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短文


我是三四六岁 
(旅の相棒募っています 乙女)

おはなし ぽん!

2024年07月30日 16時55分17秒 | 日記
レ-スの布地が形になったのは、三中井呉服店、百貨店で買われてからだった。
8歳違いの姪は派遣看護師で20歳になっていた。
三中井デパートは京城に1911年には進出し、地上7階、地下1階の規模だった。1931年にスタ-トした和信デパートの南に位置していた。京城には三越を始め丁稚屋という名前のデパ-トを含め5つあり、1934年にはチェ-ンストアに当たる連鎖商店街が大々的にオープンした。
白いレース生地がご主人に買われたのは渡船後の1937年以降で、町にはガスも水道も備わり、育てられた祖母の生家よりも遥かに恵まれた別天地だった。見るもの全て12歳の少女ケイの目を輝かせ、新しい夢のような、けれど現実の世界だった。
そして壮年をすぎてときおり口からこぼれる別天地の暮らしに、周囲が「おおぼらふき!」と事実を知らぬ多くが半ば、見下すようにケイの会話をとぎらせるのも仕方があるまい。ケイが持ち運んでしまわれた衣類を箪笥の奥から出して周囲に見せる機会も、ましてや自分が手にして体に当てることもなく、多くが物言いわぬ世界に旅立った。華やかな時代、そしておぞましい混乱の時代、それが当時を知った人の記憶にある、けれど物は言葉で語りもしないツ-ルであった。
ケイの10代後半を過ごした外留置の時間は、束の間の異邦人としてひょっこり自分の中に呼び戻されることもあり、人知れず生きて現実の慰安効果になっていたのだった。今を繋ぐ一コマの過去であり、明日を繋ぐその場の架け橋でもあった。人によっては恋しかった人であったりもするだろう。そういったものは口には出さない、内奥からどこか自らを奮い立たせる力があったに違いない。
平壌府其林町109  住宅1棟 26、5坪
家具一式  6,650.-  衣類等  10,000.- 
用意された住居だった。


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