富島健夫作品 読書ノート ~ふみの実験記録

富島健夫の青春小説を読み感じたことを記録していきます。

明日への握手

2012-12-17 21:03:07 | その他の小説


左:立風書房「富島健夫青春文庫3」1977年(S52年)9月初版
読んだのは 右:春陽文庫 1978年(S53年)8月初版 装画:水戸成幸
※水戸さんの装画はきちんと原作を読んで描いてくれているのがわかるのでうれしい。(黒く塗りつぶされませんよ…しつこい?)
当時としては斬新だったのだろうか、ワードアート風のタイポが気になるけれど…。

2013年1月7日追記:学研新書(1963年5月刊)の目次には章題がついているのを、研究会忘年会で発見!いい章題だなあ。ラストの「雪」に思わずじーん。

始まりは知子の姉が両親と口論となり家出するシーン。物騒だが、冒頭から主人公の知子が自分の意志をしっかり持つ(しかも心優しい)少女だということがうかがえて清々しい。

映画「高校三年生」を先に見てしまったのでまた比較になるが、原作も映画も両方いい。『明日への握手』では、重要な脇役として裕福な家庭に育つ小路がいるが(知子もいちおう由緒正しい家柄なのだが)、映画ではこの小路が第二の主人公になっている。浴衣姿をみて担任が目をみはるシーンや父親の失墜など、知子に使われていたエピソードが小路に応用されている部分も全く違和感がなく、うまく再構成したと思う。
(ちなみにわたしのイメージでは知子が高田美和で小路が姿美千子、なのだ)

他の違いは、映画で宏は(おそらく健康上問題ない)母と暮らしている設定なのに対し、原作では病弱な父とのふたり暮らしであるところ。『雪の記憶』のように富島の分身的である。
映画で知子が姉と恋人のキスに驚くシーンがあるが、原作ではもっとなまなましく描かれているし、不良の子供を妊娠し自暴自棄になるクラスメートが登場したり、家庭の事情で宏も知子も自立を迫られたりしたりと、単なるさわやかな青春小説にとどまっていない。まあ、映画も面白いのだけれど、やっぱり原作の方が富島らしさが表れている(当たり前だが)。

ちなみにこの作品は『美しい十代』に連載されていたのだが(1962/4~1962/3)、宏は左傾した少年だし(優秀なのにあえて工員になって改革を起こそうとしている)、知子はそっち系の本を読み宏についていこうとしているし…問題視されなかったのかどうかが気になる。
まあ、小路がそこで

主義だとか階層だとか言ったって、たいせつなのは自分自身だけよ。紀井さんの考え、今はとっても純粋だけど、やがて紀井さんを裏切るのは、同じ階級の人たちよ。

と語るそれが富島の考えに近いと思うのだが。 

でも応援団に対する反乱は『青春の野望』っぽいし、富島自身、宏のキャラクターに思い入れがあるのかもしれない。

ラストの雪の夜のシーンは実にうつくしい。富島健夫は九州人なのに、雪を非常に効果的に使う作家だと思う。

2012年12月8日読了

※今年も残り少なくなりましたが、今年中に『黒い河』、別室では今年観た映画、今年読んだ富島以外の本を上げるのが目標。できるかな…。


君たちがいて僕がいた

2012-12-04 20:19:00 | その他の小説

映画はつまらないと思った。原作を曲解しているのだろうと思い込んでいた。まるで「同期の桜」のような、舟木一夫が歌う主題歌だけにすっかり慣れ親しみ、カラオケの十八番になった。
今年見た映画の原作だけは、今年中に読んでおきたい。入手困難な秋元書房ジュニア・シリーズをわがまま言って愛知県のしょうさんにお借りした。

秋元書房ジュニア・シリーズ 1967年(S42年)8月初版 ※1964年(S39)12月発行の新装版
撮影:渋谷高弘 モデル:石橋照子(ザ・エコーモデルクラブ) 意匠:三浦勝治


※1964年発行の版はこれ(画像提供:tentokuさん)

挿絵は杉山卓。Gペンのタッチが力強い。この人は画家出身ではなくて漫画家かな?


なんだかワクワクするでしょ!

収録作品は5編

君たちがいて僕がいた
予想に反して読み進むにつれて映画がよく出来ていたことに気づく。原作は意外にも“恋愛”に重きが置かれていた。しかも二人の少年がひとりの子を取り合うというパターン。佐藤は芸妓の姉を持ち(映画で生かされているのはこっち)、竜一はかまぼこ屋の息子。ヒロイン知恵子を勝ち取るのは竜一で、最後にキスまでしてしまう。
体育教師ガソリンや田中PTA会長も登場するのだが、あくまで挿話という印象。映画はこのエピソードをうまく発展させ、クラス全体の友情、団結をテーマにした物語に仕上げていたのだ。
「ぼくたちの彼女(『恋するまで』所収)」のように、恋愛を通して友情を描き、成功している作品もあるのだが、この作品はいろいろな要素が盛り込まれすぎて全体的にぼやけた印象。テーマを絞った映画のほうが良い。「北国の街」とは逆に、主役をひとりに絞ることで成功したと思う。

というわけで、映画に対する評価はアップしました。
富島健夫は「真の友情なんてない」って言っているから、この映画も気に入らなかったかもしれないけれど。

揺れる早春
通学途中のイチョウの並木道で道彦は少女と出会う。『初恋宣言』を思い出すような物語の始まりだけれど、物語は意外な方向に進んでいく。
少女の名は池田葉子。富島のジュニア作品をいくつか読んでいると、“ヨウコ”という不良少女に幾度か遭遇する。葉子も不良であった。
けれども“ヨウコ”たちは、奔放ながらどこか憂いを秘めていた。だから、葉子もきっとそうであるはずだ。そうでなければ、葉子が道彦に告げた「さよなら」に、せつなさを感じることはない…。
その予感の通り、哀しい葉子の姿が印象づけられる結末であった。

若い日の悔恨
登場人物の名が「良平」!『青春の野望』の若杉良平ではあるまいか。男女共学となって恋愛の花咲く文芸部という舞台も、『恋と少年』や『青春の野望』同様、富島の自伝であるかの錯覚を読者に起こさせる。
しかし内容は、川津栄二の小沢徳夫に対する復讐の物語だ。川津は小沢を心理的にじわじわ追い詰め、死に至らしめる。そして、川津もまた…。
好きな少女のために病を押して小説を書き、死んでしまった少年のエピソードは『恋と少年』にも「びっこの大野」のものとして登場する。大野の片思いはややユーモアも含みながら、主人公(良吉)にとって思い出深いように描かれていた。

病める花びら
もまた一つの復讐の物語。働きながら定時制高校に通う千香と誠実な和彦、一見結ばれるかに見えるふたりの恋だが、和彦が選んだのは不良の冴子だった。不良と言っても「揺れる早春」の葉子とは違い、最後まで嫌な印象だけを残す“ズベ公”。
「揺れる早春」「若い日の悔恨」そして「病める花びら」と揃って、親に優秀なご近所さんと比較され、萎縮する学生たちが描かれている。3作品とも結末は“死”なのだが、劣等感が憎しみに転換した者たちの悲劇を描いたのが「若い日の悔恨」と「病める花びら」の2作品である。
自殺や心中、特に心中は『雪の記憶』などでも挿話としてよく出てくるので、富島の学生時代に実際にあったことかもしれない。
富島の描く高校生たちの「死」は、決して“お涙ちょうだい”ではない。残酷だったり、同情の余地がなかったりするところに富島の人生観が現れている気がする。

後姿
暗い話が続いたあとは、花屋の娘ふみ子と浪人生 哲夫の恋物語。このタイトルだけでもう十分胸いっぱいなのだ。ふみ子…。

この本は意外にも暗い話が多かった。けれども、富島健夫独特の青春のせつなさも十分味わえて、本当にいい本でした(表題作が一番ダメだった…)。しょうさん、ありがとうございました!

さて、今月中に『明日への握手』と『黒い河』を読むぞ!

2012年11月22日読了