漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

『日本語は天才である』 柳瀬尚紀

2014-04-01 18:02:31 | 雑記
 きょうは書籍を一つご紹介します。


『日本語は天才である』 柳瀬尚紀    新潮文庫




 柳瀬尚紀さんは著名な翻訳家で、翻訳不可能と言われたジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を完訳したことでも知られます。何がどう「翻訳不可能」かと言うと、原本が全編「言葉遊び」に満ち満ちていて、英語の言葉遊びですからそれをそのまま意味だけ日本語にしても言葉遊びの面白さは伝わりません。これを、意味も訳しつつ、言葉遊びの面白さの部分もきちんと表現し尽くした途方もない労作というわけです。(などと言いつつ、この本に例示されているほんの一部分を読んで「はぁ~~、すげ~~」と思っただだけで、『フィネガンズ・ウェイク』自体は実際には読んでいないのですが(汗)。)

 具体的にどういうことをなさったのかは本を読んでいただくとして、少し長くなりますが裏表紙の紹介文をそのまま引用してご紹介します。


 「縦書きも横書きもOK。漢字とかなとカナ、アルファベットまで組み込んで文章が綴れる。難しい言葉に振り仮名をつけられるし、様々な敬語表現や味わい深い方言もある。言葉遊びは自由自在---日本語には全てがある、何でもできる。翻訳不可能と言われた『フィネガンズ・ウェイク』を見事に日本語にした当代随一の翻訳家が縦横無尽に日本語を言祝ぐ、目からうろこの日本語談義。」


 4年ほど前に出会った本なのですが、最近再読して、改めて日本語というものの懐の深さ、素晴らしさに感じ入ることができました。

 作中、著者はご自身の手になるある翻訳文を例にとって、「ほんとうにすごい翻訳だと思いました。ぼくの翻訳がすごいのではありません。日本語がやってくれた翻訳が、すごいのです。ひょっとして天才じゃなかろうかと思いました。ぼくが、ではありませんよ。日本語が、です。」と言っておられます。氏がその天才的な翻訳をできるのは、日本語にそれができるだけの材料や成り立ち、多様な表現といったものが予め用意されているからだというのが氏の思いで、氏はそれを指して「日本語は天才」と評しておられるのですが、日本語だけでなく、柳瀬尚紀さんご自身が天才であることに疑いはありません。


 漢検に挑戦するような皆さんは、漢字だけでなく「日本語」というものに人並み以上に興味関心や思い入れのある方が多いかと思います。そんな皆さんにお勧めの一冊です。