武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

042. 大統領選挙投票日/日曜の美術館 Eleições Presidenciais/Museu do Ciado

2018-11-06 | 独言(ひとりごと)

 昨日は第4日曜日、リスボンのシアード美術館に出かけた。

 クルマがなかった頃、日曜日にリスボンに出ることは殆どなかった。日曜日にはバスや列車の本数が極端に少なくなってしまうから結構大変なのである。
 今は逆にリスボンに出るのは第三日曜日と決めている。クルマが少なく走りやすくて、標識をじっくり見ながら運転が出来るから、道に迷う事もない。それに路上駐車は無料だし、停めるスペースも見つかりやすい。
 でもリスボンに出ても殆どの店は閉まっているから、買物などは出来ない。それでも中華食品店「陳氏超級市場」だけは年中無休だから重宝する。ここで大根、白菜、豆腐、油揚げ、醤油それに魚丸(すり身団子)や漬物類も豊富。干し椎茸や業務用「粉ワサビ」まで揃っている。もしかしたら日本で買うより安い。

 それともう一つの目的、美術館である。日曜日の美術館は午前中に入れば無料である。

 普段の日曜日の楽しみは露天市歩き。第一日曜日はアゼイタオン。第二日曜日にはピニャル・ノヴォ。第三はコイナであるが、そこには行かない。
 そして第四日曜日はモイタである。
 何を買うでもないのだが、一通り歩くだけでも2~3時間はかかるから普段の運動不足解消にせっせと通っている。何もないところを歩くよりも品物などを見ながらだから自然に1万歩くらいは歩けてしまう。
 第三日曜日のコイナにだけは行かないことにしているのは他に比べて規模が少し小さいことがその理由だ。あまり運動にならない。

 第三日曜日はコイナを素通りしてリスボンの美術館の日である。リスボンにはたくさんの美術館があるから順繰りに観ても結構楽しめる。

 先日の第四日曜日には大統領選挙投票日であった。僕たちには投票権はない。
 モイタの露天市だから行く日だが、選挙の日は露天市は休みの筈である。それで朝からシアード美術館に行くことにした。

 テレビで宣伝をしていたのである。
 「マティスを中心とした野獣派の展覧会」
 シアード美術館の常設はポルトガルの近代画家の美術館であるが、時々企画展も行われている。以前にもピカソの肖像画ばかりを集めた展覧会といったものなど、比較的小規模ながらなかなか興味深い企画展を催る。

 シアード美術館のすぐ裏通りに駐車スペースを難なく見つけることが出来た。シアード地区はリスボンの7つあると言われている丘のひとつで、ここからは真正面にカテドラルとアルファマ地区、それにテージョ河が見事で、まるで絵葉書の様なパノラマが望める。
 日曜日なので人通りは少ないのに、美術館通りに入ると結構人が歩いていて、どんどん美術館に吸い込まれて行く。テレビの宣伝効果は大の様だ。企画展なのにやはり日曜の入場は無料であった。

 この美術館では、企画展に、2階に上ってすぐ左の一部屋を使う。ピカソの時もそうだったし、ポルトガルの古い写真家の展覧会もそうだった。
 サン・フランシスコ修道院を改装して美術館にした建物で、この部屋の壁の一部は煉瓦のカマドの様なものが、そのままインテリアとして残されていてなかなか趣がある。元は修道院の台所だったのかも知れない。

 入ってすぐの壁面にマティスが3点あった。若い頃の小さい人物画である。その隣にルノワールの晩年、カーニュの風景画。<マティスを中心とした…>という謳い文句の割にはマティスは小さいのが3点だけとは少々ガッカリだなあと思っていた。
 それに続いてルイ・ヴァルタの作品が10点ばかり、正面には一目で判るスーティンの20号くらいの風景画が1点。これもカーニュの絵でこれは良かった。それにアンドレ・ロートの作品が5点。
 全部で25点程の展示であったが、まあスーティンを観ることが出来ただけでも来た甲斐があった。
 この美術館にはポルトガルの近代の好きな画家がたくさんあるのでそれを観るのも楽しみである。と思って次の部屋に進んだ。

 その部屋に入って驚いたことに、マルケがたくさんあるではないか。フォーヴィズム展はまだ続いていたのだ。
 しかも先日、NACKの [BIOGRAPH] に解説を入れてもらったばかりの「フォーヴの裸婦」そのものが飾られているのには驚いた。
 この作品を観るためにいずれボルドー美術館に行かなければならないだろう。などと漠然と思っていた矢先である。
 ボルドーには以前にも行った事はあるし、恐らくこの作品も観てはいるのだろうが、印象には残っていない。随分昔の話だ。
 マルケはその作品を含めて21点の展示である。
 1898年の初期の人物画から1942年の晩年のアルジェリアの港風景まで、マルケだけを取り上げても実に充実している。よく観るとこれは全てボルドー美術館の所蔵品であった。マルケはボルドー生まれだから充実して当然なのかも知れない。

 3室目もフォーヴィズムで結局57点の見応えのある企画展であった。

 その他にもう2室ではフォーヴィズムに関連のポルトガル画家の作品も20点ばかりが展示されていた。
 美術館は空いていてじっくりと鑑賞することができ、カタログを買って満足して美術館を後にした。

 帰りの道筋では人通りが多く、住民たちがあちこちの町角で声高に、或いはひそひそと議論をしているのを多く見かけた。投票の行き帰りの住民たちだ。
 家に帰ってテレビを点けると大統領選挙の開票速報が始まろうとしていて、どのチャンネルを回しても慌しくて大掛りなセットが作られていた。

 結果は比較的すぐに出た。
 PSD(社会民主党)のカヴァコ・シルヴァ[Cavaco Silva] 50,6%
 社会党非公認?のマヌエル・アレグレ[Manuel Alegre] 20,7%
 PS(社会党)のマリオ・ソアレス[Mario Soares] 14,3%
 PCP/CDU(共産党)のジェロニモ・ソウザ[Jeronimo Sousa] 8,6%
 BE(左翼党)のフランシスコ・ロサォン[Francisco Louça] 5,3%
 PP(市民党)?のガルシア・ペレイラ[Garcia Pereira] 0,4%で

 カヴァコ・シルヴァが圧倒的勝利をものにした。投票率は70%を上回ったという。
 ポルトガル国民の政治への関心の高さがうかがえる。

 僕たちが住み始めた16年前はマリオ・ソアレスが大統領でカヴァコ・シルヴァが首相をしていた。
 大統領と首相の党派が違い、それなりに歯止めがかかった政策に国民は満足していた様に思う。
 マリオ・ソアレスの任期が終わり、その後を受けて首相のカヴァコ・シルヴァと当時のリスボン市長だったジョージ・サンパイオが闘った。
 結果、57%ほどの得票を得てPSのジョージ・サンパイオが大統領になった。
 サンパイオ大統領の任期中はPSDとPSが交代で首相と内閣をする形が続いていた。
 2年前くらいだったかPSDから出た首相のドラン・バロッソがEU議会議長に選出された。大変な抜擢である。
 その後を受けて、PSDのサンタナ・ロペスが横滑り?して首相になり組閣を行った。
 それを大統領のサンパイオがリコールして選挙になり、今の首相のジョゼ・ソクラテス政権が出来上がった。
 今は大統領も首相以下閣僚も全員がPS(社会党)である。

 それに対して今回、国民は「NO」を言ったのだろうと思う。
 常に大統領と閣僚は別の党であるのが相応しいのだと…。

 ちなみに我がセトゥーバルでの得票では共産党のジェロニモ・ソウザが全国平均8,6%の約2倍の16,2%を獲得しマリオ・ソアレスを抜いて3位に付けた。

 永かった選挙戦も終わり投票から一夜明けたセトゥーバルの街はすっかり静けさを取り戻している。
VIT

 

 

(この文は2006年2月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しずつ移して行こうと思っています。)

 

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