武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

187. 灯台守 Faroleiro

2021-08-01 | 独言(ひとりごと)

 セトゥーバル半島の西の端にエスピシェル岬がある。古い教会があり、教会とは別の岬に灯台がある。春にはその広い台地に無数の野の花が次から次に咲き、野の花の観察に行く。

エスピシェル岬灯台と大西洋の水平線

 灯台の正門のところにクルマを停めると直ぐに犬が門の傍までやってくる。大型犬だが優しい目をした可愛い犬だ。犬種は知らないがたぶん猟犬なのだろう。

 犬に挨拶をした後、その辺りを歩き回るのだが、結構な広さがあり、普段の運動不足解消にはもってこいだ。既に数えきれない程訪れているがたいてい初見花が見つかるし、花を撮影するのに、空と海と崖をバックに良い写真が撮れるので楽しみはおおきい。

 コロナ禍に入ってからもその規制の合間を見つけて何度かは訪れている。規制は時々により厳しくなったり、ならなかったりころころと変わる。セトゥーバル市から一歩も出られないこともあるし、自治体を跨ぐ移動の禁止だとかいろいろだ。罰金を取られたという話も聞く。

 僕はお城の鐘楼や大阪の通天閣など高い所に上るのは好きだが、いままでにたぶん灯台というところには上ったことがない。そして灯台など単独での高い建造物を描くのは苦手だ。

 高校生の時、友人が灯台の絵を描いた。友人の地元、堺市の灯台だ。木造でレトロな感じで絵も良かった。その灯台が建っている場所は陸地の中にあり、もはや使われていない灯台だった。埋め立てられ海岸線がどんどん遠くに離れ古い灯台だけが取り残されたのだ。

 灯台など高い建造物を描くのが苦手なのは空が広くなってしまうからだ。僕の絵は空を極力抑え、全く描かないか、描いても1割程度。

ロカ岬灯台

 ポルトガルにはエスピシェル岬灯台の他にも、ロカ岬やサグレス岬にも灯台があり、そこでもまた違う花の観察が出来るがコロナ禍以来そこへも行くことは出来ないでいる。

 ロカ岬はヨーロッパ最西端、いやユーラシア大陸最西端と言うことになり、観光客の絶えることがない。

 サグレス岬もポルトガルの西南の端っこになりかつてエンリケ航海王子が航海学校を開いたところで、それが大航海時代の先駆けとなった重要な岬でもありそこも観光客が多い。

 でも今は静かさを取り戻し本来の美しい岬であるに違いないが行くことが出来ない。

 ポルトガルの海軍大学を卒業すれば最初の勤務は大抵が僻地の灯台守だそうだ。

 アルガルベ地方の中心都市はファロ(Faro)という。語源を調べてみると『灯台のある場所』と言う意味らしい。ファロにも数えきれないくらい訪れているがファロの灯台は未だ見ていない。

 先日、マイケル・ファスベンダーとアリシア・ヴィキャンデルそしてレイチェル・ワイズ主演の灯台守の映画『光をくれた人』(The Light Between Oceans)2016年の映画を観た。

 この映画も3度目か4度程は見ているが、哀しい映画だ。第1次世界大戦に4年間従軍した主人公が戦争の終わりと共に孤島での灯台守勤務を志願した。やがて島の対岸の拠点町に住む地元の女性と恋に落ち結婚し、二人の楽しい灯台守生活が始まった。直ぐに妊娠したものの流産してしまう。2度目の妊娠も流産となった。そんなある日、小さな手漕ぎボートが漂流しているのを発見する。ボートには既に死んでいた男性と元気な女の子の赤ん坊が乗っていた。男性を埋葬し、赤ん坊をルーシーと名付け、自分たちの子供として育て始める。

 映画の詳しい内容をこれ以上は書かないが、美しい風景と俳優たちの演技力は見応えがあり良い映画だと思う。マイケル・ファスベンダーとレイチェル・ワイズの実力派演技は勿論だがアリシア・ヴィキャンデルの演技も魅力的だ。アリシア・ヴィキャンデルはスウェーデン出身の女優だ。

 僕は20歳代の頃に4年半をスウェーデンに暮らしたこともあり、スウェーデン人の俳優にはいつも注目して観てしまう。スウェーデン出身の女優にはグレタ・ガルボやイングリッド・バーグマンを筆頭に、その他にも多くのハリウッドで活躍する女優が居る。最近ではレナ・オリンとこのアリシア・ヴィキャンデルに注目だ。

 灯台守と言えば母を思い出す。僕が未だほんの子供の頃に母はよく鼻歌で歌っていたものだ。

おいら岬の灯台守は 妻と二人で沖行く船の 無事を祈って灯をかざす 灯をかざす

冬が来たぞと海鳥啼けば 北は雪国吹雪の夜の 沖に霧笛が呼びかける 呼びかける

離れ小島に南の風が 吹けば故里思い出す 思い出す

星を数えて波の音きいて 共に過した幾歳月の よろこび悲しみ目に浮ぶ 目に浮ぶ

『喜びも悲しみも幾歳月』というタイトルの映画の主題歌だそうだ。1957年。160分の映画で監督・脚本は木下惠介。主演は高峰秀子と佐田啓二。主題歌は若山彰が歌っている。

 いや、母だけではなく日本中で口ずさまれた歌だ。判りやすい歌詞と歌い良いメロディ。

 昭和7年(1932年)から25年にわたり戦前・戦中・戦後を通して日本各地の灯台で船の安全を守り続けた灯台守とその妻の半生を描いた長編作。残念ながら僕はこの映画は観ていないと思う。母は観たのであろうか?

 正確な歌詞を書くために検索をした。これについてもいろいろと書き込みがある。『僕は最近まで長いこと<オイラ岬>という所があるのだと思っていました。』には笑ってしまった。

 ほんの子供の頃、母に連れられ何度か映画館に行った記憶がある。グレゴリー・ペックであったり、大川橋蔵であったり、美空ひばりであったり。映画館から出て帰り道、母はこんなことも言った。「大川橋蔵かっこ良かったな~。比登志も映画俳優になるか~」「なるんやったらそれの勉強させたるで~」と冗談とも本気ともとれない話であったが、僕は人一倍人見知りをする性格だし、とうていその様な華やかな世界は無理ではあった。

 近所には漫才師に三味線を教えるお師匠さんが居られたが、まさか僕に三味線を習わせる積りでもあったのだろうか?

 灯台守の映画『光をくれた人』の子役が又良い。フローレンス・クレリーという女の子だがその自然な演技、あどけない可愛らしさはこの映画のハイライトで心を打つ。

 僕は今、海外に暮らしている。そしてコロナ禍の下、人との交流は殆どなく、大西洋の水平線と沖行く貨物船を見守りながらの蟄居生活は灯台守の生活の様なものなのかもしれない。VIT

エスピシェル岬灯台

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