富島健夫作品 読書ノート ~ふみの実験記録

富島健夫の青春小説を読み感じたことを記録していきます。

ろまんの花束

2012-03-04 19:30:17 | ジュニア小説

昭和53年7月初版 実業之日本社
画・土居淳男 カバーデザイン・安彦勝博

富島健夫に戻ってきた! しかも、ジュニアものを読むのはかなり久しぶりかもしれない。

南国のみどり豊かな、燈台のある平和で静かな町。この町にある古き伝統ある豊陵高校に通う少女たちの物語が12編おさめられている。
富島健夫は短編がすごくいい。純文学では「どうしてここで?」というところで終わってしまうことがあるが、ジュニア恋愛ものでは実にいい余韻を残してくれる。

無垢な純粋な少女の心に、ふと恋が芽生えて花ひらく。まっすぐで精神的な“潔癖さ”を持つヒロインたちは、きちんとアイロンがけされた真っ白なハンカチーフのようだ。
そこに現れる少年や年長の男性たちは、みな正直だ。打算はある。「この時間にここに来れば、君に会えると思った」というような素直な打算。ふたりが心をかよわせるとき、少年が放つ言葉は少女の心を射抜く。飾りでないから、読者はあこがれ、胸を高鳴らせるのだ。

と言っても、単にきれいな恋愛物語ではなく、家族の別離や貧困、人の心のみにくさといった背景も富島作品らしく描かれている。それがお涙ちょうだいをねらったものではないのは、登場人物である少年少女の生きざまにあらわれている。まじめさと“心からの思いやり”を持つ登場人物たち。当時の女子学生にとっては、いい道徳譚になったのではないだろうか。

恋心についても、誰もが持つ、決して外に出すことのない“秘密の部分”の描き方が本当にうまいなあと思う。もう何度も書いたことかもしれないけど。

そして何より挿絵の美しさ! わたしは富島作品の挿絵は土居淳男さんの絵がナンバーワンだと思うのだが(文庫版『青春の野望』は最高!)、ほとんどのページに収められたこの絵がより雰囲気を高めている。作品世界を理解して描かれているところがうれしい。
(いつか、土居さんにインタビューするのが夢です。お元気でいらっしゃいますように)

美しくかなしい第1話「燈台」と、通学途中に出会う愛嬌ある少年との恋「朝のあいさつ」、言葉なくとも惹かれあう二人を描いた「海辺の約束」が特に心に残った作品。

最後、別れの季節を描いた「春遠からず」の短歌もいい。

 わが想ふ少女も壁の落書きも
 そのままにして去るべくあるらし

ふとした一文に胸を射抜かれ、目がうるんでしまう。そのたびに、富島作品を大切にしたいという気持ちがじんわり湧き上がってくる。
久しぶりにそんな感覚を味わった。

2012年3月3日読了