武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

087. ヴァイデンを観るために -パリ・ボーヌ・ディジョン旅日記-(上)-Paris-Beaune-Dijon-

2018-12-17 | 旅日記

-Prologue-

 

 サロン・ドートンヌの搬入日が11月8日。それに合わせてのパリ行き。
 今までは画家誰かの足跡を辿る、というテーマの旅が多かった。そして少しずつ新しい、現代に近い画家が望ましいのではと思っている。
 一昨年はルオー、昨年はアンドレ・ドランだったから次はアンドレ・ドランと同時代のマルケかそれともデュフィか。
 でも日程のこともあるし、マルケならボルドーが外せないだろうし、デュフィなら又、コート・ダジュールか?
 距離と言うこともある。パリからあまり遠くへ離れるのも経済的な負担にも繋がる。
 いずれは企画をしたいと思っているが、クールベやドラクロワは時代が遡るので今回は「ちょっと」と避けたい。
 画家とは関係なく、フランスの地図を広げてみて1~2時間で行くことの出来る範囲。
 かつてのブルゴーニュ公国の首都、ディジョンが浮かび上がった。そしてもう一箇所ディジョンの南ボーヌという町である。ディジョンの北東にクールベゆかりのオルナンがあるがあえて避けた。
 ディジョンへは1974年頃行った記憶はあるのだがあまりの年月の隔たりに初めて訪れるのと同じだ。
 結局、今回はパリ3泊、ボーヌ2泊、ディジョン2泊、パリ1泊、全部で8泊の例年より1泊長い旅となった。
 かなり早いうちから全ての予約をネットで取っておいた。イージージェットの往復航空券。TGV。パリ、ボーヌ、ディジョンのホテル。予約をしてしまってからボーヌに重要な絵があることが判った。

 

2010/11/06(土) 晴れのち雨 / Setubal - Lisbon - Paris

 

 自宅を始発から一つ、1時間遅い6時発のバスで出発。リスボン空港であまり時間をもてあますこともなく、丁度良かった。
 パリに着くとやはり予報通り雨だった。
 サロン・ドートンに出品の100号の作品を預けムッシュ・Mのクルマでホテル近くまで送っていただく。
 今回はネットで見つけた初めてのホテルでディジョン方面に行くには都合の良いパリ・リヨン駅からすぐのところだ。
 今まで使っていたサンミッシェルより少し安いので不安だったが想像以上に良かった。良かったので [Booking.com] の口コミ評価で僕は10点満点を付けてしまった。
 グラン・パレで大規模な「モネ展」が開かれていると言うことは前もってインターネットで調べていたし、パリ在住の画家溝口典子さんから「モネ展は評判が良いですよ」というメールも頂いていたので、これは是非観なくてはと予定に入れていた。早速、メトロでモネ展が催されているグラン・パレへ。
 でも雨の中長い行列。しかも少しも前へ進まない。
 諦めることにした。いくら大規模とは言えモネはこれまでいやと言うほど観ている。いや「いや」、と言うことはないが、相当観ている。
 当初はモネを今年のテーマ…とも考えてみた。
 モネゆかりのジベルニーとルーアンやノルマンディ地方へは数年前も訪れているし、オランジュリーとマルモッタン美術館へもつい最近も訪れているので足跡を訪ねる旅は済んだも同然ではないだろうか?でも体系的に纏めることまではしていない。
 再びメトロで IKUO さんの店へ。ちょうど IKUO さんも居られたし、KEIKO さんもお元気そうな様子でゆっくり話すことも出来て良かった。

 

2010/11/07(日) 曇り時々雨 / Paris


 朝食を早くに済ませ歩いて1駅のバスティーユの朝市に出掛けた。ホテルからサン・マルタン運河がセーヌに注ぎ込んでいるところから運河沿いに歩く。
 寒いけれど雨にも降られず気持ちの良い朝の散歩だ。
 サクランボほどの小さな真っ赤な姫りんごだろうか?見上げる木にたくさん鈴なりに生っている。紅葉の残りと菊の植栽が美しい。
 フランスの朝市は見ているだけでも楽しい。場所によっても少しずつ個性があり見飽きることはない。
 きょうはパリの美術館は殆どが無料だ。
 バスティーユの朝市が途切れたところにメトロの入り口があった。メトロとRERを乗り継ぎオルセーに行った。
 ここでも行列があるかも知れないとも思ったが、それ程でもなかったし、どんどん進んでいる。
 上がっていた雨が少し降り始めたと思ったらすぐに傘売りが数人何処からともなく出現したがだれも買う人はいない。
 陳列の様子が様変わりしていた。上階は工事で閉鎖され、下の階に主だった絵が陳列され、作品数はかなり少なく、しかもぎっしりと陳列されていたからか?撮影は禁止になっていた。
 一角でジェロームの特別展が行われていた。Jean-Leon Gerome [1824-1904] は新古典派の画家で彫刻家でもある。当時台頭してきた印象派と対峙したサロン(官展)の大御所である。コルモンやカバネルなどと共にたびたび近代美術史に名前を馳せる人物で、印象派や後期印象派など当時の革新派、ゴッホやロートレックなどからすれば悪名高き?と言うことになる。
 でもデッサン力は勿論のこと色彩の冴えハイライトの使い方などさすがと言わざるを得ない。
 昼食はオルセーのカフェテラスで。と思っていたがここでも長い行列。諦めざるを得ない。
 小雨の中歩いてルーブルに。ルーブルには長い行列が出来ていた。入り口の整列枠をはみ出してガラスのピラミッドをすっぽり1周取り巻き更に裏側のルーブル・リボリ方向へと列は延びていた。


01.雨の中ルーブルは長い行列

 ルーブルでこれ程の行列を見たことがない。しかもあまり進んでいない。ここでも諦めることにした。
 ルーブル・リボリ駅からメトロでベルビルまで行き北京ダックラーメンで遅い昼食。ベルビルは昼食、夕食以外の時間帯でも食べられるから便利だ。
 午後からはポンピドーセンターにした。行列は全くなかった。
 ここもいつ来ても陳列替えがあり実験的な面白い構図のアンドレ・ドランやピカソ、ブラック、レジェなど新たな作品もたくさん観ることができた。


2010/11/08(月) 曇り時々雨 /Paris

 

 ホテルからバスティーユまで歩き更に一駅ほど歩くとピカソ美術館だ。
 バスティーユの朝市が今日もやっているかなと期待して歩いたがやっていない。この日の午前中は久しぶりにピカソ美術館を予定していた。前まで行ってみると閉まっていた。閉ざされた門には張り紙があり、2012年春まで工事で閉鎖とのこと。
 インターネットで何でも調べることの出来る時代。これは迂闊であった。
 途中カフェに立ち寄りながらルーブルまでゆっくり歩くことにした。
 昨日は長い行列で諦めたルーブルだったが、きょうは少しの行列で殆ど待たずに入ることができた。
 外は雨模様だし、ルーブルで丸1日過ごすのも悪くない。
 ルーブルに入ってもテーマを持って観る事が最近は多いが、今日は別にテーマはない。まあ、しいて言えば絵画を中心にというところか。
 シャルダンなどは今までに観たことのない作品が多く展示されていた。
 何人もの画家が模写をしているが観光客が多くて落ち着いて描くことが出来ないのではないだろうか。年々、パリの美術館の観客が多くなっている様な気がする。


02.ルーブルで模写をする人


03.ルーブルのルーベンスの部屋

 ドラクロワ、ジェリコー、クールベなど古い画家と現代の変なプリズム的な写真とを対比させた奇妙な企画の展示スペースがあった。昨年アングル美術館で観た企画と共通する様なもので、贅沢な企画だが、観ていてあまり良い気持ちはしない。昔の画家を冒涜している様にも見える。
 現代の学芸員の資質を疑ってしまう。そう思っているのは僕だけだろうか?
 久しぶりにモナリザとミロのビーナスも観たがモナリザなど以前とは陳列も変わってえらい人だかりに面食らってしまった。あれではジョコンダさんも赤面してしまわれる。

 

2010/11/09(火) 曇り時々雨/ Paris-Beaune

 雨ばかりで仕方がない。朝は市立近代美術館で過すことにした。美術館前にはまたしても長い行列。
 とりあえず一番後ろに並び、前の人に聞いてみると特別展の行列だとのこと。一番前の整理係りの人に更に聞いてみると、常設展の入り口は別だとのことでそちらに行ってみると、ガラ空き。

 今年の夏ごろだったか?この美術館からモディリアニなどの作品が数点盗難にあったことはニュースで大きく取り上げられた。さぞセキュリティは厳重だろうな。とは思っていたが、空港よりもオルセーよりも至って簡単で、上着を脱ごうとすると「そのまま通って」と言われた程であった。
 ここでも特別展のため、会場は縮小されていたが、今まで観たことのないルオー、スーティン、モディリアニなどがあって良かった。
 例によってデュフィの大壁画を観る。これを観るだけでも毎年この美術館へは訪れる値打ちがある。


04.デュフィの大壁画「エレクトリックシティ」一部


05.大壁画の一部 (おおよそ 1/100 か?)
 地階の会場でガザの写真展が行われていた。Kai Wiedenhöterというドイツ人フォトジャーナリストの個展で、目を背けたくなる様な場面も多く写真の訴える力に凄みを感じた。そして構図が一貫していて個性を感じると共にパネル1枚1枚の芸術性が非常に高い。

 

06.


07.ガザの写真展

 午後のTGVでボーヌへ。ディジョンでTGVからローカル線に乗り換え。リヨン近くで事故があったらしくディジョンからの電車にダイヤの乱れ。30分遅れでボーヌに着き、道行く人に尋ねながらホテルに到着。
 ホテルは元修道院の一部と言うだけあって雰囲気は良くしかも現代風にリメイクされていて快適。


08.ボーヌのホテル


09.ホテルの寝室

 

2010/11/10(水) 曇り時々雨 / Beaune

 ビュッフェ式の朝食もグレードが高くて全てが美味しかった。ボーヌ名物のジャンボン・ペルシェなどもあり、試食できて良かった。そしてたっぷり食べ過ぎてしまった。
 早速、オテル・デューへ。入り口前のマルシェには小さな朝市が出ていた。


10.オテル・デュー中庭

 オテル・デユーとは「神の館」という意味だ。あでやかな屋根をもつこの病院は1443年、ブルゴーニュ公の大法官であったニコラ・ロランと彼の妻によって建てられた。今も15世紀当時の病棟がそのまま残されており、当時の教会や第二次世界大戦中も使われた病室、厨房、調剤室などを見学することができる。またこの病院が所有していたブドウ畑は当初1300ヘクタールもあったが現在58ヘクタールと縮小されてしまったとか。それでもグラン・クリュ(特級)のワインとして人気は高く、売り上げは建物の修復などに使われている。見逃せないのは、サン・ルイの間にあるロジェ・ヴァイデン作「最後の審判」の装飾屏風。-後略-(地球の歩き方「フランス」ダイヤモンド社より)
 ということでこの ロジェ・ヴァイデン Rogier van der Weyden [1399/1400-1464] の絵を観ることを今回の旅のメインテーマとした。
 ロジェ・ヴァイデンの作品はリスボンのグルベンキャン美術館にも小さいのが2点ある。
 以前にカーンの美術館で聖母子像を観て感激もした。
 今までに観たどの作品も素晴らしいものばかりで最も好きな画家の一人だ。特にヴァイデンの小品、肖像画には絶大な魅力を感じている。
 レオナルド・ダ・ヴィンチより更に53年古く、今、人気の高いフェルメールより233年も昔の画家だ。
 3人の画家に共通して言えることは描く人物(神)に崇高な気品が漂っていることではないだろうか。
 当初、古いからと敬遠したクールベやドラクロワどころではない、クールベより420年も、遥かに古い画家が今回の旅のテーマとなってしまった。ここまで古いと「まあ、ええか」と納得せざるを得ない。
 暗く閉ざされたサン・ルイの間ではヴァイデンの「最後の審判」に正に神々しいばかりの照明で作品を浮かび上がらせ観るものを圧倒する。
 今までに観たヴァイデンでは最大の作品だ。(215x560cm)
 代表作はルーブルやプラド美術館にもあるがこのボーヌの祭壇画も代表作の一つだ。
 観ているのは「ボンジュール」と笑顔で挨拶を交わした監視員のお嬢さんと僕たち2人の3人だけ。パリの美術館の行列、モナリザの人だかりが嘘のように感じる。

 


11.ヴァイデン作「最後の審判」中央部分。両端が1枚ずつ切れている。


12.下段左部分


13.下段右部分
 その他、タピストリもわざわざ行ってでも観る価値があると感じた素晴らしいものが数多くあった。


14.タピストリ
 ブルゴーニュ公国が繁栄した時代、この地にフラマン派の画家を招請し、たくさんの歴史的価値の高い絵画がこのブルゴーニュ地方で生れた。その多くはその後ルーブル美術館などに移されたが、少しはこの地に残されている。
 ホテル近くのブラッセリでブルゴーニュワインと共に遅い昼食。


15.ポワソンのテリーヌ


16.ミートボールのミートソースパスタ


17.ショコラタルト

 午後からはワイン博物館を見学。ブルゴーニュ地方といえばブルゴーニュワインとしても名高い。11月の第3週にはここボーヌでブルゴーニュ最大のワイン祭りが催され世界各地からバイヤーや観光客が集まるとのこと。我々にとってはそれと重ならなくてかえって良かった。
 ワイン博物館の展示もやはりセンスが良く見応えがある。各部屋には説明文のプリントが各国語で配され日本語までもがあった。ワイン好きの日本人観光客も多く訪れるのだろう。昔の樽造りの様子をドキュメントした白黒映画が上映されていて面白かった。


18.ワイン博物館


19.ワイン博物館の展示

 

087. ヴァイデンを観るために -パリ・ボーヌ・ディジョン旅日記-(下)-Paris-Beaune-Dijon-へつづく。

 

(この文は2010年12月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

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