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78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎『君の名は。』上映中残念なリアクションをする観客

2016-09-13 19:19:40 | ほぼ週刊サンマイ新聞
『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』などで知られるアニメーション監督・新海誠がまたしても名作を生み出した。2016年8月27日に公開されてから3週間未満にして既に興行収入62億円を突破してしまったアニメ映画『君の名は。』である。オタクはもちろん普段アニメを観ない一般人・芸能人、更には秋元康やジブリの鈴木敏夫など業界人までもが絶賛する異例の作品を、当方は9月12日のレイトショーにてようやく鑑賞することが出来た。しかし、そこでの一部女性客のあるリアクションに幻滅してしまったのだ。

 これは東京で暮らす男子高校生・立花瀧と、飛騨の山奥の糸守町に住む女子高生・宮水三葉の身体が入れ替わり、お互い会うことは出来ないながらもその生活を何とか乗り越えていく物語。当方はこの作品のレビューをするつもりは無い。とにかく観ろ、観れば分かるとしか言いようが無いので、内容が気になる方はここから先を読まず、予告編や他者のレビューなど他の予備知識も一切入れずに真っ白な状態で今すぐ最寄りの劇場に足を運んでいただきたい。



 問題の女性客のリアクションとは、後半のとても真面目かつ感動できるシーンで笑い声が聞こえたことである。
 この物語の主軸は瀧の奮闘にある。まず入れ替わりが出来なくなった数週間後に三葉に会いに行こうと思い立ち、三葉になっている時の記憶をもとに糸守の風景を鮮明に描き、その絵を頼りに三葉の所在をバイト仲間と共に捜索する。そこで無慈悲な現実を知ることになるが、それでも三葉のことが諦めきれずに山上の神社の御神体へ向かい、三葉の口噛み酒を飲む。そこからである。瀧の目前に三葉の生い立ちの数々が走馬灯のように現れ、目を覚ますと三葉の部屋で彼女の身体になっていたのだ。
 自身のおっぱいを触り、入れ替わりが出来たことを確信した瀧は涙を流し、妹に呆れられる訳だが、ここで女性客の笑いが起きていたのだ。それも一人のみならず、おそらく10人以上は居たのではないか。確かに物語の前半で三葉と入れ替わった瀧が興味深くおっぱいを触るシーンがギャグとなり、以後数回に渡り天丼もされてはいたが、後半のこのシーンは、このあと三葉の身体の瀧が彗星の墜落から住民を、そして三葉を守る盛大な作戦を遂行し興奮不可避のクライマックスに向かう為の大事な“キッカケ”の場面であり、笑える訳が無いのだ。例えるなら『クレヨンしんちゃん』の映画『嵐を呼ぶモーレツ! オトナ帝国の逆襲』で、野原ひろしが自身の靴下の臭いを嗅ぐことで自らの過去を思い出す感動の名シーンで「靴下を嗅ぐ」行為のみを切り取って爆笑する人が果たして居るだろうか。

 前述の場面で笑った全ての女性にお願いがある。この作品をSNSで褒めたり周囲の人に勧めるのはむしろ積極的に行うべきだが、その際は是非とも考察サイトを熟読し正しい解釈をした上で得た誠実な感想を正しい日本語で正確に伝えていただきたい。

(#12:1197字)

◎SMAP解散撤回希望が6割は多すぎるのではないか

2016-08-17 19:02:53 | ほぼ週刊サンマイ新聞
 2016年8月14日、とうとう“解散”を正式に発表してしまったSMAP。NHKですら速報テロップを出し、ファンのみならず多くの国民を騒然とさせたが、そもそも契約切れとなる9月かその付近に何か起きるのではないかと冷静に分析していた人も少なくないはずである。

 某所のアンケートで「SMAPの解散自体についてどう思うか」という質問に対し、全体の60.1%が「認められない、撤回して欲しい」と回答。「このまま解散で良いと思う」と「残念だがやむを得ない」の合計でも34.7%にしか至らず、当方の意見はこちらの少数派に入ってしまう。
 というより撤回を望む声が多すぎやしないか。有効回答数は実に7000票を超えており、ファンのみならず一般人も含んだ“国民の6割”と言っても差し支えないだろう。

 確かに当方も1月、最初に独立騒動を知った時は驚き、ファンではないが解散の回避を望んでいたうちの一人である。しかし同18日、『SMAP×SMAP』での謝罪放送を観て彼等の闇に気付き、その後も良くない噂が定期的に飛び交うのを見ていくうちに「これは解散しても仕方が無い」と思うようになったのだ。真実は我々の知らないところにあるので噂についての考察は避けるが、謝罪放送での彼等の表情や言動だけでもある程度の問題を察することは出来たはずである。その時のネットの意見にはこんなものがあった。

『真ん中に立つ木村。カンペ棒読みの稲垣。言葉に詰まる香取。死んだ目をした中居。木村を介して謝罪したと言った草なぎ。今日SMAPは死んだ』
『SMAPが解散しなければいいという単純な話じゃないことに気がついた。4人にとてつもない肩身の狭い思いをさせてまで、存続する意味はないと思う』

 冷静かつ客観的に見ればこれが真意ではないか。謝罪放送での5人、特に木村を除く4人の顔を目の当たりにしたファンたちが、正式に解散が決まった今でもなお存続を望むというのなら、それは残酷すぎる願いだと思う。彼等の決断を受け入れ、応援してあげることが本当のファンなのではないか。そもそも10年以上前からソロでの活躍が目立ち、週1のレギュラー番組やライブ以外で顔を合わせることはほぼ無くなった5人。SMAPという冠が無くなったところでそれほど大きな影響があるとも考えにくい。嵐や関ジャニ∞など後輩グループも数多く育ってきており、デビュー25周年は引き際としてもマストな時期と言える。どんなものでもいずれは終わりを迎えるのだ。

 そして一番忘れないで欲しいのは、楽曲に解散は存在しないということ。当方は幼少時代からSMAPの数多の楽曲に魅了されてきた。名曲は永遠に残り、世代を超えて愛され、歌い継がれる。もう結論が覆ることは99%無いのだから、6割の方々には、余命僅かなSMAPという存在を最後の最後まで全力で応援し続けるという前向きな考えに一人でも多くシフトしていただきたい。

(#11:1196字)

◎『ラブライブ!サンシャイン!!』3話、千歌の「繋ごっか」はμ'sからの脱却の始まりなのか

2016-07-21 02:07:28 | ほぼ週刊サンマイ新聞
 2016年7月期TVアニメで最も注目度の高い『ラブライブ!サンシャイン!!』だが、7月16日に放送された3話がネット上で賛否両論になっており、その多くが2013年に放送された『ラブライブ!』(以下、無印)3話との比較によるものである。

 無印とサンシャイン、それぞれの3話の内容はこぼれ話を参照していただくとして早速考察に入るが、どちらも“3話の意外性”を求めた点では共通している。3話に山場を持ってくるアニメは無数に存在するが、無印の3話も「ファーストライブで無観客」という衝撃があった。サンシャインの3話でAqoursのファーストライブ開催が決まった瞬間、結局無印の二の舞を踏み、意外性に欠けた展開になるのかと当方はがっかりしていた。案の定本番では観客の少ない様子が描かれ、おそらく高海千歌が懇願するなどして解散しない方向に持っていくだろうなとその時は思っていた。しかし実際は停電復旧のタイミングで満員となり、失敗に見せかけた成功だった。無印3話の衝撃には及ばないが、サンシャインの3話も確かに当方は驚かされた。

 だが3話の意外性を求めるあまり、脚本の粗が目立ってしまう結果にもなっている。照明などのサポートメンバーも居ながら開始時間を間違えるのはありえないし、停電から復旧までの1分足らずの間に大勢の観客をすんなり入れられるわけがない。生徒会長の黒澤ダイヤが理由を説明するフォローはあったものの、それにしても何の実績もない無名の女子高生のライブでこんなに人が集まるのは不自然である。
 ライブで披露されたオリジナル楽曲『ダイスキだったらダイジョウブ!』も、無印の『START:DASH!!』に比べると遥かに印象にも残っていない。これは落雷による停電で曲が中断されてしまったことも一因となっているが、それを抜きにしても「完敗からのスタート」を切った少女たちの現状と歌詞も曲調もリンクしていた『START~』には遠く及ばないのだ。
 そして特筆すべきは感情移入できないAqoursの存在。メイン3人のキャラが弱く、動機もただ「輝きたい」だけで、廃校の危機でも無い為緊張感に欠ける。学校を背負う使命感を持つスクールアイドルというよりは、スクールアイドルに憧れた一般人のアイドルごっこにしか見えないのだ。楽曲の軽さもそれを表している。

 ともあれサンシャインは3話にしてようやく無印からのループ的展開を脱しつつあることは確かである。ライブ前には手を重ねていたμ'sだが、それを思い出した千歌は敢えて「繋ごっか」と言い、3人で手を繋ぎ輪になってからの「あったかくて好き」は名シーンだと思うし、その瞬間からμ'sからの脱却は始まっていると当方は解釈している。4話は予告から察するに1年生組が加入する話となりそうで、無印の同じく4話を彷彿とさせるが、サンシャインならではのオリジナリティ溢れる展開に期待したい。

(#10:1193字)

◎【こぼれ話】『ラブライブ!』3話と『ラブライブ!サンシャイン!!』3話の内容比較

2016-07-21 02:01:57 | ほぼ週刊サンマイ新聞
 完成度の高さで話題となった無印の3話は、音ノ木坂学院高校2年生の高坂穂乃果、南ことり、園田海未により結成されたスクールアイドル“μ's”のファーストライブの模様が描かれている。2話で既にグループ名が決まり、歌とピアノの上手な1年生・西木野真姫作曲によるオリジナル楽曲も完成。順風の中で迎えた3話は、早朝の練習でパフォーマンスの向上が語られ、登校中には見知らぬ上級生にも話しかけられ、確かに注目を浴びる存在になっていた。ライブ告知のビラ配りでは内気な1年生・小泉花陽が「ライブ、観に行きます」とエールを送り、スクールアイドル公式サイトにおけるμ'sのランキングも上昇と、あたかもライブが成功するかのような流れを作ってからの本番、幕が開き一人も居ない客席のシーンで視聴者に衝撃を与えた。穂乃果の目は悲しみに満ちていたが、花陽が駆け付けたことで涙を堪え、ライブを決行。披露された『START:DASH!!』の歌詞は歌う少女たちの現状とリンクしていた。

「いつか私たちで必ず、ここを満員にして見せます!」

 穂乃果の決意表明は、廃校阻止の為の“手段”でしかなかったはずのスクールアイドルが“目的”に変わる瞬間でもあった。こうして3人は「完敗からのスタート」を切ったのだ。

 ではサンシャインはどんな流れだったのか。浦の星女学院2年生の高海千歌が自身の普通すぎる半生に嫌気が差し、「μ'sのように輝きたい」理由で幼馴染の渡辺曜とスクールアイドルを結成。千歌が作詞に初挑戦し、音ノ木坂からの転校生・桜内莉子の作曲により楽曲が完成、彼女も正式メンバーとなった。そしてここからが3話だが、生徒兼理事長の小原鞠莉が「ライブの会場を満員に出来なければ解散」というルールを提案し、学校の体育館でファーストライブを開催することに。3人は練習に励み、ビラ配りなどで告知を懸命に行い、グループ名も“Aqours”に決定。そして雨が降る中の本番、幕が上がった時の観客は僅か12人。解散が確定的となりつつも3人は練習の成果を披露、しかしサビの直前で落雷による停電。それでも涙混じりのアカペラで歌い続けていると、

「バカチカ! あんた開始時間間違えたでしょ」

 千歌の姉の一言と共に電気は復旧、体育館は老若男女の町民で埋め尽くされていた。

「これは今までのスクールアイドルの努力と、町の人たちの善意があっての成功ですわ」

 活動を反対し続けてきた生徒会長・黒澤ダイヤの空気の読めない突っ込みがあったものの、μ'sの歴史を踏襲しているかのように見せかけて、Aqoursは彼女たちの真逆、「成功からのスタート」を切っていた。

◎あの殺傷事件の余波で自己防衛に走るアイドル急増……ファンは自発的に意識改善すべき

2016-06-25 12:16:03 | ほぼ週刊サンマイ新聞
「ここぞとばかりにアイドルたちが『リプしなくても怒らないでください』『病まれるのは迷惑です』『文句言わないでください』『そんな人たちは応援に来ないでください』と今までやんわりとしか伝えてなかったことをストレートにツイートし始めてオタクをふるいにかけ始めた」

 2016年5月22日、ある男性会社員のツイートである。その前日には元アイドルの女性がファンとみられる男に20ヶ所以上も刺される凄惨な事件が日本中を震撼させた。
 地下やローカルも含め、今や日本に5000人以上居るとも言われている“アイドル”、その多くは握手会やSNSなどによるファンとの“接触型交流”を売りにしているが、それ故に迷惑行為をしてしまう心無いファンも少なからず存在する。それがエスカレートした結果が今回の殺傷事件である。

 そして今、保身の如くファンをふるいにかけるアイドルは急増している。2015年にSKE48を卒業した松井玲奈は主演舞台『新・幕末純情伝』でキスシーンや胸を揉まれるシーンなども演じることが確定しており、多くのファンが落胆の声を上げている。また“まりやぎ”の愛称で知られる元AKB48の永尾まりやは、6月17日に放送されたバラエティー番組でイケメンモデルとディープキスを交わし、画面の向こうに居る数多のファンを意気消沈させた。

 残酷な事件が起きてしまっている以上、彼女たちの自己防衛に口を出すことは出来まい。むしろ、ふるいにかけた先に残る“真のファン”のみを大事にしていくことがアイドルにとっての幸せなのかもしれない。しかし、今本当に必要なのは我々“ファン”側の意識改善ではないのか。

 突然だが皆さんは声優のライブをご覧になったことがあるだろうか。2014年夏にさいたまスーパーアリーナで開催されたアニソン歌手の祭典『Animelo Summer Live』(通称アニサマ)で、μ'sやミルキィホームズのメンバーでも知られる女性声優・三森すずこが登場したときのことだった。観客席のファン達が一斉に“キングブレード”と呼ばれるサイリウムをピンク色に切り替えたのだ。

「初めてのソロ出演で不安ですけど、ここにあるピンクの一本一本が、私の支えです」

 3万本のピンクを目の当たりにした三森のその言葉を、現場に居た当方は今でも忘れていない。もちろん歌唱中は合いの手で一体化。一人一人は名前も顔さえも覚えてもらえていないけれど、3万人が束になり息を合わせれば忘れられない思い出となって相手に届けられるのだ。そのことを全国のアイドルオタクは決して忘れないで欲しい。握手会に行きたい、SNSに直接メッセージを送りたい気持ちは分かる。それを止めるつもりは無いが、例え認知されなくても、返信が来なくても、あるいはふるいにかけられても悲観しないで欲しい。それがアイドルとファンの“本来の距離”であり、お互いが幸せで居られる“適度な距離”なのだから。

(#9:1196字)

◎予告編を観て幻滅!『四月は君の嘘』実写版は最低限の設定さえも無視していた

2016-06-08 03:49:15 | ほぼ週刊サンマイ新聞
 人気漫画やアニメの実写映画化は原作ファンからの反感を買いがちなのは定説だが、それでも何の事情が働いたのか、新川直司氏原作の人気漫画『四月は君の嘘』の実写版制作は発表され、2016年6月2日には「いきものがかり」の主題歌をバックに予告動画も公開された。当方は決して漫画の実写化そのものを全否定するつもりは無いが、今回ばかりは言わせて欲しい。このまま変更なく予告編の通りに公開された場合、とんでもない改悪が起きてしまうということを。

 そもそも原作は、母の死を境にピアノの音が聴こえなくなり、天才ピアニストの肩書きを封印していた少年・有馬公生が、譜面をなぞろうとせず我流の表現によって聴衆を魅了する自由奔放なバイオリニスト・宮園かをりとの出会いによって少しずつ心を開いていく物語。演奏シーンの丁寧な描写は漫画版・アニメ版とも評価が高く、特に綺麗な着色や壮大なサウンドも加わる後者は放送当時、納期ギリギリまで制作していたほどクオリティーにこだわった逸品となっている。
 また、かをりが難病を抱えるなどシリアス成分が物語の大半を占め、作中に頻発するポエム調のモノローグなどが独特の世界観を作り出したことも人気の理由と言える。

 では実写版における改悪の危機とは何か。予告動画の開始45秒、校内で倒れるかをりを見つけた公生が「宮園!」と叫ぶシーンである。公生とかをりは互いを名前ではなく「君(きみ)」と呼び合うことで、恋人でも友達でも無い独特の関係であることを表現していた。もちろん名前を知らないのではなく“あえて”君という呼称を連発するのだ。対して公生に片想いを寄せる澤部椿は一貫して「コウセイ」と呼ぶ為、公生との距離がかをりと椿で異なることも明確に表している。当方はアニメ版でこの作品を知ったが、そのような呼び方へのこだわりも魅力の一つだと思っていた。念の為原作漫画でも呼び方を数えてみた結果、お互い実に90回以上も「君」と呼んでいた。



 かをりは3回だけ公生に直接対面で名前を呼んでおり、そのいずれも意味のある重要なシーンとなっているが、公生にいたっては一度も本人の前で「宮園かをり」という名前を使っていない。それが実写版では、1分30秒に凝縮した予告編ですら1回「宮園」と呼んでおり、約2時間はあると思われる本編で一体何回使うつもりなのか不安を覚える。2人の年齢を中学生から高校生に改変したことは最早どうでも良い。呼び方一つで原作と大いに異なる雰囲気にしてしまっている事実を、実写版の制作スタッフには是非とも自覚していただきたい。



 尚、予告動画を観る限り、呼び方以外に関しては演奏シーンも含め期待をして良いと信じている。原作は累計300万部以上も売れているコンテンツで、キャスティングも旬の広瀬すずに山崎賢人、そしてE-girlsの石井杏奈と安牌。内容自体に大きな改変さえ無ければヒットは約束されたと言えるだろう。

(#8:1197字)

◎『あんハピ♪』花小泉杏より不幸な二次元キャラは居るのか!?検証(後編)

2016-05-30 01:48:27 | ほぼ週刊サンマイ新聞
<犬吠埼樹(いぬぼうざき いつき)>

『小学生の頃、知らない大人たちが家にやってきたことがあった。私はお姉ちゃんの背中に隠れているだけで、後でお姉ちゃんは『お父さんとお母さんが死んじゃった』って、教えてくれた。あの日から、ずっとお姉ちゃんは私のお姉ちゃんで、お母さんでもあって、ずっとお姉ちゃんの背中が一番安心できる場所で……』(4話、樹のモノローグより)

 仔猫の飼い主探しから幼稚園訪問まで、世の人々の為になることを勇んで実施する「勇者部」の女子中学生4人を描いた物語『結城友奈は勇者である』。だが開始わずか9分で“日常アニメ”は幕を閉じ、スマホに表示される『樹海化警報』の赤文字、放送事故を想起させる唐突な静止画、切り裂かれる青空。神樹により守られた結界の中で未知なる敵“バーテックス”との戦いが突然始まった。部長の犬吠埼風(ふう)のみ事前に知らされていたが、他の部員には、妹の樹にさえも言えずに抱え込んでいた。部員たちは不幸とさえ思わず戦うことを受け入れ、途中から加わる三好夏凛も含めた5人は12体のバーテックスの全滅に成功。しかし、少女たちの本当の試練はここから始まった。

『もし、もし私がお姉ちゃんの後ろに隠れている私じゃなくて、隣を一緒に歩いていける私だったら……』(同)

 樹は人前で歌うのが苦手だったが、勇者部部員たちの助けもあり克服、音楽の発表会では歌声でクラスメイトを魅了した。

『頑張る理由があれば、私はお姉ちゃんの後ろじゃなくて、一緒に並んで歩いていける』(同)

 それは歌手を目指すこと――そう確信した樹は音楽事務所に音声データを送った。しかし、

――声が出ない――

 バーテックスとの戦いで勇者システム“満開”が発動、その後遺症で樹の声は奪われた。治る可能性が無いことを知ってしまった風は、樹の音声データを見つけ、再生する。

『今は歌を歌うのが本当に楽しいです! そして、私が好きな歌を、一人でもたくさんの人に聴いてほしいと思っています!』

 それを聞いた風はとうとう勇者の姿で街中を暴走、友奈と夏凛が止めに入っても治まることは無かった。

「知らされていたら、私は皆を巻き込んだりしなかった! そしたら、樹は、無事だったんだあ!」

 そこへ全てを悟った樹が現れ、風の後ろから抱きつく。

『勇者部のみんなと出会わなかったら、きっと歌いたい夢も持てなかった
勇者部に入って本当によかったよ   樹』

 無言で微笑む妹に支えられながら大声で泣き崩れる姉。9話は突きつけられた衝撃の事実、少女たちの苦悩と自己嫌悪、そして終盤の声優の本気が垣間見える号泣シーンまで、全てが完璧の神回であり、歌手を目指している矢先に声を失った樹は当方が知る中では最も不幸な二次元女子と言えよう。



 はなこ、佐倉(めぐねえ)、そして樹。無慈悲な現実を受け入れ、不幸さえもハッピーに変換し、逃げ出さずに笑顔で前向きに生きることの大切さを彼女たちは教えてくれた。

(#7:1199字)

◎『あんハピ♪』花小泉杏より不幸な二次元キャラは居るのか!?検証(中編)

2016-05-21 21:01:29 | ほぼ週刊サンマイ新聞
 以上が『あんハピ♪』はなこの壮絶な不幸エピソードであるが、そんな彼女さえも上回る不幸な二次元キャラは検証するまでもなくいくらでも存在する。不憫な環境に曝すことで読者や視聴者は全力で応援したい気持ちになり、作品の人気に繋がるのかもしれない。今回はその中から2人の女性を紹介する。不幸の先には涙無しには語れないドラマがあった。

<佐倉慈(さくら めぐみ)>

 学校で共同生活する“学園生活部”の日常を描いた平和な学園ものかと思いきや、実態は街中に溢れるゾンビから身を守る為に学校で生活せざるを得ない不幸な女子高生たちのサバイバル漫画だった衝撃作『がっこうぐらし!』。アニメ化された際には、この部活の顧問である佐倉先生(通称めぐねえ)が原作以上にフィーチャーされ話題に。特にゾンビ発生当日の出来事は3話でアニメオリジナルとして詳しく描かれた。

「教師に向いていないとまでは言いません。しかし、生徒との距離感を間違えてはいけませんよ。友達感覚といえば聞こえは良いかもしれませんが」

 上司から叱責される佐倉。優しい性格が故に生徒との距離が近すぎることが問題になっていた。
 放課後は丈槍由紀(たけや ゆき)とワンツーマンでの補修。

「テストは好きじゃない。でも、めぐねえと一緒に居るのは、そんなに嫌いじゃないよ」

 由紀の一言で、佐倉にようやく笑顔が戻る。

「めぐねえぐらいにしか、相談できる相手居なくて」

 今度は恵飛寿沢胡桃(えびすざわ くるみ)の恋愛相談に乗る佐倉。上司に怒られてはいるが、多くの生徒に信頼される立派な教師でもあった。

(私、向いてないのかもしれない、先生。でも……)

 間もなくして、街の多くの人々がゾンビに感染されている事実を知る。

『あの時、屋上にいたのは、由紀さん、悠里さんと、もう一人女子生徒。(中略)最初に気づいたのは由紀さんで、校庭を指さした。何か暴動のようなものが起きているのがわかったが、現実味がわかなかった。それから胡桃さんが息を切らして駆け上がってきて、そしてドアの外にいた無数の生徒たち。悲鳴』(原作4巻掲載の佐倉著『部活動日誌』より)

 学校で非難ではなく“部活をしている”ことにしよう。若狭悠里(わかさ ゆうり)との話し合いで誕生した“学園生活部”。皆が前向きに生きることで当初泣いてばかりだった由紀も次第に明るくなり、その笑顔は佐倉たちにも力をくれた。しかし、

『これはたぶん遺書だ。私は罪を犯した。(中略)丈槍由紀の時間が止まったのは私のせいだ。由紀さんの笑顔を望んだのは私だ。学校生活の幻想を作り上げたのも。彼女が退行した時に、それを好ましいと思った私がいた』(同)

 由紀はゾンビの居ない学校を幻想していた。彼女の中では何も起きていない。加えて精神状態の幼児退行。彼女の笑顔を望むあまり取り返しのつかないことをしてしまい、自分を責める佐倉。

 この日誌を書いて何日後だろうか。佐倉は命を失い、ゾンビになった。

(つづく)(#6:1200字)

◎『あんハピ♪』花小泉杏より不幸な二次元キャラは居るのか!?検証(前編)

2016-05-17 14:54:15 | ほぼ週刊サンマイ新聞
 独自のカリキュラムにより生徒の勉学やスポーツの才能を伸ばす名門校「天之御船(てんのみふね)学園」に存在する、生まれつき不幸を持つ生徒だけを集め、彼女達の幸福度を上げることが目的の学級“幸福クラス”。そこに入学した主人公の花小泉杏(はなこいずみ あん/通称はなこ)を始め、工事現場の看板に描かれた頭を下げる作業員に叶わぬ恋をしてしまった雲雀丘瑠璃(ひばりがおか るり/通称ヒバリ)、病弱で骨折が日常茶飯事の久米川牡丹(くめがわ ぼたん)などが不幸でも共に支え合い明るく楽しく高校生活を奮闘する物語、それが現在放送中のアニメ『あんハピ♪』である。中でもはなこは自動販売機で押したボタン通りの飲料が出てこなかったり、野良猫の集まる路地に約1000回通っても毎回襲われ引っかき傷を負ったりと、その不憫さは筋金入り。果たして彼女よりも運に見放された二次元キャラは他の漫画・アニメ作品に存在するのか。

 まずこの作品を知らない人の為に、現時点で刊行されている原作漫画から当方が独断で選定したはなこの不幸エピソードを紹介する。

<3位:熊に襲われる>

“幸福実技”の授業として学校近くの小山で開運パワースポットを巡るオリエンテーリングを開催。太陽の暖かい光を浴び、小鳥のさえずりを聴きながらのどかに歩を進めていくかと思いきや、はなこがつり橋の腐食した板に足を奪われ、猿に追いかけられ、その途中で弁当を落としてしまうなど、次から次へと不幸スキルを発揮。更に昼食後、はなこが食器を洗おうと小川に行くと髪飾りを落とし、探しているうちに川に落ちて流されてしまい、やっとの思いで陸に上がると今度は熊に遭遇。担任の小平先生が麻酔銃を打つことで一命を取り留めるも、たまたま麓の動物園から脱走した熊にたまたま出会ってしまうという偶然が重なった出来事というよりは、動物に嫌われる運命のはなこだからこそ引き寄せた惨事と言えよう。


<2位:調理実習で火柱>

 勉学クラス、スポーツクラスとの合同で家庭科の授業。お題に沿った料理を創作し出来栄えを採点するというものだが、先生は幸福クラスが相対的にレベルも意識さえも低いと嘆く。その中でもはなこは蛇口が上向きに気付かず水を顔に浴び、オーブンレンジや冷蔵庫の中に閉じ込められるなど、もはや料理以前の問題だった。しかしそれは序の口で、欠陥の無いはずのコンロでつまみを回すと何故か天井まで伸びる火柱が立ってしまう。幸いはなこは前髪を少し焼くのみで済んだが、一歩間違えると命に関わる事故だった。


<1位:プールから出られない上に落雷>

 水難に定評のあるはなこが水泳の授業で本気を出す。水中息止め対決で大量の水を飲み、競泳では飛び込みから失敗し、挙句の果てに水着が排水口に引っかかり出られなくなってしまい、そこへ近づく雷雲の不穏な音。一体どうなってしまうのか!? 衝撃の結末は発売中の単行本3巻を読んでいただきたい。


(つづく)(#5:1195字)

◎『おそ松さん』は大学生!? にわかがドヤ顔で語り合う「オタク婚活パーティー」の実態

2016-05-04 18:16:53 | ほぼ週刊サンマイ新聞
 三十路で独身の当方が意を決して「婚活パーティー」に参加したのは2016年1月のことだ。参加条件は“漫画オタク”。
 開始15分前、会場である都内某所の雑居ビルの一室に入ると、既に男性3人、女性一人が雑談をしていた。戦いはもう始まっているのだ。彼等は当時放送されていたアニメ『おそ松さん』について語っていた。

「凄い人気ですね」
「1話が衝撃でしたからね」
「でも円盤買って観たら、1話が収録されていなくて驚きましたよ」
「やはりパロディーの連発で怒られたんでしょうね」

 1万枚売れればメガヒットと言われるアニメ本編のBD、DVDを合わせて10万枚以上も売り上げた化け物級のコンテンツを、当方は全話視聴していた。彼等の発言には誤りがある。1話が円盤未収録であることはそれを買うほどのファンなら事前に知っていて当然の有名な話で、買って初めて気付くわけがないのだ。虚偽の話で盛り上がる彼等に疑問を抱きつつも、当方は当初の予定を変更し『おそ松さん』の豊富な知識で勝負に出ることにした。
 やがて男女14人のアラサーが揃い、宴はスタート。

女A「オススメのアニメはありますか?」
男A「やはり『おそ松さん』でしょう」

 開始5分で早くも来た。漫画オタクの集いなのにアニメの話をして良いのかという突っ込みはさて置き、当方にもチャンスは到来。しかし、

女B「昔の『おそ松くん』とどう違うんですか?」
男B「『くん』は六つ子を一まとめに扱っていましたが、『さん』では各人に兄弟の序列とキャラ設定が加えられ、個性が付いたんですよ。見分けが付けば更に楽しめるらしいです」

 早速おかしい。「らしい」とはどういうことか。この男Bはその後も『おそ松さん』の話題が出る度に上の台詞しか言わず、それ以上の知識は無いようだった。そして今度は女性参加者が間違った知識を披露。

女C「一人だけ大学生なんですよね」
当方「否、全員ニートです。トド松がカフェのアルバイトで大学生と偽りモテようとした話はありますけど」

 あの7話をどう観れば大学生だと解釈が出来るのか。この会場にはにわかが何人も居る。
 その後も「1話でイケメン化した6人を出して女性人気を獲得しようとしたが、実際は2話以降の原作寄りのキャラデザのほうが受けてしまった」「カラ松を弄るギャグをやったらカラ松ガールズからの批判が殺到した」など、当方の持てる知識を最大限に引き出し、『おそ松さん』に詳しいアピールを怠らなかった。もちろん相手の話も良く聞き適切な相槌も心がけた。しかし、時間が経つにつれ、あることに気付いてしまう。

――こんな会話を続けて、何の意味があるのか――

 そもそも漫画やアニメを詳しく語る男に女性は惚れるのか。逆に何度も引いていた気さえする。結局は顔と年収ではないのか。案の定、当方は誰の連絡先もゲット出来ず、参加費8000円と交通費は無駄になった。
 当分、婚活パーティーに足を運ぶことは無いだろう。

(#4:1197字)