ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

もだえ

2008年01月20日 | 映画レビュー
 スパルタ教育に追い立てられる学生の青春の蹉跌を描いたベルイマン初脚本作。国際的にも評価されているようだが、今の日本の教育状況と懸け離れすぎているから内容が古くさく、魅力を感じない。ただし、これを教育問題に限定せず、青春の反抗と挫折というより広いテーマを扱っていると見ればそこそこいいかもしれない。

 上流階級の子弟が通う高校の最上級生たるヤンエーリクは、生徒たちから「カリギュラ」とあだ名される謹厳な教師にいじめられていた。カリギュラは生徒をいびることを無上の楽しみするような人物で、ヤンエーリクも卒業試験を落とされる恐れがあった。学校の前にある煙草屋の女店員ベルタに恋したヤンエーリクだったが、彼女は「あの男がやって来る! あいつにいたぶられるのが怖い」と恐れおののく。酒浸りの荒んだ生活をしていたベルタには秘密があったのだ。だが、その男のことを語りたがらないベルタだった…

 ドイツ表現主義風のおどろおどろしい場面もあり、それなりに怖がらせる描写にも力を入れているけれど、やはりこの時代の映画は端正だ。今なら淫猥な教師の変態ぶりをたっぷり描写しそうなところを、この当時はセリフだけですませてしまう。だから、妙にリアリティがなく、また、逆にそのリアリティのなさを補う大仰な演出があったりして、ちょっとどうかと今どきの観客としては思ってしまうのだ。

 ただ、これがハリウッド映画ならすっきり爽やかなハッピーエンドにするんだろうに、そうならないところがベルイマンの脚本だ。どう考えても理不尽なラストなのになぜか明るい空と明るい音楽。どうなっているの、これは。こういう皮肉な終わりかたがほんとうにベルイマンが求めたラストなのだろうか?

 脚本力よりも演出力に問題を感じた一作。

 1944年製作。戦争中にこういう「時局」に無関係な映画を作る余裕があったのだからスウェーデンというのは文化立国なのかも。(CATV)


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もだえ
HETS
スウェーデン、1944年、上映時間 105分
監督: アルフ・シェーベルイ、脚本: イングマール・ベルイマン
出演: スティーグ・イェレル、マイ・ゼッタリング、アルフ・ケリン、グンナール・ビョルンストランド

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