花夢

うたうつぶやく

題詠2007感想 反省

2008年02月29日 | 題詠2007感想
いまさら、コメントしても、読んでいる方は皆無かと思いますが・・・・。
地味に完走いたしました。

感想を続ける間に、ずいぶん自分の気持ちも変化し、
途中でやめたほうがいいのかなぁ。とも思ったりもしたのですが、
読まずに終えている宝石がその先にあるかもしれない、という気持ちのもと、
結局、なんとか、と言う感じですが、走りきりました。

134名の作品をお借りしました。
いろんな方のお名前を拝見し、作品を読ませていただきました。
題詠への姿勢や、言葉の使い方、感覚やセンス、ほんとうに様々で、
もう、ずいぶんと前のことになってしまうのですが、
こういう方々と一緒に走っていたのだなぁ。と実感しました。

至らない感想ではあったのですが、
触れ合わせてくれてありがとうございました。

2010.5.19

099:茶うた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
5月19日

友の訃報受けし夜なれどなにごともなきが如くに茶を飲みている
西中眞二郎

くちびるの渇きでないと分かりつつ零時を過ぎて緑茶を買いに
磯野カヅオ

失った時は求めずマドレーヌを紅茶にひたし口へとはこぶ
ドール



思いはあるのにそれをはっきりとは語らず日常の光景を描いたような、
そんな静かな感じのする作品が目に留まりました。


098:ベッドのうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
3月14日

万引きもクスリも打てない僕たちはベッドで煙草をばんばん吸って
市川周

漂流する小舟のようなりわがベッド二匹の猫と寄りあいて寝る
黄菜子

体臭のかすかにのこる脱け殻のベッドのシーツをひとりで洗う
つきしろ



市川周さんの作品は、高校生くらいを想定した作品なのかもしれないけど、大人の歌だったら面白いな。万引きもクスリも一生しちゃだめなことなのに、煙草なら大人になったらOKなんだよね。大人らしい合法のやさぐれ。という作ではないか、という期待。「次の記事」をぽちっと押して、その後、禁煙は続いているのかすこし気になる。

黄菜子さんのベッドは、漂流する小舟。ゆらゆら。孤独だけど、猫がいるからすこしほんわりするのがやさしい。

つきしろさんの作品は、ベッドという恋愛を想起させやすいお題のなかで、とても自然にまとめてある作品だなと思いました。



097:話うた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
3月15日

やがて会話はとぎれるようにゆっくりとわたしのなかにとけこんでいた
富田林薫

それっきり給湯室の話題にはのぼらぬ人がカップ洗えり
瑞紀



富田林薫さんの会話は、とても流動的で空気中にたゆたっています。会話の持つ意味や存在感を伝えようとすると、こんなふうに曖昧に描くことはなかなか難しいと思う。
瑞紀さんの作品は、ドラマにもならない小さなドラマを。社会の小さな無神経さと孤独さが、些細な仕草のなかにほのかに残ります。最後にカップに視点がいくのが自然。


096:模様うた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
3月14日

この町のあたしのこころつぶやくと模様を描いたうずまきだった
短歌製造機メカ麦3号(オペ:亀野あみ)

右腕に伸びる唐草模様からあなたは哀しみばかり受けとる
白辺いづみ



うーん。それぞれの模様が広がっていたのですが、逆にそのなかからピックアップを考えると・・・それぞれがそれぞれの模様なわけで・・・うーん。といったところ。

そのなかで、メカ麦君のこころの模様がうずまきというちょっと変な乙女の歌は異色で、心に残りました。スクリプトだから、繋がりが多少粗雑になるのだけれど、それでも「模様」に固執せずに作られているから自由な作になっていると思います。これがメカの成せる技かと思うと、すこし癪でもある。

白辺いづみさんは、模様の意味を定義していないのがいいと思いました。そうではない(部分もある)のに、「あなたは哀しみばかり受けとる」と。


095:裏うた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
3月14日

裏道へ裏道へと行きそうでもう少し寝たほうがいいかと家へ帰る
zoe

裏切らぬことがたやすいこともある 洗濯籠に投げた靴下
村本希理子

裏がへしたら内蔵が剥き出しで蝉の死骸をもとに戻した
大辻隆弘



zoeさんは全編を流れるようにして読むと面白い。そんなふうに詠んでみたい気もするけど、どうしても題詠って作為的になってしまってなかなかこんなふうにライトにいかない。

村本希理子さん。これは幸せな光景なんだろうか?洗濯籠に投げた靴下が、裏切りもしない平凡な日常を垣間見させる。悪い意味ではなく、かと言って、それほど良い意味でもないところで。

大辻隆弘さん。わわわ!そこを切り取るかという情景描写。ここまでインパクトを与えてこそ、と見せつけられました。



094:社会うた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
3月14日

社会からはみだしたまま固まって踏まれ続ける梅雨の晴れ間も
新井蜜

紫木蓮(しもくれん)必ず君は北を指す 社会の渦にのみ込まれずに
みゆ

いつの日かちゃんと社会になじむよう方程式のおくすりを飲む
遠藤しなもん

社会科の教科書濡れて暗がりに臭ふ 殺戮の文字に塗る墨
寒竹茄子夫



「社会」の題詠は難しい!

新井蜜さん。なにかの植物のことなのか、だれか人間のことなのか・・・。
みゆさんの紫木蓮。 つぼみの先が必ず北を向くので、方向を指示する植物「コンパス・フラワー」とも呼ばれているそうです。
遠藤しなもんさん。深刻な未来を考えるというより、「こんなもんだ」というテイストで詠まれているような妙な軽やかさ。
寒竹茄子夫さん。社会科の教科書、伝えられる歴史、事実の不安定さ。「暗がりに臭ふ」「文字に塗る墨」という描写が陰を落としています。


093:祝ううた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
3月11日

裏声になるでも皮肉を滲ませるでもない祝福だからせつない
五十嵐きよみ

たらちねのははが生まれて死んだことを真昼の日射しに祝福される
やすまる

祝祭のしずかなおわり ひとはみな脆いうつわであるということ
笹井宏之



五十嵐きよみさんの作品。皮肉を滲ませない祝福ってのはわかるけれど、裏声にならない祝福ってどういうことなんでしょう。裏声で歌ってしまうような明るい気持ちにならない祝福ということでしょうか。いずれにせよ、祝福は明るくてしあわせなものだと否応なく迫ってくるその存在感。せつなく感じるしかない作中主体が浮き彫りになります。

やすまるさんの作品。読んだ瞬間は「死んだこと」も「祝福」?という違和感を感じました。その違和感を紐解こうとすると、「はは」の死に関する複雑な感情がうずまいているような気もするし、いやもっと単純に生き死にを繰り返すこの世界にそれでも存在したという祝福である気もするし。「たらちねの」という枕詞が、「はは」を個人的な「はは」から、万物の「はは」まで、そして個人的な生死から、昔から続く万物の生死にまで、想起させるような気がします。そして、「日射し」「祝福」という明るい言葉で締めることにより、幸いあれというような明るさを残す、そんな作品の広がりを感じさせました。

笹井宏之さんの作品。「ひとはみな脆いうつわ」というのが心に残ります。脆くもあるけれど、いや、脆いくせに、そこになにかを入れるために存在するうつわ。


092:ホテルのうた

2008年02月29日 | 題詠2007感想
3月11日

ホテルマン畳いっぱい少年をきつく縛って置いて立ち去る
短歌製造機メカ麦3号(オペ:青木麦生)

和歌山の朝のホテルに見てしまう女性歌人の牛乳立ち飲み
あいっち

逃げてきたホテルの部屋でしたためるメールに一羽鳩がまぎれる
ひぐらしひなつ



情景描写の歌が多いので、ついついするっと通り過ぎてしまう。
でも立ち止まると実は面白い作品が隠れていたり。

さて、どうしよう。と思って、とりあえず、メカ麦君のシュールさをピックアップしてしまった。
このシュールさは、ある意味、メカの成せる技かも・・・・。

そういう点では、あいっちさんの光景もある意味シュールな感じがしますが、人間味あって面白いです。

ひぐらしひなつさんはさすがですねぇ。必ず自分の情景へと引き込んでしまうその手腕に脱帽です。