富島健夫作品 読書ノート ~ふみの実験記録

富島健夫の青春小説を読み感じたことを記録していきます。

初恋宣言

2010-02-16 21:00:24 | コバルト
集英社文庫 コバルトシリーズ 初版:昭和51年5月
カバー:荒川喜美子
カット:増村達昭

忘れないうちにと思ったら連続更新。
会社であげてしまった。

<初恋宣言>
奥ノ瀬高校の入学式、友人と女の子の品定めをしていた一丸は、
桜の下に美しい少女、静を見る。
静に心を奪われ、絶対友達になると決心する一丸。
静もまた一丸の心を察するも、自分の心を戒める。
早熟な静は、異性との交流とは何かを敏感に感じ取っていたのだ。
お互いに意識しあう二人は自然と距離を縮めていく。
しかし静には中学の時の恩師、竹井が、
一丸には有名な不良少女、美香が猛烈なアプローチをはじめる。



二人の心がかたく結ばれているのはいつものとおりだが、
今回は脇役の存在感がしっかりとあり、物語としてはより楽しめた。

おもしろいのは静が単におとなしいだけでなく、
性に対する意識を持ち、しっかりとした自己主張ができていることだ。

また、通常物語は第三者の語りで進んでいるが、
この話では一丸と静がかわるがわる一人称で物語る部分がある。
()を用いた、単に心の声を表す部分とちょっと違うのだ。
そこで視点が移り変わり、映画・ドラマっぽい効果をもたらしている。


さて、周りより早熟で、性を感じ取ってしまうことを恥じていた静は、
一丸との恋を機にそれをふっきるのだが、

静をやっかむクラスメートに、

「わたしたちより四つ年上ね。知能程度もでしょうけど、なんとか気のほうも」

といやみを言われたとき、

「はっきり言ってもいいわよ」
「色気のことでしょう?ええそうかもしれないわ。あなたが小学六年生なら」


と返す部分がある。
痛快でもあるが、うーむ、ちょっと嫌な女かも。


二人が過ちにおちいらないのはいつもと同じ。
竹井が最後取り乱すシーンがあるが、
そこにうわべとそうでない愛の深さの対比をあらわしたのかもしれない。
いや、いいすぎか。女性の方が大人だということか?
深読みしすぎ?でも何かある気がする。



さて、次の話の女の子も、おとなしいだけじゃありません。


<美しい星への歩み>
学校の裏の松林で、友人と松ぼっくりを集めていた明子は、
一人の少年が集団暴行を受けているのを見る。
無抵抗で殴られ続ける少年、
学校で、家庭で、優等生を演じ続けるのに疲れていた明子は、
周りに迎合せず、自らの信念を貫こうとする少年の姿に魅かれていた。
ある日、生徒たちは上級生から運動部の応援の練習を強制される。
教師たちも暗黙のうちにその行為を認めているのだ。
本心では行きたくないのに、断る勇気もなく参加するクラスメートをよそに
明子は校舎を出ようとする。そして、あのときの少年もまた同じだった。
少年は一学年上の高野。二人は交際を進める。
しかし枠にとらわれまいとする二人を周囲は好ましく思わなかった。



少女と少年が、自立心を持って自分らしく生きていく。
流されるな、自分の意志を貫け。
そんなメッセージは青年に限らずとも心に響く。

父母や教師がわたしに期待しているのは、制服を着た人形になりきることである。
シャルとウィルのちがいを学び、サイン、コサインをおぼえながら、
「健全な」高校生活を送って育っていく。
多くの少女小説の主人公のように、ユーモアがあってやさしくて、ほのかに少年に心をよせることがあっても、
それはけっして全身でぶつかるような激しいものではない。あくまで制服の人形としてのわくをはずしてはならない。
それがほんとうかしら?


明子は性に対する意識も強めていく。男の人を愛してはいけないのか。
自分のことを棚にあげる大人たち、そして性が単に不順なものでないことに気づくのだ。

明子は高野に初めてあったとき、すでに性的な要素を感じている。
そして高野によって変化していく明子…ここにもエロスが感じられはしないか。


「なぜ?」
「もっと好きに、なっちゃいそうだから」
「じゃ、する!」


この初めてのキスに至るやりとりで、思わずにやけてしまった。

くちびるを吸い、その舌を迎えることをおぼえていた…というおなじみの表現にもドキドキする。

この話好きだ!

2010年2月16日読了


>次は…「のぶ子の悲しみ」かな??


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ちゃこ)
2011-05-18 11:55:57
大人しく見えて性的に目覚めてる、ステレオタイプのヒロインですね。
対して、一丸は好感がもてる主人公でした。

ふみさんが引用している「美しい星への歩み」の明子と克彦の会話はかわいらしくて私も大好きです。
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ちゃこさん (ふみ)
2011-05-18 22:59:21
ああ~、この感想文(わたしの)ひどすぎて、出だしと静と竹井のことしか話を思い出せない!

でもちょっと見返してみたら、心理描写がきちんと描かれていて、再読の必要性ありそうですね。

コバルトも初期のころのに名作多いし。
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名セリフ? (tentoku)
2011-05-19 21:22:48
「美しい星への歩み」の最後に主人公の少年が
「なにもかも、明日だ。ほんとうの自由も、恋愛も。」といいます。当時からなんとなくこの
ことばは、作者が好きなんだろうなと思ってい
ました。今でもこのセリフは覚えています。
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tentokuさん (ふみ)
2011-05-20 12:41:51
今日より明日…富島的な名言ですね!

なぜそれを取り上げなかったのか、わたしのレビューはキスだのなんだのって…お恥ずかしい限りです。まあ、そこにしびれたのがこのブログを始めたきっかけなんですけれども。
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