ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

上海の伯爵夫人

2007年10月07日 | 映画レビュー
 ときは1936年、所は上海の租界。盲目のアメリカ人外交官ジャクソン(レイフ・ファインズ)がバーに現れて、「理想の店を持つことが夢だ」と語る。彼がなぜ目が見えなくなったのか、その理由は物語が進むうちに少しずつ明らかにされる。バーで働くロシアの亡命貴族ソフィアは伯爵夫人でありながら、亡き夫の家族を抱えてホステスとして働いているのだ。上海の貧しいアパートでひしめき合って暮らす一家の中で、彼女だけが「よそ者」だ。彼女を愛し彼女の味方をしてくれるのは娘だけ。まったく、家族愛とかいうけれど、嫁は除け者なのよね、こういう映画を見るとよくわかる。

 で、ヒーローとヒロインは運命の出会いをし、一目会った瞬間に…といってもヒーローは目が見えないのよね。で、ソフィアはジャクソンの店で雇われることになり…

 このまま二人の恋愛が始まるのかと思いきや、なかなかそうでないところがいいですね。

 ヒロイン伯爵夫人が美しかったから満足できたけれど、映画の出来は「失敗作」とのそしりを受けそうだ。上海の魅力を存分に引き出せたとは思えない作品で、全体としてぴりっとしたところがなく、インパクトが弱い。何よりも、「夢のバー、理想のバー」とジャクソンが見えない目を輝かせた肝心のバーの魅力がそれほど観客に伝わって来ないのではないか。それまでのバーとどこがどう違うのかがわからないのだ。

 政治的緊張感をバーに持ち込むという奇想天外なアイデアには驚いたが、その「政治的緊張」がまったく伝わってこない。日本軍の上海上陸もどこか絵空事のように見えてしまって、手に汗握らない。大陸浪人なのか特殊機関の男なのか、謎の日本人松田(真田広之)に悪人の迫力がないのもマイナス点。「ぼくとマツダは情熱を共有している」というジャクソンの科白が浮いている。いったいなんの情熱なのかさっぱりわからない。

 激動の時代の上海に舞台を設定し、革命と戦火に翻弄されるロシア人とアメリカ人と日本人との友情と愛の物語というともっとドラマチックでもいいと思うんだけど、いまいち盛り上がりに欠けました。

 とまあ、批判ばかり書いたけれど、最後はけっこううるうるきました。中年にはぐっとくる場面もあって、抑えた大人の恋愛には胸がつまった。見て損したとは思わない映画だけれど、劇場で見るだけの値打ちがあるかは疑問。DVDでじゅうぶん。

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THE WHITE COUNTESS
イギリス/アメリカ/ドイツ/中国、2005年、上映時間 136分
監督: ジェームズ・アイヴォリー、製作: イスマイル・マーチャント、脚本: カズオ・イシグロ、音楽: リチャード・ロビンズ
出演: レイフ・ファインズ、ナターシャ・リチャードソン、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、真田広之、リン・レッドグレーヴ

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2 コメント

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初めまして (ひろぼう)
2007-10-07 08:38:33
いつもDISCASでの博識で良識の有るレビューを参考にさせて頂いてます。
こちらのブログはつい先日知りました(ブログ初心者です)。
良い映画のご紹介がとても楽しみです。
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初めまして (ピピ)
2007-10-08 22:54:51
 DISCASはたくさんの素晴らしいレビュアーの方がいらっしゃるので、わたしのような者が書く必要もないだろうと思い、最近あまり書いていません。レビューがほとんどついていない作品か、どうしてもお奨めしたいものか、なにか特徴のあるもの以外はもう書かないと思います。
 もし参考にしていただけるなら、こちらのブログをお読みいただければ幸いです。これは個人サイトなので、好き放題書けますし。
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