離婚を決意した結婚15年目の夫婦が、友人の結婚式のために訪れたパリで時を過ごすうちに微妙な心の変化をきたす、という物語。オムニバス「パリ、ジュテーム」での諏訪作品がいちばん気に入ったわたしは、本作もかなりの期待を持ったのだが、これはダメ。違和感ばかりが募る映画だった。とはいえ、個々のシーンではハッとさせられるような演出もあり、心に沁みる場面もなかったわけではない。しかし、とりわけ主役マリーを演じたヴァレリア・ブルーニ・テデスキの演技が納得できなくて、わたしには不可解な映画だった。
諏訪監督は決まった脚本を用いず、だいたいの設定だけを決めてあとは役者に任せて演技させる演出法をとるという(公式サイトより)。では今回、マリーを演じたヴァレリア・ブルーニ・テデスキは、離婚間際の夫婦の会話の中で、突然怒りだしたりにやにや嗤ったりということが当然ありえると思ってそのように演じているわけだ。ここがわたしには理解できない。
マリーが喋る場面ではほとんどカメラは固定で、対話であるのに夫の姿をまったく写さない。しかも二人の会話の間にはドアという「壁」を一枚隔てさせる。作品の最初のほうではこのドアが大きな音をたててばたんと閉じられ、マリーの冷ややかで苛立った声がドア越しに聞こえてくる。ところが、そのずっと後の場面では同じような設定だが、ドアは半開きになっている。つまり、夫婦の気持ちが少しよりを戻したわけだ。その二つの場面の間の時間にいったい二人にどんな心理の変化をもたらす事件があったのだろうか?
実は事件など何もない。この映画ではストーリーらしきものは何もなく、事件も起こらないし、とりたてて意味のあるセリフが語られているようにも思えない。ただ、ロダン美術館を一人歩くマリーは男と女が溶け合うような彫刻に魅せられ、画面には大きく、つなぎ合う巨大な手の彫刻が何度か映し出される。そういう象徴的な場面をいくつか挿んで彼女の心が揺れていく様子をやんわりと描くのみだ。だからここには、何か具体的な夫婦の不和となる原因がわかるような描写もなければ和解のための事件が描かれるわけでもない。具象がないゆえに観客は様々なドラマをそこに読み取ることができるだろう。あるいは、読み取ることを強制される、とも言えるわけだ。
諏訪監督はヨーロッパでは人気があるらしく、この作品もいくつかの映画賞を受賞している。しかしわたしにはピンとこない映画だった。セリフが少ないとか具体的な描写がないとか、そんなことが問題なのではない。そういう映画に心がつかまれることだってあるが、この作品からは何かを受け取ることがなかった。これは受け手の側の受容能力が低いという問題だろう。こういう作品が好きな人は好きだと思う。一般受けしないことだけは確かだが、気に入る人はすごく共感できるのではなかろうか。(レンタルDVD)
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UN COUPLE PARFAIT
フランス/日本、2005年、上映時間 108分
監督: 諏訪敦彦、プロデューサー: 澤田正道、吉武美知子、音楽: 鈴木治行
出演: ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ブリュノ・トデスキーニ、ナタリー・ブトゥフ、ジョアンナ・プレイス、ジャック・ドワイヨン、アレックス・デスカス
諏訪監督は決まった脚本を用いず、だいたいの設定だけを決めてあとは役者に任せて演技させる演出法をとるという(公式サイトより)。では今回、マリーを演じたヴァレリア・ブルーニ・テデスキは、離婚間際の夫婦の会話の中で、突然怒りだしたりにやにや嗤ったりということが当然ありえると思ってそのように演じているわけだ。ここがわたしには理解できない。
マリーが喋る場面ではほとんどカメラは固定で、対話であるのに夫の姿をまったく写さない。しかも二人の会話の間にはドアという「壁」を一枚隔てさせる。作品の最初のほうではこのドアが大きな音をたててばたんと閉じられ、マリーの冷ややかで苛立った声がドア越しに聞こえてくる。ところが、そのずっと後の場面では同じような設定だが、ドアは半開きになっている。つまり、夫婦の気持ちが少しよりを戻したわけだ。その二つの場面の間の時間にいったい二人にどんな心理の変化をもたらす事件があったのだろうか?
実は事件など何もない。この映画ではストーリーらしきものは何もなく、事件も起こらないし、とりたてて意味のあるセリフが語られているようにも思えない。ただ、ロダン美術館を一人歩くマリーは男と女が溶け合うような彫刻に魅せられ、画面には大きく、つなぎ合う巨大な手の彫刻が何度か映し出される。そういう象徴的な場面をいくつか挿んで彼女の心が揺れていく様子をやんわりと描くのみだ。だからここには、何か具体的な夫婦の不和となる原因がわかるような描写もなければ和解のための事件が描かれるわけでもない。具象がないゆえに観客は様々なドラマをそこに読み取ることができるだろう。あるいは、読み取ることを強制される、とも言えるわけだ。
諏訪監督はヨーロッパでは人気があるらしく、この作品もいくつかの映画賞を受賞している。しかしわたしにはピンとこない映画だった。セリフが少ないとか具体的な描写がないとか、そんなことが問題なのではない。そういう映画に心がつかまれることだってあるが、この作品からは何かを受け取ることがなかった。これは受け手の側の受容能力が低いという問題だろう。こういう作品が好きな人は好きだと思う。一般受けしないことだけは確かだが、気に入る人はすごく共感できるのではなかろうか。(レンタルDVD)
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UN COUPLE PARFAIT
フランス/日本、2005年、上映時間 108分
監督: 諏訪敦彦、プロデューサー: 澤田正道、吉武美知子、音楽: 鈴木治行
出演: ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ブリュノ・トデスキーニ、ナタリー・ブトゥフ、ジョアンナ・プレイス、ジャック・ドワイヨン、アレックス・デスカス