ONE FINE DAY

「昨日のことは忘れてほしい」
「もう遅い。日記に書いた」

ルソー「戦争」

2008-10-10 | 美術
美術メモ*その1*
好きな絵画や、気になる画家について、
本を読んだり、TVで見たりして印象に残ったことを忘れないように、
メモしておこうと思い立ち今日から始めることにした。

先日図書館から借りた瀬木慎一著「西洋美術事件簿」に
ルソーの「戦争」について書かれたこんな文章があった。

**抜粋**
ギリシャの軍神アレスは、不和の女神である姉妹と二人の息子、
デイモス(恐れ)とポボス(恐怖)をいつも連れて、
人殺しを楽しみ、戦争をしかけ、戦場を見てほくそ笑む。
ポボスは彼の戦車を引く馬の一頭であり、
他は火と炎と災難だった。
その歴史的な図像に基づいてそれは描かれていて、
炎の雲と森に囲まれて、鳥が群がり、累々と横たわる死者の上へ、
一頭の黒馬から火と剣を持ったアレスが飛び降りる、
という凄絶な一瞬が描かれている。
******

真ん中で馬に乗ってるんだか宙に浮いているんだかわからなかった、
白いワンピースを着た少女だと思っていた人は、
ギリシャ神話の、男の!神様だったんですね!

娘とこの絵を見るたびに(not本物、たぶん本やPCで)
残酷きわまりない戦場を描いた絵だとわかってはいても、
あののっぴきならない白いワンピースの少女に、
思わず笑い転げてしまっていた不謹慎きわまりない母と娘でした。
ギリシャ神話の神様もルソーの手にかかれば、
これほどまでの強烈さを放つのだ!!
黒馬も然り。
そして、乗っているのか浮いているのかの疑問は、
まさに飛び降りんとしている瞬間という解説に、
思わず膝をうってしまいました。(いてててて)

ここでまたひとつ疑問が。
ルソーが渾身の想像力で描いた軍神アレスとは?
調べましたとも。

まず、ギリシャ神話に登場する男神の中では1~2を争う美男子。
しかし、大変に困った性格、というか人格というかで、
粗暴、残忍、無思慮、荒くれ者。
腕っ節が強いだけで頭は空っぽ。
父(でないという説もある)ゼウスにも疎まれるほどの馬鹿息子。
恥かきエピソードには事欠かない。
なかでも有名なのは、
愛と美と性の女神アフロディーテとの不倫事件でしょうか。

アングル「アフロディーテの誕生」

結婚していたのはアフロディーテですから、
この女神もアレスと似たもの同士(頭空っぽという点で)。
夫(鍛冶屋の神・ヘパイトレス)の怒りをかって、
まんまと罠にかかり、二人揃って裸のまま衆人の前にさらされたとか。
なんだか、現代にもいそうなキャラですよね?
アレスとアフロディーテの間には子供が何人かいて、
(一体何年不倫してたんだ?)
上記抜粋にもあるデイモス(恐れ・敗走)とポボス(恐怖)もそうです。
困ったカップルからは困った子供が生まれるんでしょうかね?

もうひとつ、アレスの妹エリスですね。双子の妹という説も。
こちらもアレスに負けずおとらずすさまじい性格です。
陰湿で嫉妬深く執念深く、野蛮で残忍で好戦的。
「不和」を象徴する女神なので、
まずはエリスが人間どもにいがみあいを起こさせ争いを起こしては狂喜する。
そこへアレスが乗り込んで残忍な殺し合いへと駆り立てる。
どうなのよ、この兄妹!
ある意味、最強コンビ?
こんな猟奇的兄妹を想像するギリシャ神話って生々しい!

それで、いまふと思ったのだけど、
ルソーの描いたのは妹のエリスだったのではないかと。
ね、それなら納得いきますけどね。

もうひとつおまけ。
みんなの嫌われ者軍神アレスはローマ神話ではマルスとなり、
勇敢な戦士、青年の理想像として慕われ、
主神なみに篤く崇拝された重要な神となります。
そしてボティチェリに描かれるとこうなっちゃうのです。
マルス(=アレス)とヴィーナス(=アフロディーテ)


私、今年の冬にロンドンはナショナルギャラリーで、
しかとこの絵を見てまいりました。