表題のCZ-504Dという、通信用高信頼管について以前調べたことがありますので、それを載せたいと思います。
上記写真は、CZ-504Dの外観(左手側;TEN(神戸工業)製、右手側:NEC製 です。
CZシリーズの球については、「電子管の歴史」(オーム社)および「ラジオ技術4月号別冊」(ラジオ技術社)に掲載されていますので、これらを以下に抜粋します。
CZ型五極管でヒータは5.5V-1Aの傍熱型出力管。「原型はMB-655-Aである。これは、イギリスのSTC(Standerd Telephone and Cable)社が開発した7A2を参考にしたものである。後に仕様が整備されCZ、CYの名称で呼ばれるようになった。表1にCZ型5極管の用途と特性の要点を示す。
表1 CZ型5極管
原型 | 用途 | Vp=250V | ||||||
Ih[A] | Vh[V] | Vsg[V] | Vg[V] | Ip[mA] | gm[mS] | |||
CZ-501-D | MC-656-C 改造品 |
電圧増幅 | 1 | 3.5 | 130 | -2.5 | 6.5 | 3.5 |
CZ-502-D | MC-657-A | 可変増幅 | 1 | 3.5 | 130 | -2.5 -10 |
6.5 | 3.5 0.35 |
CZ-503-D | MC-655-C | 抑制格子変調 | 1 | 5.5 | 200 | -13.5 | 35 | 3.5 |
CZ-504-D | MB-655-A | 出力増幅 | 1 | 5.5 | 200 | -13.5 | 35 | 3.5 |
CY-501-F | MC-656-B | 簡易増幅 | 0.5 | 4.5 | 100 | -1.5 | 5 | 2.0 |
1946年初めから、通信の復興のさきがけとして通信管の生産が始まったが、設備、技術、資材などの荒廃のため品質が悪く、品質改善に全力を注ぐこととなった。1948年頃には平均寿命が10,000時間以上になり、戦前の水準に回復した。さらに1952年にはCZ-501-Dの実用寿命試験で13万時間という驚異的な値が得られるようになった。
終戦前後に作られた真空管の品質は悪く寿命も極端に短いものが多かった。そこで、電気通信省施設局調査課、同電気通信研究所電子管課と製造会社が協力して、事故原因の究明と対策をとることとなった。対象品種としてCZ-501-D、CZ-504-Dが取り上げられた。調査の結果、主な不良原因は真空不良とステム・クラックであることがわかった。とりあえず前者の対策として、陽極の代用材料の鉄がNiに戻され、ゲッタのバリウム・マグネシウム合金が、バリウムに置き換えられた。1946~47年の実用寿命試験の結果、CZ-501-Dの平均寿命は11,000時間と推定され著しく改善された。さらに後者のステム・クラック対策として、鉛ガラスをカリガラスに置き換えると同時に、ステムの温度を下げるための熱遮蔽板その他の改良が加えられた。この試作品についての加速寿命試験では、CZ-501-Dの推定平均寿命12,000時間が得られえた。
その後、前期通研電子課と各製造会社が協力し、CZ-501-D、CZ-504-Dの一層の長寿命化を図ることとなり、次の3つの対策が取られた。
(イ)陰極基体金属とゲッタの性能を改善して、陰極の熱電子放出をよくする。
(ロ)制御格子と他電極間のリーク電流をなくし、制御格子の温度を下げ、材料を選ぶことにより格子よりの電子放出をなくし、制御格子電流を少なくする。
(ハ)ベースセメントの材料と処理法の改善をして、ベースに関連する事故を無くする。
対策の結果は極めて良好で、日本電気製CZ-501-Dを例にとれば、1951~52年に行った鴻巣中継所での寿命試験では推定平均寿命が13万時間という驚異的な値になった。
一般的に陰極温度を適当に低くすれば活性物質の蒸発が減るという点では寿命が長くなるはずで、許せる範囲で陰極温度を下げて使うべきだという認識が高まってきた。正規のヒータ電流よりも低い電流で使用される装置も出現した。
1954年には、CZ-501-D、CZ-504-Dのヒータ電力をそれぞれ3V(1A)、5V(1A)と、従来より小さくしたCZ-501-H、CZ-504-Hが試作された。CZ-501-H、CZ-504-Hの陰極過熱寿命試験では、それぞれ40万、22万時間の平均寿命が推定された。」(以上までの参考:「電子管の歴史」 日本電子機械工業会 電子管史研究会編 オーム社)
次に、ラジオ技術4月号別冊「佐藤定宏 徹底してマニアライクに迫る真空管パワー・アンプ作品集」(ラジオ技術社 昭和62年4月10日発行)に製作記事があり、そこに佐藤氏が入手したCZ-501-DおよびCZ-504-Dの規格表があるので以下に記載します。また、これら球に関するエピソード等も記載します。
【通信用5極増幅管CZ-504Dを使ったAB級10Wステレオパワーアンプの製作】記事より。
「この球の定格などは名前をやっと知っていたという程度で何もわかっていないので、幸い日本電気社長の田中忠雄氏と知遇を得ている関係で、同氏にこの球のことを伺ったところ、早速自筆で詳しい資料を知らせていただくことができたという幸に恵まれました。
それによれば、CZ-504DはCZ-504Vなどと一緒のグループに所属する、日本電信電話公社向けの真空管で、すでに中止となっているものの由で、CZ-504Dがフィラメント規格5.5V,1.0A、CZ-504Vが6.3V, 0.9Aという他、球の寸法、定格、試験法共、同一のものということが判明しました。」
以下、図1に規格表を示します。
図1 CZ-501DおよびCZ-504D/Vの規格表
(ラジオ技術4月号別冊「佐藤定宏 徹底してマニアライクに迫る真空管パワー・アンプ作品集」(ラジオ技術社 昭和62年4月10日発行)より。)
以上が、CZ-504Dについて調べてみた結果です。少しでも参考になれば。
規格表を図1に記載しましたが、よく見かける(「真空管マニュアル」(ラジオ技術社)にも記載されている)Vp=250V, Vsg=200V, Vg=-13.5という動作点は試験条件で使用されている値のようです。Vsgは最大定格で285Vまで使用可能と記載があるので、必ずしもVsg=200Vでの使用がリミットではないようです。
もう、10万時間関係なく、手持ちの真空管は死ぬまでに使い切れそうにないですね。この球は使えそうだ、この球は安い、などでついつい購入してしまい、いつの間にか使いきれない数になってしまいました。死後、ゴミ扱いされないか、心配しています。
10万時間以上の寿命は私たちのように幾つかの真空管アンプと幾つかの真空管を持っている場合は使い切る前に自分の寿命が来てしまいそうですね。
手持ちにあるので作ってみたいです。