ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

ランジェ侯爵夫人

2008年06月19日 | 映画レビュー
 18世紀、パリ社交界の花形夫人と野人的将軍との恋の駆け引き。行き詰まる心理的駆け引きに手に汗握るか、果てしなく退屈な思わせぶりに眠気を催すか、評価が極端に分かれそうな一作。で、わたくしは後者でございます。疲労困憊の毎日なのだから、この映画では目が覚めませんことよ、おほほほ。でも眠気と戦い、うつらうつらしながらも最後までちゃんと見てました。歯がゆい恋の駆け引き場面にイライラしたけど。何しろ恋愛映画のくせにキスシーン一つ登場しない。男と女は近づいたかと思えばどちらかがさっと身を引く。触れあいそうになれば途端に「わたしには夫ある身」などと言い出す。自分から誘いをかけておいてそれはないやろ~。しかしこれが19世紀の人々を喜ばせる恋の手練手管の物語なのだろう。

 バルザックの原作は読んでいないのだが、劇場用パンフレットによればほぼ原作通りだという。ということは、この作品の恋の駆け引きが観客に与えるイライラは原作のなせる技ですな。それに映画的には音をうまく使っている。BGMがなく、靴音や床の軋む音が妙に甲高く耳につくので一層焦燥感が募る。ギョーム・ドパルデュ-(ジェラール・ドパルデューの長男。父親よりかなりハンサム)は事故で片足を失い、義足をつけているため、歩くたびにギシギシと音が鳴る。それが映画に不協和音的効果をもたらす。そして、ほとんど室内だけで撮影される場面でカメラはじっくりと長回し。思わせぶりなカメラの動きに、フレームの外が気になる観客をやきもきさせる手管はさすがに老匠監督のもの。


 めくるめくコスチューム・プレイに目を見張るのは、ランジェ公爵夫人たちの衣装。古代ギリシャ風のスタイルが流行ったナポレオン時代の名残で、彼女たちの服装が胸を強調した軽いシフォンドレスであるところが美しい。現在流行中の若い女性たちが着ている胸元切り替えのドレスとそっくりですねぇ。ランジェ公爵夫人を見ていると、ジャック=ルイ・ダヴィッドが描いた「レカミエ夫人」を思い出す。
 

 それにしても彼らの恋の駆け引きは、いったいどちらが主でどちらが従なのか、その立場が簡単に逆転し、いつか分からなくなるところが興味深い。結局最後の最後まで翻弄されたのは将軍のほうだったのだろうか、それとも…。

 将軍が秘密結社を率いているらしいという裏話めいた部分や、ナポレオン遠征後の軍人たちの行く末など、歴史的興味もそそられる。
 とはいえ、すっきり爽やかで気持ちが晴れたという映画ではなく始終いらいらと切歯扼腕させられたため、けっこう疲れた一作でありました。やっぱり「インディ・ジョーンズ」でも見てバカ笑いするしかないよね~。

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ランジェ公爵夫人
NE TOUCHEZ PAS LA HACHE
フランス/イタリア、2007年、上映時間 137分
監督: ジャック・リヴェット、製作: モーリス・タンシャンほか、原作: オノレ・ド・バルザック、脚本: パスカル・ボニゼール、 クリスティーヌ・ローラン
、ジャック・リヴェット 、音楽: ピエール・アリオ
出演: ジャンヌ・バリバール、ギョーム・ドパルデュー、ビュル・オジエ、ミシェル・ピッコリ

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