ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

ラストキング・オブ・スコットランド

2007年04月06日 | 映画レビュー
 やっぱり人喰いアミンは怖いです。などというと悪しきオリエンタリズムというそしりを免れないけど…

 なんでウガンダのアミンがスコットランドの王様なの?と誰もがいぶかしむでしょう、そう、彼は「スコットランドの最後の王」を自認していたスコットランド好きなのだ。イギリスの後押しで政権の座に着いたアミンが、同じくイングランドの植民地的存在であったスコットランドと自国を重ねたのも頷ける。

 この作品は、「食人鬼アミン」と恐れられたウガンダの独裁者を架空のスコットランド人青年医師の目を通して描く。主人公はあくまでも白人青年だ。この物語は西洋からの眼差しであり、そこに悪しき「オリエンタリズム」があることは否定できないのだが、このような映画を批評しようとすればポストコロニアリズム批評について勉強しなければ、と思ってしまうところがヘタレインテリの悲しさか(^_^;)。

 スコットランドの裕福な家のお坊ちゃまが気まぐれでウガンダにやってきて、人道支援の医師を目指す。現地で既に地道な活動を続ける白人医師夫妻のもとにやっかいになりながら、その妻に惹かれてみたり、ちょっとしたことでめげそうになってみたりと、青臭いおぼっちゃまらしさを随所に覗かせながら、やがて青年医師ニコラスに人生の転機がやってきた。クーデターで前大統領を倒したアミンの演説をふと聞いたニコラスは、たちまちこの陽気な大男に魅せられてしまう。偶然にもアミン大統領が軽い怪我をする現場に居合わせ手当てしたことから、すっかり気に入られてしまうニコラスは、大統領の主治医へと出世する。アミンに気に入られた青二才が有頂天になる様は初めのうちこそ微笑ましくもあるが、だんだん危なっかしいものへと変っていく。人民のために働くと公言したアミンがやがては政敵を容赦なく処刑し、側近にまで疑惑の目を向け粛清を始める頃からだんだんと雲行きがあやしくなる。やがて自分の身が危うくなったニコラスは、アミンから逃げようとするが…

 終盤のスリルは手に汗握るし、終わりに近づくほどアミンは疑心暗鬼に苛まれた恐ろしい人物へと変り、その形相も悪魔じみてくる。フォレスト・ウィテカー、すごい熱演。怖いです。

 この映画が徹頭徹尾<北から南を見る>視点であることが、先進国の観客にはわかりやすいだろう。アミンを支持したイギリスの薄汚い外交政策への批判も「心地よい」。映画は最後まで観客を飽きさせずグイグイひっぱっていくのだが、やはりどうしてもウガンダ現地の人はこの映画をどう観るのか気になるところだ。だが、こういう言辞を吐いた途端に、わたしの言葉は政治性を帯びる。果たして「純粋な南の視点」というのはありえるのだろうか? 存在しない「理想的な南の視点」を措定してはいないか? そのような疑問と批判を内在させつつ、なおかつわたしはこの映画を現地の人がどう観るのか、知りたいと思う。

 問題は、連赤事件を一部の狂った人間が起こしたものという分析が間違っているように、アミンの粛清を一人の狂人の仕業と片づけてしまうことだろう。これが「近代」と「植民地支配」が生んだものだとしたら、これからも繰り返される可能性はあるわけで、そういう意味では映画「ルワンダの涙」も同じ質と問題を孕んでいる。(R-15指定)

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ラストキング・オブ・スコットランド
THE LAST KING OF SCOTLAND
上映時間 125分(アメリカ/イギリス 2006年)
監督: ケヴィン・マクドナルド、 原作: ジャイルズ・フォーデン 『スコットランドの黒い王様』、脚本: ジェレミー・ブロック、ピーター・モーガン、音楽: アレックス・ヘッフェス
出演: フォレスト・ウィッテカー、ジェームズ・マカヴォイ、ケリー・ワシントン、ジリアン・アンダーソン



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