先に続編の「サラバンド」を見てからの鑑賞なので、30年後の彼らの老け方や行く末を頭によぎらせながら見ていた。で、見終わって気付いたことは、主役二人は同じだし概ね二人の経歴も同じではあるのだが「サラバンド」は正確には続編ではないということだ。人物の名前や年齢、家族構成などが微妙に変えてある。
それはともかく、元々はテレビ番組であったという五時間のドラマを劇場用に再編集した本作は、確かにほとんど室内劇で登場人物は大部分が二人だけという会話劇であり、映画的な醍醐味は薄いのだけれど、主演二人の白熱の演技といい、人間心理の襞の襞まで広げて見せるような脚本の魅力で最後まで緊迫感をもって一気に見せる。
結婚して10年の理想的なインテリ夫婦ヨハン(字幕では「ユーハン」)とマリアンは、家庭雑誌のインタビューに答えて自分達がいかに仲の良いカップルであるかを強調する。だが、「問題がないのが問題だ」という言葉どおり、二人の間には見えない亀裂が走っていたのだった。友人夫婦を招待した夕食会の席上、罵りあいを始める友人達を見たマリアンは、夫婦の関係について考えざるをえない心境になる。
やがてある日突然、ヨハンはマリアンに「好きな女ができた」と告げて家を出て行ってしまう。離婚するのか? 二人の関係はどうなる?
一見どこの夫婦もが抱えているようなちょっとしたすれ違いや不平が二人の口をついてあふれ出すとき、痛くて耳をふさぎたくなるような台詞が羅列される。だから最初ヨハンの別離の言葉に衝撃を受けたマリアンが時の流れとともに徐々に明るくなり髪型も変わり、自分の運命を受け入れて前向きに生きようとする姿にはほっとする。しかしこの夫婦は離婚を決めてからがまた長い。よくぞこれだけの腐れ縁もあったものだと感心する。離れては出会い、出会っては傷つけあい、罵りあったと思えば愛し合い、結局離れることはできないのだろうか? 続編「サラバンド」では人生の最期を前にして二人は再会するのだが、その確かな含意がこの映画のラストに漂っている。
ヨハンとマリアンがセックスについて率直に話し合う場面が印象深い。夫婦のセックスをおざなりにしない(できない)スウェーデン人の性癖なのだろうか、セックスレスといわれる日本の夫婦とはかなり様相が違う。
この作品ではヨハンとマリアンという一組の夫婦の葛藤だけではなく、友人夫婦の諍い、また家族法を専門にするマリアンのもとを訪れたクライアント女性のケースを挿入することによって、より様々な夫婦の苦しみをあぶり出す。
とにかく痛い台詞、見覚え聞き覚えのあるような台詞の数々はとても他人事とは思えず、のめりこんで見てしまった。固い台詞だらけの室内の二人芝居というのにこれだけ最後まで飽きさせないとはすごい脚本だ。結婚生活のなかで多くの人が感じるような虚栄や裏切り、倦怠、嘘、妥協、憤懣、情欲、それらのすべてが主役二人の口をついて出てくる。学者であろうと弁護士であろうと、インテリの二人にも人の心は不可解なものであり謎なのだ。(DVD)
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SCENER UR ETT AKTENSKAP
スウェーデン、1974年、上映時間 168分
監督・脚本: イングマール・ベルイマン、製作: ラーシュ=オーヴェ・カールベルイ、音楽: オウェ・スヴェンソン
出演: リヴ・ウルマン、エルランド・ヨセフソン、ビビ・アンデショーン、ヤン・マルムショ
それはともかく、元々はテレビ番組であったという五時間のドラマを劇場用に再編集した本作は、確かにほとんど室内劇で登場人物は大部分が二人だけという会話劇であり、映画的な醍醐味は薄いのだけれど、主演二人の白熱の演技といい、人間心理の襞の襞まで広げて見せるような脚本の魅力で最後まで緊迫感をもって一気に見せる。
結婚して10年の理想的なインテリ夫婦ヨハン(字幕では「ユーハン」)とマリアンは、家庭雑誌のインタビューに答えて自分達がいかに仲の良いカップルであるかを強調する。だが、「問題がないのが問題だ」という言葉どおり、二人の間には見えない亀裂が走っていたのだった。友人夫婦を招待した夕食会の席上、罵りあいを始める友人達を見たマリアンは、夫婦の関係について考えざるをえない心境になる。
やがてある日突然、ヨハンはマリアンに「好きな女ができた」と告げて家を出て行ってしまう。離婚するのか? 二人の関係はどうなる?
一見どこの夫婦もが抱えているようなちょっとしたすれ違いや不平が二人の口をついてあふれ出すとき、痛くて耳をふさぎたくなるような台詞が羅列される。だから最初ヨハンの別離の言葉に衝撃を受けたマリアンが時の流れとともに徐々に明るくなり髪型も変わり、自分の運命を受け入れて前向きに生きようとする姿にはほっとする。しかしこの夫婦は離婚を決めてからがまた長い。よくぞこれだけの腐れ縁もあったものだと感心する。離れては出会い、出会っては傷つけあい、罵りあったと思えば愛し合い、結局離れることはできないのだろうか? 続編「サラバンド」では人生の最期を前にして二人は再会するのだが、その確かな含意がこの映画のラストに漂っている。
ヨハンとマリアンがセックスについて率直に話し合う場面が印象深い。夫婦のセックスをおざなりにしない(できない)スウェーデン人の性癖なのだろうか、セックスレスといわれる日本の夫婦とはかなり様相が違う。
この作品ではヨハンとマリアンという一組の夫婦の葛藤だけではなく、友人夫婦の諍い、また家族法を専門にするマリアンのもとを訪れたクライアント女性のケースを挿入することによって、より様々な夫婦の苦しみをあぶり出す。
とにかく痛い台詞、見覚え聞き覚えのあるような台詞の数々はとても他人事とは思えず、のめりこんで見てしまった。固い台詞だらけの室内の二人芝居というのにこれだけ最後まで飽きさせないとはすごい脚本だ。結婚生活のなかで多くの人が感じるような虚栄や裏切り、倦怠、嘘、妥協、憤懣、情欲、それらのすべてが主役二人の口をついて出てくる。学者であろうと弁護士であろうと、インテリの二人にも人の心は不可解なものであり謎なのだ。(DVD)
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SCENER UR ETT AKTENSKAP
スウェーデン、1974年、上映時間 168分
監督・脚本: イングマール・ベルイマン、製作: ラーシュ=オーヴェ・カールベルイ、音楽: オウェ・スヴェンソン
出演: リヴ・ウルマン、エルランド・ヨセフソン、ビビ・アンデショーン、ヤン・マルムショ