きがつけばわたしに少しにた種がふたつぶぐらいはつがしていた 富田林薫 いつかって言いながらするキスはもうなにかの種子じゃないかと思う 市川ナツ 街中に種と見紛ふ石ころの芽を生やさむとする振りをせり 小早川忠義 平常心平常心とぞつぶやきてかぼちゃの種をほほばりてをり 吉浦玲子 アボカドの種あたためる鳥たちよ(何も生まれてきませんように) A.I たどたどしい告白に似たつぶつぶの種を数えてやり過ごしている 里原志穂 富田林薫さん。面白いです。が、漢字の変換が読みにくて残念に思いました。 小早川忠義さん、吉浦玲子さんの文語作品。日常の些細な光景がどっしりと描かれているところに安心感を得ました。 A.Iさんの世界、とても好きです。 |
へこんでるあなたはスプーンゆっくりとひかりをすくうことができるの あおゆき 三月の雪ふるあしたカフェオレの匂ひのなかにスプーンがまはる 春畑 茜 スプーンのくぼみに唇は滑り忘れてしまへるさと思つた 大辻隆弘 できたての光が沈むコーヒーのカップの底を回るスプーン 内田誠 曲がらないスプーンを持って終わらない世界と共に生き延びている 辻一郎 飲み込んだあともしばらく生ぬるいスプーンを口にくわえたままで 高橋えっくす 好きじゃないかたちのスプーンしかなくてみかんゼリーの蜜柑だけ食む 新藤伊織 スプーンってお題、難しかったですよねぇ?? あおゆきさんの作品。ゆるやかな曲線のスプーンを髣髴とさせる。やさしい。 春畑茜さん。言葉の美しさにいつも目を見張ります。 大辻隆弘さんの作品。ツルンとしたスプーンのイメージが自然と思考回路へ繋がってゆく、その巧みさにうなりました。 (ただ、動詞を「滑り忘れて」と読みそうになり、切れる位置を確かめるのに少し時間がかかりました。) 内田誠さんの作品。光がアクセントになっているようで綺麗です。 辻一郎さん。私は途方に暮れます。 高橋えっくすさん、新藤伊織さんの作品は、なんとはない光景を描いた作品。 このお題のなかで、とても自然な空気が出ていて好感を持ちました。 林あまり歌集「スプーン」大好き。 |