武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

092. 運転免許更新 -Cartao Conducao-

2018-12-26 | 独言(ひとりごと)

 ポルトガルの運転免許の有効期限は10年である。
 10年前に日本の免許証から書き換えて10年が経った。

 以前はポルトガルの免許は無期限だったらしい。だから80歳くらいの老人でも18歳の写真のままで乗っていたそうだ。それはあんまりだ。と言うことで、10年になったのかも知れない。

 かつて持っていたスウェーデンの免許証も10年だった。
 ポルトガルの法律も最近いろんな面で変りつつある。
 他のユーロ諸国に歩調を合わせてのことなのか…。

 運転免許の更新が法律改正に伴なっていろいろと変化していて、知らずに今まで通りだと思っていたら複雑に随分と違って、困っている人がかなり居ると聞かされていて、いささか緊張していた。

 10年前、日本の免許証から書き換えるのにACPが代行でやってくれると言うので、ACPに入会した。
 ACPとはポルトガル自動車クラブのことで、日本のJAFにあたる。

 毎年高い会費を納めているが、万が一の事故、故障の時にも電話1本で対処してくれるので安心だから、そのまま10年間、会費を払い続けている。
 毎月面白くもないポルトガル語の冊子が送られてくる。

 1度は郊外の田舎道で故障をしてしまい、ACPに入っていたお陰で随分と助かったこともある。
 日本に帰っている2~3ヶ月の間、クルマは放ったらかしなので、一応バッテリーは外してから帰国するが、うっかりとした時にはバッテリーが上がることもしばしばあった。そんな時も電話1本で対処してくれて、助かっている。

 免許証の期限は今年の12月である。
 半年前から手続きが出来るというので、先月、緊張してACPの事務所に行ってみた。
 事務員は僕の免許証を眺めて「これは大丈夫。変更になった法律には該当しないから」と自信満々だった。
 そして「未だ期限には少し早いから来月に入ったら又来なさい。顔写真を持って。」と言う事だったので、その来月、つまり7月に入って早速行った。顔写真1枚を持って。

 いろいろ書類を作ってくれて、あとは健康診断が必要だと言って、その診療所の予約もしてくれた。事務所から表へ出てきて「番地は判らないけど、あの辺りよ」と指差す。
 帰り、確かめに行ってみたがその辺りには美容院とマッサージサロンしかない。その前をうろうろしていたら中からおばさんが出てきて「確かにここです」と言ったのでそのまま帰った。

 予約の前日は丁寧に身体を洗い、その朝は新品の下着にはき替え早々に昼食も済ませ、予約時間に遅れない様、早い目に出掛けた。
 駐車スペースがすぐに見つからないかも知れなかったし…。でも予約は3時10分だったが、その場所に着いたのは3時5分前の予約より15分前であった。

 扉ははたして閉まっていた。1時から3時までは昼休みだ。と思っていたら、扉が開いた。
 中から男が出てきた。予約の書類を見せると「中で座って待ちなさい」と言う。どうやら医者ではなくマッサージ師の人らしい。
 3時ちょうどにチャイムが鳴った。マッサージ師が扉を開けると男が入ってきた。そしてマッサージ師は僕のことをその男に耳打ちしている。どうやらそれが医者の先生らしい。

 奥に引っ込んだかと思うとすぐに白衣に着替えてきて「どうぞ、こちらへ」と小部屋へ案内してくれた。

 デスクを挟んで事務椅子が2つあり、診療台もある。或いはマッサージ台とも見える。この医者は週に1回か2回この場所を借りてACP専属の健康診断を行っている。と言ったところだろう。と思った。

 書類にペンを走らせながら、簡単な問診。
 「医者にかかってないか?」とか「薬を常用していないか?」と言ったことと血圧検査、それに聴診器。「大きく息を吸って~。ハイ、吐いて~」と先生も同じに息を吸ったり、吐いたり。「私の声が聞こえますか?」と「目は大丈夫ですか?」それで終り。視力検査はなし。

 僕の緊張が嘘のようだった。これだけで後はACPが全てをやってくれるのだろうか?
 診断を終えて待合室に出ると他に3人の男女が待っていた。そして医者は「お次の方~」とか細い声で言った。

 10年前にポルトガルの免許に書き換える以前は、毎年日本から国際免許を取ってきていた。スウェーデンでも国際免許を取ったこともある。
 スウェーデン以外のヨーロッパを運転するのに必要なのだと思ったからだが、一度も提示を求められたことはなかった。

 ポルトガルの免許を取って10年になるが、それも1度も提示を求められたことはない。ヨーロッパでは免許証よりも保険と車検証の提示を先ず求められる。だからと言って無免許と言うわけにもいかない。フランスなどでレンタカーをする時には必要だし、身分証明書代わりに使うこともある。

 先日、ゴルフの石川諒は国際免許で日本を運転していて無免許運転で捕まった。
 アメリカで取った免許の国際免許だが、免許を取得してからのアメリカでの滞在が3ヶ月に満たなかったための国際免許の無効を告げられたのだそうだが、複雑な成り行きで石川諒がいかにも可愛そうだ。
 アメリカが発給したと言うことは、日本以外の外国ではそれで運転は出来るのだろう。日本だけ例外ということになる。そんな法律が意外と多い。

 僕はポルトガル以外でもスペインやフランスなどヨーロッパではそのままポルトガルの免許証で運転している。

 日本の免許証も英語を併記すれば外国でも通用するのではないのだろうか?

 僕は日本の免許は2種以外は全部持っていて、大型、大型特殊、牽引そして大型2輪もある。
 10年前、それをポルトガルの免許に書き換える時に目の検査に引っかかってしまい、「大型の場合普通車より厳しく眼鏡が必要」と言われてしまった。

 ポルトガルで眼鏡を買うには先ず眼科医の予約をしなければならない。その処方箋を持って眼鏡屋に行って眼鏡を買う。そしてそれから予約を取りなおしてまた検査。と言われた。
 そんなに大変なら「それなら普通車だけでいいです」と言ったので、ポルトガルの免許は普通車と2輪だけとなっている。

 でもそもそも日本でもどこでも大型などに乗ったこともないし、ましてや大型特殊、牽引も試験場で受かって以来運転席に座ったこともないのだから、必要は全くないのだ。
 もしも喰えなくなった時にはこの免許がきっと役に立つかも知れない。とも思わなかった。
 何となく試験場に受験仲間が出来て通っている内に受かってしまったのだ。牽引にしても大型特殊にしても3回目のまぐれで受かったものだから、「いま、運転してみろ」と言われても無理かも知れない。大型特殊とはブルドーザなどの重機で牽引とはトレーラーだ。

 日本では兄のクルマを借りるかレンタカーをしてたまに運転するくらいだが、4年に1度の更新を欠かすことはできない。本来なら5年に1度だが、誕生日の頃には日本に居ないから事前更新ということになる。それで1年分が短くなる。

 僕は昭和40年4月8日、18歳で初めて普通車の免許を取った。
 鳳自動車学校というところだった。当時、自動車学校が雨後の筍の様に乱立してきた時代で、その中でも鳳自動車学校は比較的大手であった。ピンクに塗られた少し旧型で観音開きのトヨペット・クラウンが授業で使う車であった。

 今の様な単位制ではなく、小学校の様にクラスが決められ、同じクラスの人とは決められた時間に、同じ授業を受け、同等に上がって行き同時に卒業して、免許取得という仕組みで、 余程の落ちこぼれでない限り同時に免許取得が出来ることになっていた。クラスは20名位だったと記憶している。その中で僕が1番年下だった。

 僕の前期は落ちこぼれ寸前の惨憺たるものであった。
 先ず、入学して点呼を取られた時、僕の名前に誤字があった。<比登志>と書くところを<比登子>と書かれてあった。教官はあからさまに「なんや、男かァ!」と不満そうであった。
 実技初日、開始早々に僕は他のクルマに追突してしまった。教官が座る助手席にもブレーキが付いているのだが、その教官にブレーキを踏ませる暇がなかった程すぐの出来事であった。2台のピンクの車体がへこんでしまったのだ。校内事故である。そのことが後を引いてか。僕の成績は惨憺たるものであった。

 同じクラスで1歳年上の樽本さんなどは、真剣に僕のことを心配してくれたものだ。その樽本さんは今、どこでどうしているだろう。などとふっと思うことがある。
 でも後期には皆に追いつき、そこそこの成績で他のクラスメートと一緒に見事免許交付までこぎつけたのだ。それには鳳自動車学校の校長先生までもが喜んで下さった。

 18歳で免許を取らせてくれた父母と鳳自動車学校には感謝している。
 クルマの免許があるとなしとでは見る世界も広がりも違う。
 もしその時、受かっていなかったら、僕の人生も随分違ったものになっていたのかも知れない。

 その後、数え切れない回数、免許の更新を行ってきた。その時を忘れて、失効してからの更新もある。
 
 そしてポルトガルでは10年目にして初めての更新。
 さて、簡単すぎたポルトガルの更新手続き、本当に新しい運転免許証が僕の手元に届くのだろうか?  VIT

 

(この文は2011年8月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログ転載しました。)

 

 

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