ひと:栄原永遠男さん=木簡に書かれた万葉歌を初めて見つけた
◇栄原永遠男(さかえはら・とわお)さん(61)
「ビビッと電撃が走りました」。昨年12月、紫香楽宮(しがらきのみや)跡とされる宮町遺跡(滋賀県甲賀市)の作業所で、10年前に出土した木簡を裏返した。「阿佐可夜」の文字。万葉集にある安積山(あさかやま)の歌ではないか。「えらいこっちゃ」。いつも冷静に理路整然と語る歴史学者の声が上ずった。
予想外の大発見につながるひらめきは昨年3月にあった。難波宮(なにわのみや)跡(大阪市)で出土した木簡に万葉仮名で書かれた「春草(はるくさ)の……」という言葉に続けて短歌を創作する「なにわの宮新作万葉歌」(大阪市、毎日新聞社など主催)の授賞式の会場で、受賞作を墨書した現代の木簡を見たときだ。
木簡の断片に万葉仮名で書き残されている歌の一部は習字や落書きとされてきたが、本来、歌の全文を記すための木簡だったのではないか。各地を訪ねて自分の目で断片の形や文字の配置を調べ、2尺(約60・6センチ)以上の長い木簡に復元できることを突き止めた。
05年から木簡学会の会長。初代会長で京都大教授だった恩師、故岸俊男さんの「木簡は文字だけでなく、形状・材質など物に即した精密な考察が不可欠」という言葉をかみしめる。
今までに歌木簡とわかったのは14点。「どのような機能を持ち、どのように使われたのか」。手堅い実証に斬新な発想を加え、謎解きに挑む。<文・佐々木泰造/写真・森園道子>
■人物略歴
大阪育ち。大阪市立大教授。専攻は日本古代史。著書に「奈良時代流通経済史の研究」など。
毎日新聞 2008年5月23日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/opinion/hito/news/20080523ddm003070096000c.html