花夢

うたうつぶやく

011:すきまうた

2008年02月11日 | 題詠2007感想

ブラウン管が映すきまぐれな記号を追う 僕に嘘ついてもいいよ
スズキロク

すきまから出てゆくときに風たちは少し長めの言葉を残す
野良ゆうき

からあげとたまごやきとの蜜月にすきまを空ける 夏はすぐそこ
史之春風

すきまなく冬のひかりを挿し込まれあふれるまでを観察される
佐藤羽美



史之春風さんの蜜月、なんかいいなぁ。
佐藤羽美さん、とても印象的。


010:握るうた

2008年02月11日 | 題詠2007感想

お別れの握手をすれば掌に溶け込みそうな小さき手なりき
西中眞二郎

つよく握りしめれば泣くし弱ければ責めるのだろう 夕焼けを待つ
本田あや

まぼろしを握りゐし手か灯のもとにひらけば砂と雨の香のする
春畑 茜

これだから消えてゆくのかなにもかも握る力のつよいわたしは
神川紫之

いちにちを眠りつづけて一握の砂糖は朝の珈琲のため
やすまる



春畑茜さんの作品、とても幻想的。
神川紫之さんの書く言葉、すでに何回かお借りしています。好きだなぁ。


009:週末のうた

2008年02月11日 | 題詠2007感想

週末は(レモンジュースの明るさで)しずかに雲をどけてください
西巻 真

週末の定義がいまいち曖昧で君のえくぼが思い出せない
島田典彦

くらやみが見えすぎていてひとりでは埋めていけない週末のこと
神川紫之

月曜にはみ出てしまった週末の名残を消して職場に向かう
椎名時慈

第二楽章の終はりで拍手してしまふ、そのやうにちぐはぐな週末
大辻隆弘



みんな、いろんな週末を望み、過ごしているのね。

大辻隆弘さんのところで笑ってしまいました。良い週末を。


008:種のうた

2008年02月11日 | 題詠2007感想

きがつけばわたしに少しにた種がふたつぶぐらいはつがしていた
富田林薫

いつかって言いながらするキスはもうなにかの種子じゃないかと思う
市川ナツ

街中に種と見紛ふ石ころの芽を生やさむとする振りをせり
小早川忠義

平常心平常心とぞつぶやきてかぼちゃの種をほほばりてをり
吉浦玲子

アボカドの種あたためる鳥たちよ(何も生まれてきませんように)
A.I

たどたどしい告白に似たつぶつぶの種を数えてやり過ごしている
里原志穂



富田林薫さん。面白いです。が、漢字の変換が読みにくて残念に思いました。
小早川忠義さん、吉浦玲子さんの文語作品。日常の些細な光景がどっしりと描かれているところに安心感を得ました。
A.Iさんの世界、とても好きです。


007:スプーンのうた

2008年02月11日 | 題詠2007感想

へこんでるあなたはスプーンゆっくりとひかりをすくうことができるの
あおゆき

三月の雪ふるあしたカフェオレの匂ひのなかにスプーンがまはる
春畑 茜

スプーンのくぼみに唇は滑り忘れてしまへるさと思つた
大辻隆弘

できたての光が沈むコーヒーのカップの底を回るスプーン
内田誠

曲がらないスプーンを持って終わらない世界と共に生き延びている
辻一郎

飲み込んだあともしばらく生ぬるいスプーンを口にくわえたままで
高橋えっくす

好きじゃないかたちのスプーンしかなくてみかんゼリーの蜜柑だけ食む
新藤伊織



スプーンってお題、難しかったですよねぇ??

あおゆきさんの作品。ゆるやかな曲線のスプーンを髣髴とさせる。やさしい。
春畑茜さん。言葉の美しさにいつも目を見張ります。
大辻隆弘さんの作品。ツルンとしたスプーンのイメージが自然と思考回路へ繋がってゆく、その巧みさにうなりました。
(ただ、動詞を「滑り忘れて」と読みそうになり、切れる位置を確かめるのに少し時間がかかりました。)
内田誠さんの作品。光がアクセントになっているようで綺麗です。
辻一郎さん。私は途方に暮れます。

高橋えっくすさん、新藤伊織さんの作品は、なんとはない光景を描いた作品。
このお題のなかで、とても自然な空気が出ていて好感を持ちました。

林あまり歌集「スプーン」大好き。