富島健夫作品 読書ノート ~ふみの実験記録

富島健夫の青春小説を読み感じたことを記録していきます。

すみません

2012-04-16 19:40:34 | その他の小説

角川文庫 昭和51年3月初版(読んだのは 上:51年3版、下:52年4版)
カバー:風間完

※上巻は志津で下巻は蘭子か。蘭子は準主役のようなものだったな。

連載は昭和46年「週刊朝日」。大人な作品なのだろうかと思ったが、読んでみたらやっぱり“ジュニア”の香りがした!
敗戦後、朝鮮から一家で引き揚げてきた志津が、ふとしたきっかけから恋をして、貧しい生活のなか、愛を貫いて強く生きる…。とすごくおおざっぱに言えばこんな話で、まあ“いつもの話”とも言える。

けれども久しぶりに読まない時間が惜しくなるほど、一気に読んでしまった。この作品の特徴は“読ませる”ところにあると思う。とにかく、話の展開がおもしろいのだ。
純愛の部分は『雪の記憶』、子供を身ごもる部分は『おさな妻』、魅力的な不良少女の登場は『おとなは知らない』、そうかと思うと「えっ!『燃ゆる頬(白い一本の道)』もか?!」となったり…。
富島作品の“種”が『恋と少年』に盛り込まれているとすれば、『すみません』は、富島作品の“活用表全集”という感じだろうか。例えば、わたしは『純愛一路』の最後のどんでん返しに素直に驚いたのだが(大したことないと思う人もいるかもしれないが)、そんな感じの、他の作品で「ググッと」読み手を引き込ませてくれた盛り上がりの手法が随所に盛り込まれているのだ。使い尽くしてしまったのではないか、というくらいに。

だからすごく面白く読めたのだが、付箋を付けたのはここくらい。

「あそこに、あたしはあたしを置き忘れてしまうのではないでしょうか」

思えば、わたしは富島以外の作品の方が、おもしろがって一気に読んでしまうのだが、それは展開のおもしろさによるもので、細やかな表現に感動しているわけではないということかもしれない。付箋だらけになった『恋と少年』には、そのような感動があったということだろう。

さて、では『すみません』はただの娯楽小説か、と言えばそんなことはない。富島研究家の荒川さんによる「富島健夫評伝の試み」にあるように、富島氏の人生に大きく影響を与えたと思われる、朝鮮からの引き揚げ体験やその後の苦しい生活、帰国後の失望についても詳細に書かれているし、結婚と家に関わる背景は、もちろん『おさな妻』の時代よりも厳しい。『七つの部屋』や「唖」のような下層社会も出てくるし、性についても“ジュニア小説”より生生しく描かれている(16~17の登場人物にしては若干アンバランスに感じる部分もあるし、志津と恋人 哲生の結ばれ方も気になるが)。
ジュニア小説と純文学の境界線をゆらついているような作品。悪くない。戦後の描写は検証する価値もあるだろうし、こんな作品ばかりが残っていたら、今の富島作品に対する評価はかなり変わっていただろうな、と残念に思う。

 

『すみません』を読んでいて、富島作品はみな「同じ」だと思った。同じものを、なぜこんなに夢中になって読むのだろうか。
富島作品の魅力は、登場人物ではなく、それを演じる“名優”“名女優”にあるのではないだろうか。脚本や登場人物は作品ごとに違う。しかし、それを演じている人物は、どの作品も同じなのだ。その“名優”“名女優”たちに、わたしたちファンは魅力を感じるのではないか。

脚本と配役の魅力。読書中『おとなは知らない』をまた読み返したい気分に駆られていた。不良少女の蘭子に会うために。『恋と少年』のるり子もそこにいるだろう。ちなみに『女人追憶』にも不良少女は出てきたが、そんな風に思ったことはない。


「富島健夫評伝の試み 第一章(5) 静と健」には、こうある。
富島はついにその長い文学生活のなかで、この二人の典型以外の人物を描かなかったと、私はかんがえる。富島が描いた女性はこの少女の長じた姿であり、少年もまたそうである。

「すみません」が口ぐせの志津は、一見つつましく弱い女性でありながら、自分の信念に従って生きている。実はこの作品の中で一番強い登場人物なのだ。作者が描きたかったのは、志津のこの強い生き方ではないだろうか。
そして『すみません』で一番“いい役”は幼なじみの武志。読めばわかるが、そのモデルは明らかに富島先生である。

2012年3月24日読了


新ブログ立ち上げました

2012-04-08 14:51:00 | つぶやき

富島関連以外は今後こちらにあげようと思います。

ふみの実験室

もともと富島健夫のことしか書かないつもりでこのブログを立ち上げたのですが、最近ちゃんぽんになってきたのが気になっていました。
富島以外の記事もここにしばらく残しておきますが、少しずつ引っ越ししていこうと思います。デザインカスタマイズも少しづつ。

でもFC2の操作性が今一つなので、やっぱりやめるかもしれません。
まあ、これもひとつの“実験”ということで…。
放置していたホームページは広告に侵されつつあるし、そろそろ閉鎖しようと思います。

記念すべき最初の記事は“三里塚”なので、興味ない方はごめんなさい。
次の「すみません」の更新をもうしばらくお待ちください。

それでは、今後とも両ブログをどうぞよろしくお願いします。