝶(水須ゆき子) 川底に蝶を沈めてどこまでもまずしいこころのままでいましょう 010:蝶(村上きわみ) 祖母はこときれた瞬間南国の蝶1匹分軽くなりました 010:蝶(橘 こよみ) 蝶としてけふを生きゐるたましひが黒あざやかにわがまへを過ぐ 010:蝶(春畑 茜) 最初のほうはお題ひとつにつき300首以上が集まっている。歌集レベルの量。 すごい量なので、ちょっと頭がぐるぐるしている。 きっと、ステキな短歌を見逃しまくっていると思う。 そんな心苦しさを紛らわしつつ。 |
よそ見する父に返したおはようがトーストの上のったりと垂れ 001:おはよう(小椋庵月) さまざまに啼きわけながらおはようの小鳥が朝のひかりをほめる 001:おはよう(村上きわみ) わたしから折れるつもりはないまずは昨日のおはようをレンジに入れる 001:おはよう(和良珠子) それはもう春のあめゆき じゅくじゅくと理由を濡らす春の あめゆき 003:理由(村上きわみ) まだ硬い冬のキャベツを剥くうちに理由のようなものが残った 003:理由(佐原みつる) かんたんに弱ってしまうポケットに塩キャラメルをさしあげました 004:塩(村上きわみ) 質問にこたえないままその舌は塩キャラメルの塩をみつける 004:塩(やすたけまり) 奔放な風のことばを聞きながら岬は夏をみごもるだろう 005:放(村上きわみ) 突然ですが、いまさら2008年の題詠を読んでいくことにしました。 今回は、ひたすら自分の勉強のために、ということで とにかく「憧れるうた」を、こころに刻んでいこうと思います。 そんな基準ですので、きっと偏るだろうと思っています。 そんなこんなで、村上きわみさんの作品はいっきに4つも上げていて、これを選歌と言えるのだろうか・・・。(以後、気をつけます) なんだか恐れ多くて、ごめんなさい。 でも、こんな珠玉のような言葉たちを見て、あぁ、すてき・・・・とうっとりしています。 |