ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

武士の一分

2007年05月18日 | 映画レビュー
 山田洋次の時代劇三部作をすべて劇場で見たが、いまから思えば「たそがれ清兵衛」がいちばん印象に残っている。

 妻と二人、慎ましく暮らす若侍。妻は美しく可愛く健気で、夫に尽くすことを何よりの喜びとしている。夫は優しく男前で、秀才なのに家柄がよくないのかわずか30石取りだ。だが貧しくても二人は楽しく暮らしている。父の代からの忠義者の中間が彼らによく尽くしている。物語はほとんどこの3人の会話から成り立っているようなものだ。脇を固める配役にベテランのいい役者を揃えて、仕事は万全だ。万全すぎて面白くない。

 原作はわずか数十頁の短編であり、それを2時間の映画にするのはやや難があった。どうということのない物語をどうということのない感動ものに仕立て上げる。もちろん、感動的な場面はあるし、ほろりとさせるのはお手の物だよ、山田さん。

 藩主のお毒味役を仰せつかっている地味な仕事の三村新之丞が、ある日、貝毒に当たって失明してしまう。困窮した彼のため、妻は上司に今後のことを頼みにいってそのまま手込めにされてしまう。などというありがちなパターンの話。で、妻を離縁した三村は、目も見えない身体で仇を討つために上司と一騎打ちをする。あ、全部書いちゃった。ネタバレですね(^^ゞ

 役者の中でも特に中間・徳平役の笹野高史、いいねぇ、この人最高! ユーモラスで暖かみのある演技には惚れた。それから、可憐な妻「かよ」! 名前がいいねぇ(^^)v。かよを演じた壇れいがほんとによく和装が似合う美人だ。ぽっちゃりとした顔は愛らしく、歳よりずいぶん若く見える。ほんとは35歳なんだよ! キムタクは鬘をかぶるとふつうの男に見えるね。スターのオーラがない。そのぶん、この時代劇にはぴったりだったかもしれない。

 全体としてはなんということのない小さなお話でまとめたけれど、細部はなかなかよいものがあった。ときどきクスリクスリと笑わせてもらったし。ただし、ラストシーンがベタなのはいただけない。

 やはり、同じ藤沢周平もので原作をとってきたら、最初のが一番いいわなぁ。だんだん出し殻になってくるのはしょうがないか。原作がうちの図書館にあるので読んでみよう。

 ………読んだ。実に短い。読了したら、映画の評価が変わっていた(~o~)。この短い作品をあれだけ詩情溢れる映画にしたのだから、やはり山田洋次は手練の監督だ。ただ、ラストだけはやはり小説のほうがよい。実に簡潔で淡々とした余韻が深く残る。小説は、三村新之丞が妻の不倫を疑う場面から始まる。その心理の綾が簡潔な文体でよく描かれていて、嫉妬と愛に挟まれて行く男の気持ちが痛い。 

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121分、日本、2006年
監督・脚本: 山田洋次、製作: 久松猛朗、原作: 藤沢周平『盲目剣谺返し』、音楽: 冨田勲
出演: 木村拓哉、檀れい、笹野高史、小林稔侍、赤塚真人、左時枝、大地康雄、緒形拳、桃井かおり、坂東三津五郎

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