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西東京市・北海道富良野の森林を舞台にした遺伝,育種,生態などに関する研究ノートの一部を紹介します

Augspurger 1983 J Ecol 読解

2006-12-21 | 研究ノート
・昨日から東京入りしたんだが,突然の風邪で昨晩は完全にダウンしていた.ホテルに着いて,ベッドに入ったきり身動きできない状態.こんなひどいのは久しぶりである.今朝,田端中央病院にて診察してもらい,薬をもらう.だいぶ具合がよくなったので,論文読解などに取り組む.いやあ,こんなに東京が寒いとは・・・.

Augspurger (1983) Seed dispersal of the tropical tree, Platypodium elegans, and the escape of its seedling from fugal pathogens. Journal of Ecology 71, 759-771

<イントロ>
・種子散布と散布後の実生定着は,これまで独立して研究されてきたために,その関係が明らかではなかった.散布と定着の関係を明らかにすることは,親の適応度,個体群の遺伝的,空間的構造,ひいては種の多様性維持メカニズムを考える上で重要である.
・実生定着は,散布される種子の密度と散布後の定着確率によって決まる.
・母樹から離れるにつれて,種子密度は急速に低下することはよく知られている(Levin & Kerster 1974など).
・一方,熱帯では,母樹からの離れるほど実生の生存率が向上する例が知られていたが,死亡要因が明確ではなかった.
・散布は密度依存的,距離依存的な死亡要因からの回避という意義があると考えられている(Janzen-Connel仮説).要因としては,病原菌,(動物による)種子捕食,昆虫による食害,アレロパシー,親子,兄弟間の資源競争などが挙げられる.
・本研究では,Platypodium elegansの実生について,1)各項目の死亡要因として重要性,2)母樹からの距離が実生の生存確率と各要因の死亡率に及ぼす影響,3)光環境が死亡率に及ぼす影響,を明らかにする.

<調査地と対象樹種>
・パナマのバロ・コロラド島.いわずもがなだが,様々な研究が展開されている超有名なサイト.
・Platypodium elegans:樹高30mになる林冠木.大型(10cm,2g)の翼果をつけ,風散布型.翼果の形態やサイズは,個体間で大きな違いがあり,個体内では変異が少ない.

<方法>
・同種個体が周囲にいない孤立木で,種子の形態やサイズで個体判別できる4個体を選んだ.
・方法1:実生の量に応じて幅を変えたトランセクトを各個体の根元から南の方向へ設定.トランセクトを1mごとに区切り,発生した実生にタグをつけて追跡調査.
・方法2:Tree 1とTree 2についてのみ,5つの10m区間に各500(Tree 1),300(Tree 2)のタグをつけて調査.Tree 1では0-10mが樹冠下,45-55mがギャップに対応.Tree 2では,0-10mが樹冠下だが,5-10mが小さなギャップになっている.

#この部分がすごく分かりにくい.方法2に対する結果がどこで出てくるのかが,良く分からない(Fig2の値が間違っているのか・・・).非常に困惑させられる.

・1980年の5月28日から6月1日にタグをつけ,5月6日から12月中旬まで追跡調査.最初の3ヶ月は1週間に1度の割合で観察し,死亡要因を特定.その後の追跡調査についても記載されているが,ここでは省略.
・パーセントデータは逆正弦変換して重回帰分析などを行っている.

<主な結果>
・新たに定着した実生の密度は,母樹の近傍にピークがあり,距離が離れるにつれて,急速に密度が低下する距離分布を示す.中央値は,Tree1で22m,Tree 2-4は10数m.
・発芽した実生は,最初の3ヶ月でほとんどが死亡した.死亡率は母樹からの距離によって異なり,母樹の近く(20m以内)で高い死亡率が検出された.
・ギャップ下では,死亡率が低い傾向があった.Tree 1では明瞭に違いが見られた.Tree 2ではわずかに生存率が上昇した.
・最初の3ヶ月での死亡では立枯れ病が最も重要で,死亡要因の64~95%に達した.
・立枯れ病による死亡率は,母樹からの距離に反比例し,実生密度に比例した.ギャップ下では死亡率の減少が認められた.

<考察>
・本研究の結果は,1)菌害が主な死亡要因であること,2)親からの距離が離れるにつれて実生の生存率が上がること,3)ギャップ下では実生の生存率が上がること,を明瞭に示した.病原菌が個体群動態に及ぶ影響は想像以上に大きく,それにはもっと注意が払われるべきであろう(Harper1977).
・親からの距離が離れても立枯れ病はゼロにはならず死亡率が低下するのみだった.したがって,立枯れ病菌は,森林内のどこにでも存在すると考えた方がよい.
・密度と距離の効果は分離できないので(つまり,母樹の近くでは必ず密度が高くなり,遠くなると密度は低下する),これらを分離するには実験的なアプローチが必要.
・Tree 1では立枯れ病によって,母樹から20m以内のほとんどの実生が死亡した.したがって,1つのコホートに限れば,稚樹の分布パターンを説明することができそうだ.
・立枯れ病は,病原菌抵抗性,成長率,リグニン化の程度(早く幹が固くなった方が病気にかかりにくい),翼果の形態や重さ,種子散布力,発芽タイミングなど,いくつかの重要な形質を進化させる可能性を持つだろう.

<寸評>
・種子散布屋(?)として有名な(鳴子のS先生の知り合いだとか・・・.最近は違うことをやっているらしい)Augspurgerさんの論文.この論文以後でも,彼女たちのグループでは,移植実験をしたり,種子の散布実験をしたりと,Platypodium elegansを題材にした一連の研究が展開されている.ヤチダモ種子の散布実験論文(Goto et al. 2005 Eco Res)でもだいぶお世話になった.本種(Platypodium elegans)は,その後も色んな人達があれやこれやと研究しており,熱帯におけるモデル樹木的なイメージがある.

・1980年代の論文だが,遺伝マーカーもない時代に既にこれほどのことができていたのか,と感心させられる(逆に遺伝マーカーを使えるようになった割には,こういう部分が進んでいない気がするのは当方だけだろうか・・・).もちろん,個体密度が低い樹種で4母樹に絞ったからという点はあるが,種子の形で母樹判別ができるというあたりはなかなかいい.解析法自体はやや怪しいところがあるが,時代を考えればやむを得ないだろう.

・得られた結果自体はシンプルだが,逃避仮説を明瞭に支持している.ただし,個体特異的な死亡要因なのか,種特異的な死亡要因なのかは,孤立木であるがゆえに分離できない.トドマツ論文でも,「熱帯樹種のP. elegansでは母樹の周囲では立枯れ病による死亡率が高く,遠くに散布された実生の生存率が上がる」,という文脈で引用できそうだ.

・ところで,こうした古典論文(特に,1980年代のものにいいのが多い気がする)は,案外,読んでいない人が多いのではないだろうか.つい,最近の新たな論文に目を奪われることが多いわけだが,こうした古典論文には今でも通用するような研究のヒントが隠されていたりする.著名な論文はやっぱり自分の目でしっかりと読んでおく必要があるな,と改めて感じる.ただ,こうした論文はPDF化されていないので,やっぱり図書館でコピーするしかないというところが少々大変なんだけど・・・.

ブラジル断片林プロジェクトBDFFP

2006-12-19 | 研究ノート
・上京が1日早まったために,一挙に忙しくなる.22日は講義,ゼミのダブルヘッダーだけに,同時並行的にスライドを準備していたわけだが,今年はまた綱渡り感がさらに増している.といいつつ,連絡調整にも追われつつ・・・年末まではこんな感じで渡っていくしかない.

・生態学会誌の最新号にブラジル断片林プロジェクト(BDFFP)の紹介が掲載されていた.このサイトを利用して,断片化が繁殖様式に及ぼす影響を調べた論文を当方もいくつか知っている(ああ,またここか,という感じである).ここでは,1, 10, 100ha, 1000haといったサイズの異なるサイズの孤立した断片林を”設定”し,3年に1度のメンテナンスをして常に”断片化”状態を保っているそうだ.

・この断片林プロジェクトは設定から27年しか経過していないのだが,研究サイトを利用した論文は450編を超え,修士,博士論文も100編に届く勢いとなっているという.いかに,サイトが魅力的かがよく分かるデータである.プロジェクト自体は,いわゆる大規模操作実験の一例だが,大学演習林ではこうした”仕掛け”が決してできないわけではない(ちょっと規模がでかいけど・・・).

・実際に見てみたいもの.そういえば,ブラジルは実は一度行きたいと思っている国だ,ボサノバの国だし,名著”オーパ”の影響もあるわけで・・・.治安が少々不安なんだよねえ.

-16℃の世界

2006-12-17 | その他あれこれ
・足を踏み出すと,きゅっきゅっと雪が小気味いい音を立てる.空知川からは水蒸気が立ち上り,煙のようなものが漂っている.こういうときは次第に晴れてくるものだが,しばらく待つと,なるほど快晴である.聞けば,マイナス16℃だったとか・・・.ここの放射冷却は半端ではない.



・午前中,幼稚園の聖劇.クリスマス会というよりは,キリストの生誕を祝うという敬虔な会である.お兄ちゃん・お姉ちゃんのいちご組では,みんながずいぶん難しいせりふを覚えていて,感心させられる.一番小さなさくらんぼ組はみな子羊になっていたのだが,とてもかわいい.

消しゴムはんこ

2006-12-16 | その他あれこれ
・早いもので、気がつくと年末まであとわずか。慌てて年賀状を製作(図案は半月前に決めていた)。ここのところ、パソコンで作成していることが多いので、少しは手作り風にしようか、ということで、今年は”消しゴムはんこ”に挑戦。消しゴムはんこは、簡単に削ることができ、思ったよりも簡単だ。フレームはパソコンで印刷し、そこに銀色の消しゴムはんこを押していく。今回はすっきりしたデザインにしたので、さくさくとハガキが出来上がった。さあて、準備は整ったことだし、少しずつ書き始めるとするか・・・。

モビラーの心得

2006-12-15 | フィールドから
・銘木市の結果を聞く。詳しいデータは未整理であるが、マカバの中にはm3単価が100万、90万、80万のものがあったとのこと(一方で、3万円代で落札されたものもあったとか・・・)。木材の価格というものは、置かれている状況によって大きく変わるので注意が必要だというのは、東京に転勤した元同僚のY氏がよく言っていたが、m3単価が何十万というのはやっぱりすごい。センも悪くなかったようで、とにもかくにも、市売りの販売価格はほぼ予定額に達したようだで、何となく、皆、一安心である。

・午前中は、スノーモビルの講習会。スノーモビルに乗る人のことを、”モビラー”ということを初めて知った。毎日の安全点検の方法やライディングフォーム、スタックしたときの脱出方法など、案外きちんと知らない”モビラーの心得”の講習を受ける。ここ富良野では、冬季作業において、もはやスノーモビルは欠かすことができない存在である。当方も、1シーズンに何回か活用しているのだが、理屈抜きに楽しい乗り物でもある。今年は、一度、前山のアカエゾ湿地林をぐるりとスキーで歩いて、その範囲を実感してみたいと思っているのだが・・・。さてさて、いつごろスノーモビルに乗ることになるか。

銘木市レポート

2006-12-14 | フィールドから
・旭川で開催される銘木市に,マイクロバスで出かける.毎年,12月のこの市に出品しているわけだが,ここ何年かは比較的高値で落札されることが多く,収入としても決して少なくない割合を占めている.当方にとっても,現場の市況が肌で感じられる(まあ,ちょっと特殊な用途ではあるのだろうが・・・)貴重な機会である.ここ2年ほど講義やらの関係で欠席していたので,久しぶりの参加である.



・今回の銘木市では,合計でおよそ3000ハイ,8300本,3000m3が取引の対象となる.会場を見渡すと,以前は行われていた室内展示などがなくなっており,全体として規模が小さくなっている.広葉樹資源の枯渇が肌で感じられる瞬間でもある.樹種としては,材積順で言えば,圧倒的にメジロカバ,ついでヤチダモ,ナラ,セン(ハリギリ),ザツカバ(ダケカンバ),マカバといったものが主だ.民間からの出材(民材)が大部分で,官材は7%程度.官材のうち,約半分が当機関からの出材である.

・番号を追いながら,スピーカーから流れる落札価格とものを見比べる.全体的に低調だが,タモはやや持ち直したか・・・.メジロカバはバラツキが大きいが,そもそもパルプ用みたいなものまで出材されているからであろう.ザツカバとの違いがあまりなくなってきたようにも感じる.まれに10万を超えるようなものもあるが,民材ではあまり驚くような価格はつかない.

・昼食後,しばらく入札会場で雰囲気を探る.この市では現場で銘木を見ながらセリを行うのではなく,別会場で赤札・白札による入札を行っている.タバコのけむりで会場には独特の雰囲気が漂っているが,目玉商品の入札までは時間があるせいか,どことなく閑散としている.m3単価が20万円を超えると,拍手が起こる.この臨場感はなかなかだ.

・第二会場へ移動.タモ,ナラの長材,大径材が目をひく.中国からの輸入はほとんどなくなったはずなので,これらはロシアからだろうか・・・.それらしき文字も見える.意外と通直で質も悪くなく,このようなものがまだ出回るようでは,国産のナラ材の価格はなかなか伸び悩みそうである.しかし,タモの価格は若干持ち直しているようにも感じられ,これでもタモの北洋材は量的には減っているのだろうか,などと思いを馳せる.



・再び,官材で当機関から出材された丸太を観察.よく見ると,気になる丸太には彫刻刀のようなもので削りが入れてあり,心材色を確かめているようだ.詳しくは分からないが,マカバに関しては濃い目の赤がまだ人気のようである.また,丸太に降り積もった雪をほうきで払い落とし,幹の傷や節などを調べているものもあった.マカバとセンの落札は,午後3時半過ぎからということなので,あえなくその前に帰還.明日の報告が楽しみである.



O’Hanlon-Manners & Kotanen (2004) Ecology読解

2006-12-13 | 研究ノート
・久しぶりの論文読解.もはや,ちゃんと読まないと考察が進みそうな気がしないというわけで,鳴子のYさん推薦の論文読解に着手.論文は,O’Hanlon-Manners & Kotanen (2004) Logs as refuges from fungal pathogens for seeds of eastern hemlock (Tsuga chanadensis). Ecology 85, 284-289,である.

・イントロ前半では,倒木がいくつかの樹種(例えば,ツガなど)の実生定着のセーフサイトとして重要であることが述べられている.要因としては,倒木上は林床に比べて湿度が高いために,乾燥防止効果などが考えられてきたとのこと.イントロ後半では,d土壌中に含まれる菌が,様々な樹種の種子や実生の消失に大きく影響を与えることが示されている.

・本研究の主題は,倒木上が(ツガの種子や実生における)菌からの避難地になりうるか?ということである.しかしエゾマツでは,倒木上が雪腐れ病回避に有効であることは北海道の林業関係者の間では既に“定説“だと思っていたので,そもそもこのような主題が今でも成り立つことに驚きを覚える.もしかして,雪腐れ病と倒木の関係はちゃんとした論文になっていないのか!?.

・調査地はカナダ,オンタリオ州のトロント大学の実験林である.この辺は,サトウカエデ,アメリカブナ,ストローブマツ,そしてツガの混交林となっている.今回の実験は非常にシンプルで,これらの4種の倒木(合計16本)とその周囲の林床に,殺菌剤(市販されているものらしい,成分Captan 75%)処理をしたツガの種子と無処理のツガの種子各20粒を播種して,発芽率を調べたというものである.ちょっと面白いのは,2つの種子ロットを使っていることだ.一つは同じJokes Hill産の混合種子,もう一つは事業用(?)のPatewawa産(同じオンタリオ州)の混合種子をである.

・播種は2001年10月に行い,2002年5月にフィールドでの発芽率を調べた後,回収して実験室内でさらに発芽検定,生存検定などを行っている(が,あくまでフィールドでの発芽率の結果がメイン).統計解析としては,二元配置の分散分析を行い,基質(倒木or林床)と処理(殺菌剤処理と無処理),その交互作用を調べている(アークサイン変換とかしてしまっているけど・・・).最初は,種子ロットも要因に入れようとしたようだが,ロット×基質×処理の交互作用が有意だったために,一緒に考えるのは無理と判断し,種子ロットごとに基質と処理の効果を調べている.

・本研究でも,倒木上が林床に比べて湿度が高いことが改めて判明(倒木上63%,林床 16%).結果を見ると,種子ロットごとに効果の現れ方が違っていた.Jokers Hill種子では,基質のみ有意な違いが検出され,倒木の方がフィールドでの発芽率が高かった(倒木49%,林床28%).しかし,殺菌剤の有意な効果はなく,交互作用も有意ではなかった.一方,Patawawa種子では,基質間や処理間では有意な差がなかったが,交互作用に有意差が認められ,倒木上では無処理で70%,殺菌剤処理で66%とほとんど差がなかったが,林床では無処理で49%,殺菌剤処理で79%と明らかな殺菌効果が認められた.

・Patawawa種子では林床のみで殺菌効果が得られたことから,まさに主題のとおり,倒木が菌害からのリスク回避に有効な避難地になっていることを示したといえる(まさに,望んでいた結果).Corinth (1996)によると,ツガの更新の57%が倒木上で10%が林床で起こっている(ちょうど,トドマツと同じぐらいではなかろうか・・・).似たような結果はトウヒ(Engelmann spruce)と亜高山性モミの種子埋土実験からも得られており,倒木上や鉱物質土壌中に埋土した場合に比べて,攪乱されていない林床に埋土した場合に菌類による被害率が高い(Zhong and van der Kamp 1999).

・ツガの種子は,土壌菌を含めて少なくとも7種の菌からアタックを受ける.Botorytis種や立枯れ病は種子を死亡させ,発芽を遅らせる.一方,Rhizoctoniaなどは発芽後にアタックをする,など種類によって加害するステージやプロセスが違うことが指摘されている.こういった部分はかなり重要だが,やはり樹病専門家とタッグを組むのが早いような気もする.何もかも一人ではできないもんねえ.

・種子ロット間の違いについては,樹齢,採取方法,貯蔵方法など,いくつかの原因が挙げられるとしつつ,種内でも感受性に違いがある可能性についても言及している.最後に,森林管理についても考究がされており,世代の若い林や施業林では倒木が少ないために個体群動態が変化し,菌に抵抗性の強い遺伝子型が台頭するだろう(本当か??)としている.

・非常にシンプルな実験でなぜ今更Ecology(Notesだけど)に・・・と驚くところだが,「きっとそうだろう」とみんなが考えながらもちゃんと証明されていなかった命題に一つの答えを出した,ってところが評価されたのだろう.それにしても,殺菌剤を使うというのは単純明快だが,こうした移植実験(今回は発芽試験だが)は問題をシンプルにする上で非常に強力であることに気づかされる.花粉親総説でも指摘したとおり,experimentalなアプローチは今も昔も健在なのである.

・今回のトドマツ論文の考察でどう活かすかということについては,若干,微妙なところがある.というのは,倒木が菌からの避難地になっているのであれば,”逃げるトドマツ”の説明にならないからだ.むしろ,倒木のセーフサイト機能(乾燥防止と土壌菌からの回避)と種内でも変異があり得るといった文脈で引用するのが一案かもしれない.あるいはイントロで,針葉樹では倒木上がセーフサイトになっているいくつかの種が知られている(O’Hanlo-Manners and Kotanen 2004; ・・・)など,あっさりとした使用法もいいかもしれないな,などと思いつつ・・・.

種特異的 vs 個体特異的

2006-12-12 | 研究ノート
・査読の見直しが完了.編集委員に添付メールで送付して一件落着.自らの英語の”センスのなさ”が,ちと気にかかるが,過去は振り返らないということで・・・.再び,「逃げるトドマツ」のメカニズムが気になる.今回の倒木上に定着したトドマツ実生の親子解析において,1-2年生の実生への散布距離と3年生以上の稚樹への散布距離の比較をすると,20m以下では1-2年生の実生の方が頻度が高いが,20m以上では3年生以上の実生の頻度が高くなるという興味深い結果が得られている.目下のところ,これが論文におけるトピックの一つになるだろうと考えて,その裏を取る作業を続けている.

・ところで,このような現象を説明するには,個体特異的な死亡(すなわち,A個体の樹冠下では,個体特異的な菌害が発生するなどして,母樹Aの実生が他個体の実生よりも死亡しやすい,という条件を満たす必要がある,と思い込んでいたのだが,それは”早とちり”だったことに(Tさんとの雑談の中で)気がついた.つまり,個体特異的ではなく,種特異的な死亡だとしても,もともと距離分布が近い距離に集中している場合には,ステージが上がるにつれて種子散布距離が伸びることがありうる,のではないかということである.

・ここで簡単な思考実験をしてみる.30m離れた距離にAとBという成木があったとしよう.それぞれの樹冠下は死亡しやすく,中間地点(セーフサイト)では全ての実生が生存するとして,Aの樹冠下にはAの実生が8個体,Bの実生が2個体散布され,Bの樹冠下にはその逆,中間にはそれぞれ3個体の実生が散布されたとする.

・ここで,もし種特異的な死亡要因があり(仮説1),樹冠下では母樹にかかわらず,半分の実生が死亡するとすると,Aの樹冠下ではAの実生が4個体,Bの実生が1個体になる(Bの樹冠下ではその逆).中間地点はセーフなので,全部,生存している.今度は,個体特異的な死亡要因がある場合を考える(仮説2).この場合,Aの樹冠下ではAの実生はやはり半分死亡するが,Bの実生は2個体ともに生存する(Bの樹冠下はその逆).むろん,中間地点は全て生存している.



・このようなケースを想定し,散布直後とある一定期間が経過した後(仮説1と仮説2)の距離分布を比較してみると,仮説1と仮説2のどちらのケースでも,10m以下では散布前の方が頻度が高いが,10m-20mでは定着後の方が頻度が高いという現象が起こりえるのである(ただし,仮説2では長距離成分の増加が際立つ).つまり,もともと樹冠下に”ぽたり”と落ちている実生の数が多い場合,単に種特異的な死亡でその樹冠下から逃れる効果でも,このような距離分布のモードの変化として検出されるわけである.

・実際の森林で何が起きているかを知るには,結局のところ,足繁く現場に通って,死亡要因を特定するしかないわけだが,樹冠近くでの種特異的な死亡ということになれば,虫害,菌害の両方が考えられるために,可能性の幅が広がりそうである.やはり,鳴子のYさんから紹介していただいた貴重な文献を早速読みこんでいく必要がある.

Gメール導入

2006-12-11 | 研究ノート
・最近,あまりにもスパムの攻撃がひどいので,D論作成に忙しいUくんの手を煩わせつつ,ついにGメールを導入.職場宛メールをGメールに転送し,スパムのフィルターをかけて,職場宛に戻すという処理を行う.効果テキメン,一日40通近くのスパムメールは全てフィルターにかかり,一気に届くメールの数が減った.あまりにも少なすぎて,本当に機能しているのかどうか,不安になるほどである.しかし,今のところ100%の成功率で,”聞きしにまさる”といった感じ.

・ちょっと放置していた査読に,「いい加減に取り組まねば」ということで再開.ちょっと前から査定方針は固まっていて,後はそれをどう表現するか,という1点にかかっていた.自らの英作文を再チェックし,ほぼ完成,と.言いたいことは色々とあるのだが,こういう英文って,論文英語とはまた違い,どう表現していいのか分からない.ちゃんと伝わるかどうか,いっつも心配なままである.少しずつ,英作文も上手になっているといいのだが,果たして・・・.

プラチナ本

2006-12-10 | その他あれこれ
・今日はバスケの3-4年生大会を観戦に行くということで、朝6時過ぎに集合場所へ連れて行く。眠い。まだ、月が光っているが、天気自体は穏やかのようで・・・。二度寝して気がつくと既に9時半ごろである。こんなに遅くまで寝ていたのは実に久しぶりだ。

・久しぶりにブランチにして、パスタ(白菜とキノコのホワイトクリーム)とフランスパンを食す。その後、連日のそりあそび。近くの公営の施設では、とんでもないツララが出来ていた。どうやったら、こんなツララができるのだろうか・・・。近づくと危ないね、こりゃ。



・2006年のBook of the Yearの特集があるということで,雑誌「ダ・ヴィンチ」を購入.総合1位は,ハリポタ,2位は劇団ひとりの「陰日向・・・」,3位は宮部みゆきの「名もなき毒」ですか・・・.”陰日向”は,図書館で借りて,半分ほど読んだ.「ほほー」と思わせてくれるような小説だったけど,そこまでははまらなかったのだが・・・好みの問題かも.宮部みゆきも,「さすが」,ではあったが,もっといい作品はあるような気もしないでもない・・・.もしや,全体として,”不作年”だったのか・・・.

・4-6位は全てコミック,「ハチクロ」,「のだめ」,「デスノート」と来ましたか・・・.実は”ハチクロ”は子供にかこつけて途中まで読んでいたりして・・・.少女コミックといっても最近は侮れず,うかつにもカンドーしてしまったりするのである.

・むしろ,今年のプラチナ本として編集部が薦める「リンさんの小さな子/フィリップ・クローデル著,高橋啓訳,みすず書房」というのがすごく気になった.かなり静かな作品らしいけど,これは読んでみたいと思う.ところで,ぜんぜん関係ないけど,スキマスイッチの3rdアルバムが出たんですなあ.たまにはCDなぞ,購入してみるか・・・.