・久しぶりの論文読解.もはや,ちゃんと読まないと考察が進みそうな気がしないというわけで,鳴子のYさん推薦の論文読解に着手.論文は,O’Hanlon-Manners & Kotanen (2004) Logs as refuges from fungal pathogens for seeds of eastern hemlock (Tsuga chanadensis). Ecology 85, 284-289,である.
・イントロ前半では,倒木がいくつかの樹種(例えば,ツガなど)の実生定着のセーフサイトとして重要であることが述べられている.要因としては,倒木上は林床に比べて湿度が高いために,乾燥防止効果などが考えられてきたとのこと.イントロ後半では,d土壌中に含まれる菌が,様々な樹種の種子や実生の消失に大きく影響を与えることが示されている.
・本研究の主題は,倒木上が(ツガの種子や実生における)菌からの避難地になりうるか?ということである.しかしエゾマツでは,倒木上が雪腐れ病回避に有効であることは北海道の林業関係者の間では既に“定説“だと思っていたので,そもそもこのような主題が今でも成り立つことに驚きを覚える.もしかして,雪腐れ病と倒木の関係はちゃんとした論文になっていないのか!?.
・調査地はカナダ,オンタリオ州のトロント大学の実験林である.この辺は,サトウカエデ,アメリカブナ,ストローブマツ,そしてツガの混交林となっている.今回の実験は非常にシンプルで,これらの4種の倒木(合計16本)とその周囲の林床に,殺菌剤(市販されているものらしい,成分Captan 75%)処理をしたツガの種子と無処理のツガの種子各20粒を播種して,発芽率を調べたというものである.ちょっと面白いのは,2つの種子ロットを使っていることだ.一つは同じJokes Hill産の混合種子,もう一つは事業用(?)のPatewawa産(同じオンタリオ州)の混合種子をである.
・播種は2001年10月に行い,2002年5月にフィールドでの発芽率を調べた後,回収して実験室内でさらに発芽検定,生存検定などを行っている(が,あくまでフィールドでの発芽率の結果がメイン).統計解析としては,二元配置の分散分析を行い,基質(倒木or林床)と処理(殺菌剤処理と無処理),その交互作用を調べている(アークサイン変換とかしてしまっているけど・・・).最初は,種子ロットも要因に入れようとしたようだが,ロット×基質×処理の交互作用が有意だったために,一緒に考えるのは無理と判断し,種子ロットごとに基質と処理の効果を調べている.
・本研究でも,倒木上が林床に比べて湿度が高いことが改めて判明(倒木上63%,林床 16%).結果を見ると,種子ロットごとに効果の現れ方が違っていた.Jokers Hill種子では,基質のみ有意な違いが検出され,倒木の方がフィールドでの発芽率が高かった(倒木49%,林床28%).しかし,殺菌剤の有意な効果はなく,交互作用も有意ではなかった.一方,Patawawa種子では,基質間や処理間では有意な差がなかったが,交互作用に有意差が認められ,倒木上では無処理で70%,殺菌剤処理で66%とほとんど差がなかったが,林床では無処理で49%,殺菌剤処理で79%と明らかな殺菌効果が認められた.
・Patawawa種子では林床のみで殺菌効果が得られたことから,まさに主題のとおり,倒木が菌害からのリスク回避に有効な避難地になっていることを示したといえる(まさに,望んでいた結果).Corinth (1996)によると,ツガの更新の57%が倒木上で10%が林床で起こっている(ちょうど,トドマツと同じぐらいではなかろうか・・・).似たような結果はトウヒ(Engelmann spruce)と亜高山性モミの種子埋土実験からも得られており,倒木上や鉱物質土壌中に埋土した場合に比べて,攪乱されていない林床に埋土した場合に菌類による被害率が高い(Zhong and van der Kamp 1999).
・ツガの種子は,土壌菌を含めて少なくとも7種の菌からアタックを受ける.Botorytis種や立枯れ病は種子を死亡させ,発芽を遅らせる.一方,Rhizoctoniaなどは発芽後にアタックをする,など種類によって加害するステージやプロセスが違うことが指摘されている.こういった部分はかなり重要だが,やはり樹病専門家とタッグを組むのが早いような気もする.何もかも一人ではできないもんねえ.
・種子ロット間の違いについては,樹齢,採取方法,貯蔵方法など,いくつかの原因が挙げられるとしつつ,種内でも感受性に違いがある可能性についても言及している.最後に,森林管理についても考究がされており,世代の若い林や施業林では倒木が少ないために個体群動態が変化し,菌に抵抗性の強い遺伝子型が台頭するだろう(本当か??)としている.
・非常にシンプルな実験でなぜ今更Ecology(Notesだけど)に・・・と驚くところだが,「きっとそうだろう」とみんなが考えながらもちゃんと証明されていなかった命題に一つの答えを出した,ってところが評価されたのだろう.それにしても,殺菌剤を使うというのは単純明快だが,こうした移植実験(今回は発芽試験だが)は問題をシンプルにする上で非常に強力であることに気づかされる.花粉親総説でも指摘したとおり,experimentalなアプローチは今も昔も健在なのである.
・今回のトドマツ論文の考察でどう活かすかということについては,若干,微妙なところがある.というのは,倒木が菌からの避難地になっているのであれば,”逃げるトドマツ”の説明にならないからだ.むしろ,倒木のセーフサイト機能(乾燥防止と土壌菌からの回避)と種内でも変異があり得るといった文脈で引用するのが一案かもしれない.あるいはイントロで,針葉樹では倒木上がセーフサイトになっているいくつかの種が知られている(O’Hanlo-Manners and Kotanen 2004; ・・・)など,あっさりとした使用法もいいかもしれないな,などと思いつつ・・・.
・イントロ前半では,倒木がいくつかの樹種(例えば,ツガなど)の実生定着のセーフサイトとして重要であることが述べられている.要因としては,倒木上は林床に比べて湿度が高いために,乾燥防止効果などが考えられてきたとのこと.イントロ後半では,d土壌中に含まれる菌が,様々な樹種の種子や実生の消失に大きく影響を与えることが示されている.
・本研究の主題は,倒木上が(ツガの種子や実生における)菌からの避難地になりうるか?ということである.しかしエゾマツでは,倒木上が雪腐れ病回避に有効であることは北海道の林業関係者の間では既に“定説“だと思っていたので,そもそもこのような主題が今でも成り立つことに驚きを覚える.もしかして,雪腐れ病と倒木の関係はちゃんとした論文になっていないのか!?.
・調査地はカナダ,オンタリオ州のトロント大学の実験林である.この辺は,サトウカエデ,アメリカブナ,ストローブマツ,そしてツガの混交林となっている.今回の実験は非常にシンプルで,これらの4種の倒木(合計16本)とその周囲の林床に,殺菌剤(市販されているものらしい,成分Captan 75%)処理をしたツガの種子と無処理のツガの種子各20粒を播種して,発芽率を調べたというものである.ちょっと面白いのは,2つの種子ロットを使っていることだ.一つは同じJokes Hill産の混合種子,もう一つは事業用(?)のPatewawa産(同じオンタリオ州)の混合種子をである.
・播種は2001年10月に行い,2002年5月にフィールドでの発芽率を調べた後,回収して実験室内でさらに発芽検定,生存検定などを行っている(が,あくまでフィールドでの発芽率の結果がメイン).統計解析としては,二元配置の分散分析を行い,基質(倒木or林床)と処理(殺菌剤処理と無処理),その交互作用を調べている(アークサイン変換とかしてしまっているけど・・・).最初は,種子ロットも要因に入れようとしたようだが,ロット×基質×処理の交互作用が有意だったために,一緒に考えるのは無理と判断し,種子ロットごとに基質と処理の効果を調べている.
・本研究でも,倒木上が林床に比べて湿度が高いことが改めて判明(倒木上63%,林床 16%).結果を見ると,種子ロットごとに効果の現れ方が違っていた.Jokers Hill種子では,基質のみ有意な違いが検出され,倒木の方がフィールドでの発芽率が高かった(倒木49%,林床28%).しかし,殺菌剤の有意な効果はなく,交互作用も有意ではなかった.一方,Patawawa種子では,基質間や処理間では有意な差がなかったが,交互作用に有意差が認められ,倒木上では無処理で70%,殺菌剤処理で66%とほとんど差がなかったが,林床では無処理で49%,殺菌剤処理で79%と明らかな殺菌効果が認められた.
・Patawawa種子では林床のみで殺菌効果が得られたことから,まさに主題のとおり,倒木が菌害からのリスク回避に有効な避難地になっていることを示したといえる(まさに,望んでいた結果).Corinth (1996)によると,ツガの更新の57%が倒木上で10%が林床で起こっている(ちょうど,トドマツと同じぐらいではなかろうか・・・).似たような結果はトウヒ(Engelmann spruce)と亜高山性モミの種子埋土実験からも得られており,倒木上や鉱物質土壌中に埋土した場合に比べて,攪乱されていない林床に埋土した場合に菌類による被害率が高い(Zhong and van der Kamp 1999).
・ツガの種子は,土壌菌を含めて少なくとも7種の菌からアタックを受ける.Botorytis種や立枯れ病は種子を死亡させ,発芽を遅らせる.一方,Rhizoctoniaなどは発芽後にアタックをする,など種類によって加害するステージやプロセスが違うことが指摘されている.こういった部分はかなり重要だが,やはり樹病専門家とタッグを組むのが早いような気もする.何もかも一人ではできないもんねえ.
・種子ロット間の違いについては,樹齢,採取方法,貯蔵方法など,いくつかの原因が挙げられるとしつつ,種内でも感受性に違いがある可能性についても言及している.最後に,森林管理についても考究がされており,世代の若い林や施業林では倒木が少ないために個体群動態が変化し,菌に抵抗性の強い遺伝子型が台頭するだろう(本当か??)としている.
・非常にシンプルな実験でなぜ今更Ecology(Notesだけど)に・・・と驚くところだが,「きっとそうだろう」とみんなが考えながらもちゃんと証明されていなかった命題に一つの答えを出した,ってところが評価されたのだろう.それにしても,殺菌剤を使うというのは単純明快だが,こうした移植実験(今回は発芽試験だが)は問題をシンプルにする上で非常に強力であることに気づかされる.花粉親総説でも指摘したとおり,experimentalなアプローチは今も昔も健在なのである.
・今回のトドマツ論文の考察でどう活かすかということについては,若干,微妙なところがある.というのは,倒木が菌からの避難地になっているのであれば,”逃げるトドマツ”の説明にならないからだ.むしろ,倒木のセーフサイト機能(乾燥防止と土壌菌からの回避)と種内でも変異があり得るといった文脈で引用するのが一案かもしれない.あるいはイントロで,針葉樹では倒木上がセーフサイトになっているいくつかの種が知られている(O’Hanlo-Manners and Kotanen 2004; ・・・)など,あっさりとした使用法もいいかもしれないな,などと思いつつ・・・.