今回からはシンポジウムのおさらいです。シンポジウム当日の午前中には「スウェーデンについて」、午後には「日本について」、短い時間でしたが私の理解している基本認識の一端をお話しました。その要点は次の通りです。
スウェーデンについて
①スウェーデンが年金や医療などの社会保障制度の充実した「福祉国家」であることは、 よく知られている。しかし、「福祉国家」という人間を大切にする社会のあり方は20世 紀的で、21世紀には人も環境も大切にする「緑の福祉国家(生態学的に持続可能な社 会)」に転換しなければならない、これが、スウェーデンの描く21世紀前半のシナリオ である。
②スウェーデンは経済成長を前提にした20世紀型の「福祉国家」の限界を強く認識し、80年代中頃から21世紀前半に予想される厳しい経済・社会的変化にも十分に耐えら れる21世紀型の「持続可能な社会」を模索してきた。
③フロント・ランナーであるスウェーデンには、参考にするモデルがない。開かれた民主 主義、福祉、環境、教育やIT、バイオなどの先端技術で世界の最先端を行くスウェーデンは他国から学べないので、自ら考え、行動している。
④「科学者の合意」と「政治家の決断」によって、スウェーデンは21世紀前半のビジ ョンとして「緑の福祉国家の実現」を掲げた。
ビジョンとして掲げられている「緑の福祉国家の実現」は、「旧スウェーデン・モデル」が賛否両論はあったものの世界の福祉政策にとってのモデルであったのと同じように、21世紀前半の「持続可能な社会のあり方」を先駆的に提案するものといってよいであろう。
⑤スウェーデンが考える「持続可能な開発」とは、「社会の開発」であって、日本が考える 「経済の開発」、「経済の発展」あるいは「経済の成長」ではない。
⑥緑の福祉国家には「社会的側面」、「経済的側面」および「環境的側面」の3つの側面が ある。スウェーデンは高度な「福祉国家」を実現したことにより、「社会的側面」と「経 済的側面」は基本的に満たしているが、「環境的側面」は、これまで世界の最先端を行っ ていたとは言え、まだ十分ではなかった。そこで、「緑の福祉国家の実現」のためには「環 境的側面」に政治的力点が置かれることになる。
⑦ビジョンの実現のために、図に示すような行動のための枠組みの整備がなされた。 環境の質に関する16の政策目標が策定された。それぞれの政策目標に対して、「環境の 質」「達成時期」「担当行政機関」が具体的に決められている。最終目標年次は2020 ~25年である。
これが、今後の「緑の福祉国家」の環境的側面の行動指針となる。その目標を達成する ために「緑の福祉国家」への転換政策(地球温暖化防止への対応、オゾン層保護への対 応、税制の改革:課税対象の転換、エネルギー体系の転換:原発の新設はなく、脱石油 を含めた化石燃料からの脱却、新しい化学物質政策の策定、廃棄物に対する製造者責任 制度の導入、持続可能な農業・林業・漁業、都市再生・都市再開発)などが策定され、予算がつけられている。
⑧世界が注目し、賞賛するスウェーデンの「99年の年金改革」や「緑の福祉国家への転換」 の試みは、スウェーデンの歴史、文化、伝統、風土、社会的・経済的現状や価値観を踏ま えて、スウェーデンの国民と政治家が「将来の安心と希望への近道」のために自ら考え、 選択した結果である。 新スウェーデン・モデル「緑の福祉国家」はスウェーデンの政治家によるスウェーデンの ための新モデルであるとは言え、21世紀前半の社会を展望するとき、他の先進工業国の参考になる“高い普遍性をもったモデルの一つ”であることは間違いない。
⑨1996年9月17日、乗員・乗客884万人を乗せたスウェーデン号は、「21世紀の安心と安全と希望」を求めて周到な準備のもとに目的地である「緑の福祉国家」へ向けて出港し、現在、順調に航行を続けている。航行中予期せぬ難問に遭遇し、場合によってはグローバル化の荒波にのみ込まれ、沈没してしまうかもしれないが、順調に行けば、目的地に到着するのは2025年頃とされている。
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