ラパロスコピストの夢

大阪梅田で子宮内膜症と闘うラパロスコピストのblog
子宮内膜症、子宮筋腫に対する腹腔鏡下手術はどこまで進歩できるか?

はじめにお読みください

健保連大阪中央病院に勤務するラパロスコピスト(腹腔鏡術者)のブログです。婦人科腹腔鏡下手術、子宮内膜症、慢性骨盤痛等の治療を専門としています。

このブログでは腹腔鏡下手術、子宮内膜症、子宮筋腫に関する基本的な事柄については解説していません。まず、下記のウェブサイトをご覧になることをお勧めします。
日本子宮内膜症協会
子宮筋腫・内膜症体験者の会 たんぽぽ

手術を希望される方はこちらをご覧ください。

医療相談、ご質問にはお答えしませんのでご了承ください。

おすすめの本はこちら?ブックス・ラパロスコピスト

今週のオペ

2006-05-26 | 大阪日記
今週は9件のオペをした。
また、ひさびさに子宮内膜症深部病変切除を行った。
ボスがビデオをみて、「ええオペしとるなぁ。」(当たり前やんけ)

しかし、オペは一人でするものではない。周りとのチームワークや理解があってこその高度な手術である。
環境もだいぶ整ってきたと思う。愛媛にいたときと同じような感覚で仕事ができるようになった。

しかし・・・今週はちょっと疲れたな。
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子宮内膜症患者が腹腔鏡下手術を受ける価値があるのか?その3

2006-05-26 | 子宮内膜症
癒着の痛みについて考えてみる。

ほとんどの患者さんは癒着が痛みの原因になると考えている。本当だろうか?たとえば骨盤腹膜炎などで腹腔内に癒着があったとしても、それが月経痛の原因になることはない。術後の癒着が頑固な痛みの原因になることもほとんどない。

それでも癒着剥離後に痛みが軽くなる例は少なくない。なぜだろうか?

子宮内膜症病変は、月に一度、月経のとき子宮内膜と同様に出血している。月に一度病巣部分を傷つけているようなものだ。もし、毎月一回、腕をカミソリか何かで切り続けたらどうだろうか?場所を変えるのではなく、同じところを。切っては血が出て、治り、治ったらまた切る・・・・これをくり返すと・・・・

瘢痕になってしまい、おそらく周囲の正常組織を引きつらせて治癒していくだろう。周囲の神経まで引きつらせてしまい、慢性的に痛くなるだろう。(子宮内膜症なら月経時以外も痛くなる)子宮内膜症ならその瘢痕の中に病巣があり月経時の痛みはいよいよ強くなる。

手術で癒着を剥離するということは、この引きつりを剥離によってリセットするようなものだ。つまり、癒着剥離をすることにより骨盤神経などの引きつりをとれて痛みが軽くなるのだろう。

癒着を剥離するだけである程度骨盤痛は楽にはなるようだ。しかしながら、それだけでは深部病変は残ったままだ。骨盤痛に対しては効果的ではあるが、あまり効果がない例も少なくない。一時的には良くなっても痛みが再発する例も少なくない。

なぜか?おそらく活動性の高い深部病変が残っているためだろう。深部病変を切除しなければ引きつりが解除されないことも多い。また、腹膜病変が十分に切除(もしは焼灼)できていないためかもしれない。どちらにしろ、子宮内膜症病変が残っているかぎり骨盤痛が残る可能性はある。
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エタノール固定?

2006-05-24 | 大阪日記
こちらに来て、もう何例かエタノール固定後のチョコレート嚢胞核出をした。エタノール固定後は嚢胞核出がしにくくなったり卵巣周囲の癒着がひどい例が多い。

経膣的穿刺後の(子宮内膜症)膣壁転移している(たぶん穿刺のため)のを診たこともある。
(腹腔鏡下で深部病変切除と膣壁切除をした)

腹腔内の癒着もひどいことが多い(ような気がする)。(エタノールやチョコレート嚢胞の内容が漏れるためだろう)

他のことはゆずるからエタ固だけはやめてくれ~と言いたい。(腹腔鏡下でするのなら腹腔内の洗浄ができるし腹腔内病変の評価ができるのでまだいい)とりあえず、チョコが小さくなればというだけの治療じゃないかと思う。日本だけでしか行われていない。(エビデンスあるんかいな?)お腹は切らなくてもいいかもしれないが、お腹の中はどうなってるかわからん・・・

某先生曰く、「あれは15年前の治療だよなぁ」
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関西(?)の子宮内膜症

2006-05-23 | 大阪日記
“関西の”というのが変だが、大阪で診た子宮内膜症患者の特徴で気がついたことを挙げてみる。
・後壁に局在する子宮腺筋症の重症例が多い。
・直腸子宮内膜症も多く、下血の訴えが多い。
・チョコレート嚢胞に対して経膣的エタノール固定が行われることが多い。・・・まだ、やってるのか・・・
・軽症例には仙骨子宮靭帯切断が行われている。・・・ふーん・・・
・深部病変切除は全く行われていないようだ。・・・仕方ない・・・
・婦人科を受診したら、腹腔鏡でチョコレート嚢胞を核出すると卵巣機能が低下するかもしれないと言われた。・・・おいおい・・・
・ということで腹腔鏡下手術は普及していないようだ
・たまにGnRHaをくり返している例にも遭遇する・・・sigh・・・
関西の、というより全国的な傾向なのだろう。
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大阪だなぁ

2006-05-20 | 大阪日記
大阪に来たんだなぁとしみじみ思うとき

1. 関西風お好み焼きを食べて、美味いなあと思ったとき(いままでは広島風が好きだったが・・・)

2. 「これ、ほかしていいですか?」とオペ室の看護師に尋ねられたとき

3. ある看護師のしゃべり方が、上沼恵美子そのまんまだったとき
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子宮内膜症患者が腹腔鏡下手術を受ける価値があるのか?その2

2006-05-19 | 子宮内膜症
子宮内膜症患者が月経痛や骨盤痛で腹腔鏡下手術を受けても、あまり予後がよくない(全国の大学病院の共同研究で約40%が一年で再発)ことを指摘した。一方、できるだけ完全な病巣切除をした場合、(私のデータでは)一年後の再発(低用量ピルで管理していた例)は約5%であったと述べた。この違いは何なのか?おそらく、手術の内容が全然違うのだろう。

今回は手術のことを云々する前に、まずはなぜ子宮内膜症により痛みが生じるのか考えてみる。

子宮内膜症の痛みの原因は、大変複雑でさまざまなものが原因として考えられる。これを以下の4つ(もしくは3つ)の病態に分けて説明すると理解しやすくなると思う。
1.卵巣チョコレート嚢胞によるもの
2.癒着(組織の引きつれ)によるもの
3.子宮内膜症病変によるもの(深部病変、腹膜病変)

★チョコレート嚢胞の破裂
まず、卵巣チョコレート嚢胞は子宮内膜症病変が卵巣の中にできたものである。病変から月経時に出血し内部にチョコレート状の古くなっていた血液が貯まっていきます。(風船のなかに水道で水を入れていくようなものだ。)

内容液は月経時に増えるので、そのとき嚢腫が破裂することがある。そうすると古い血液がお腹の中にばらまかれて腹膜が刺激されて激しい腹痛をおこす。ドバーッと出ると非常に痛く、急性腹症として救急車で運ばれることもある。また、ほんの少し漏出しただけであれば、かなり痛い月経痛として本人には認識されるだけで済むこともある。

たまに起こる人もいれば、かなり頻繁に(2~3ヶ月に一度くらい)破裂している人もいる。患者さんからよく話しを聞くと、痛みが強い月とあまり痛くない月の差が大きいことが多いので、病歴から破裂による痛みであろうと推測できる。

腹腔鏡をしてみると、腹腔内にヘモジデリンの沈着がみられるのが特徴で、破裂が起こっていた付近で腹膜や卵巣周囲臓器が茶褐色になっています。ああ、ここが破裂して痛かったんだということがわかるわけだ。

★チョコレート嚢胞の圧迫
卵巣チョコレート嚢胞がある患者さんは、よく腰痛を訴えることがある。月経時に腰が痛いということもあるし、月経時以外にも腰痛がある場合もある。

チョコレート嚢胞は子宮内膜症のために周囲が癒着していて可動性が不良であることが多く、嚢胞が大きくなると骨盤の深いところに固定された状態で大きくなる。それにより骨盤が圧迫されてしまうのだろう。手術で嚢胞を核出してしまえば、圧迫はなくなるので痛みは改善する。

★チョコレート嚢胞による痛みの治療
チョコレート嚢胞による痛みは、チョコを核出するだけで解決する。エタノール固定や焼灼でもとりあえず解決する。開腹であろうが、腹腔鏡であろうが嚢胞に対する処置を行えば、痛みはなくなる。(薬物療法でも、当面の問題は解決する。)手術自体もそれほど難しいものではない。

しかし、卵巣を温存するのなら大事なのは痛みを治療するだけではなく、その機能の温存である。手術をするのなら、いかに正常卵巣組織を残して、卵巣にある子宮内膜症病変を切除するか・・・それを考えていくと決して易しい手術ではない。
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子宮内膜症患者が腹腔鏡下手術を受ける価値があるのか?その1

2006-05-18 | 子宮内膜症
大阪に来て一ヶ月いろいろなことがあったが、子宮内膜症の方が手術を受けることをためらうことが多いのに驚いている。また、ふーん・・・と思うことも多い。

今回は子宮内膜症とくに月経痛や骨盤痛などの強い痛みを伴う方が手術を受ける価値があるのかどうかについて考えてみたい。

子宮内膜症取扱い規約第二部治療編・診療編(金原出版)をみると、子宮内膜症で腹腔鏡下手術を受けた患者のうち、一年以内に骨盤痛が再発してしまったのが40%、五年以内に再発したのが60%であったとされている。

このデータをみると、骨盤痛の治療のために腹腔鏡下手術を受けるのは約半数の患者さんにとっては無駄ということになってしまう。

この研究は国内の大学病院を中心とした多施設共同研究によるものである。大学病院を中心とした多施設共同研究というのが曲者だ。薬物療法と違って、術者の技術には大きな差がある。おそらく手術の内容自体がかなり異なっているのではないかという話を聞いたこともある。(たとえば、ダグラス窩の剥離自体ができていないなどなど・・・)

ところが欧米のエキスパートの成績では5年後の再発は、ほとんどないというものから30%程度のものまでとかなり成績は良好である。この違いはいったい何なのでしょうか?

では、私のデータをお見せする。近いうちに発表予定の抄録である。

【目的】
骨盤痛を伴う子宮内膜症に対する腹腔鏡下手術の予後は決して良好ではなく、半数以上が術後1年で元に戻ると言われている。今回、我々は骨盤痛を伴う子宮内膜症に対して施行した腹腔鏡下手術の短期的予後を検討したので報告する。

【方法】
平成15年10月から平成18年3月までに骨盤痛を伴う子宮内膜症93例に対して骨盤内の子宮内膜症を可及的に切除した。このうち64例では手術直後の月経痛の評価が可能であり、40例では術後1年後の評価が可能であった。腹腔鏡下で術前、術後初回月経、術後1年前後での月経痛をVisual analogue scale (VAS)にて評価した。

【結果】
術前の月経痛はVASで8.41から術後初回月経で3.10に軽減しており(64例)、12ヶ月後にさらに2.24まで軽減していた(40例)。術後1年までのフォローが可能であった40例について検討すると、術後初回月経痛は24例でVAS5未満となり16例ではVAS5以上のままであった。術後初回月経痛VAS5以上であった16例も月経痛は次第に改善しており、12ヶ月後には13例がVAS5未満で3例のみがVAS5以上であった。この月経痛改善不良例3例のうち2例に12ヶ月後の検診時に経膣エコーで小さな子宮腺筋症の所見がみとめられた。また、術後初回月経痛がVAS5未満であった24例は、12ヶ月後に22例がVAS5未満であった
が2例はVAS5以上に戻っていた。12ヶ月後にVAS5以上のものは5例であったが、3例は鎮痛剤でのコントロールが可能であり鎮痛剤が奏功せず低用量ピルを服用していたものは2例であった。

【結論】
我々の施行した腹腔鏡下子宮内膜症病巣切除術は、骨盤痛、月経痛に対して有効であった。手術直後の月経痛が強くても数ヶ月経過するうちに次第に改善した。少数の再発、改善不良例については今後の検討を要するが、ほとんどの症例では少なくとも術後一年までの予後は良好であった。

えー、ちょっとわかりにくかったかもしれないが、術後1年フォローできた40例のうち、月経痛が改善されたのは37例で改善不良のものは3例であった。そのうち低用量ピルを内服する必要があったものは2例、わずか5%であった。

そして骨盤痛(たとえば排便痛や性交痛)についても90%以上が改善(ほとんどは消失)していたのだ。

多施設共同研究の場合40%は1年後に再発・・・この違いはいったい何なんだ?
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直腸子宮内膜症は切除する必要があるのか?その13

2006-05-18 | 子宮内膜症
直腸子宮内膜症は切除する必要があるのか?切除しなくてもいいのか?

その気になれば、薬物療法(GnRHa+add backや低用量ピル)で長い間、子宮内膜症病変を眠らせておくことはできる。下手な手術を受けるくらいなら、延々と薬物療法を続けるほうがいいのかもしれない。

腹腔鏡下手術で丁寧にできるだけ病変を切除(Pelvic clean out)してQOLを最大限にすることもできる。放置すれば病状は進行していく。また、子宮内膜症の悪性化は今後の検討課題であるが、決して無視できる問題ではない。

直腸病変にしろ、その他の部位の子宮内膜症病変にしろ、医師と患者が術前に十分なディスカッションをすることが必要である。最善の治療はその結果得られるのだと思う。答えは一つではないのだ。
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直腸子宮内膜症は切除する必要があるのか?その12

2006-05-17 | 子宮内膜症
前回まで直腸手術の合併症について述べてきた。これらの多くは稀であり、普通の重症子宮内膜症の手術ではほとんど起こらない。

広範な剥離操作とラジカルな切除をするのだから、術後の癒着はどうなんだろう?という疑問もあるだろう。

実際どうなのか?ある程度は癒着しているようだ。もともと癒着しているところを剥がすのだから、再度癒着してしまうのはやむを得ない。ただ、子宮と直腸はよく癒着するものの、卵巣、卵管の周辺はあまり癒着しないようだ。骨盤側壁の子宮内膜症を切除したときも卵管、卵巣の癒着は比較的少ない。(とC.H.Koh, Grace Janikは言っている)

術後の癒着よりは子宮内膜症を放置して癒着や炎症が進行していくことのほうが問題だと思う。

術後癒着の対策は術者にとっては大きな問題だ。現在でも多くの癒着防止剤が出ているのだが、完全に癒着を予防できるものはない。今後も進歩していくことが期待される。
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直腸子宮内膜症は切除する必要があるのか?その11

2006-05-16 | 子宮内膜症
直腸腟瘻は普通かなり低位(つまり膣のほうにまで子宮内膜症が及んでいる)の子宮内膜症を切除しないかぎり発生する可能性は低い。

瘻孔ができるということは膣から便が出てくるということだ。大変、不愉快である。これを治すためには、一時的に絶食にして瘻孔が閉鎖するのを待つか、手術をするかだ。

しばらく絶食にして閉じてしまうのなら問題ないが、手術が必要になるケースも多い。実は・・・内視鏡手術で治せるのだ。

直腸腟瘻ではないが、四谷メディカルキューブの金平永二先生が尿道直腸瘻をTEMという手技(経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー)で手術し紹介している。
http://www.geocities.jp/endosurgery444/2004may.htm
すごい!これで治るのだ!

また、直腸腟瘻(ただし、内膜症手術後ではなく子宮全摘後)の腹腔鏡下による修復もthe Trocarというウェブサイトで紹介されていた。(http://www.thetrocar.com/)
ただ、現在は消去されてしまっているようだ。

まあ、とにかく、決して起こって欲しくはない合併症なのだが、最近は内視鏡下で十分治療できるようになっているのだ。
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