ラパロスコピストの夢

大阪梅田で子宮内膜症と闘うラパロスコピストのblog
子宮内膜症、子宮筋腫に対する腹腔鏡下手術はどこまで進歩できるか?

はじめにお読みください

健保連大阪中央病院に勤務するラパロスコピスト(腹腔鏡術者)のブログです。婦人科腹腔鏡下手術、子宮内膜症、慢性骨盤痛等の治療を専門としています。

このブログでは腹腔鏡下手術、子宮内膜症、子宮筋腫に関する基本的な事柄については解説していません。まず、下記のウェブサイトをご覧になることをお勧めします。
日本子宮内膜症協会
子宮筋腫・内膜症体験者の会 たんぽぽ

手術を希望される方はこちらをご覧ください。

医療相談、ご質問にはお答えしませんのでご了承ください。

おすすめの本はこちら?ブックス・ラパロスコピスト

子宮内膜症病変の完全切除 2

2013-01-21 | 子宮内膜症
完全切除という言葉は、Deep endometriosisの切除が行なわれだした1990年ごろから、使われたのだろうと思います。

それからは、いわゆるラパロスコピスト達は、疼痛に対しては薬物療法か腹腔鏡下手術か、不妊に対しては体外受精か腹腔鏡下手術か、という二者択一のパラダイムに、いまだ縛られているようです。(これは、婦人科医の多くもそうであると言えますが。)完全に切除すれば薬物療法は不要、腹腔鏡下手術で妊孕性が向上し体外受精は不要という価値観で物事を語ろうとする傾向が強くなります。

子宮内膜症はそんなに単純な疾患ではなく、腹腔鏡下手術と薬物療法、生殖補助医療のいずれか、もしくはそれらのコンビネーションで、より多くの女性の最大限のQOLを、はじめて達成できるものと考えます。

完全切除は目標ではありますが、保存手術を行なうかぎりにおいて完全切除はありえません。(もし、それが骨盤内に発生した悪性腫瘍だとしたら、完全に取りきれているとは誰も言わないでしょう。)それを認識しているのかどうかで、手術適応は微妙に変わってきます。

子宮内膜症があるから手術を行なうのか、少なくとも閉経までの数十年の治療計画を考えて手術を行なうのか、それは、同じ腹腔鏡下手術を行なっているようでも、全く違ったことを行なっているのではないでしょうか?
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子宮内膜症病変の完全切除

2013-01-20 | 子宮内膜症
土曜日まで宇都宮で行なわれた日本エンドメトリオーシス学会に参加してきました。

腹腔鏡のセッションでは、ある施設の演題で、子宮内膜症を完全切除できると考えているのか?という質問をしました。

子宮内膜症は腹腔内に発生することが多いのですが、我々が見ている病変は炎症の結果ですので、仮にendometoriotic foci(子宮内膜症病巣)があったとしても、硬結や炎症像を呈しない限り見えることはありません。顕微鏡で見ているわけではありませんので、完全に切除したつもりでも、ミクロのレベルではfocus(病巣)は残っています。ですから、一見完全に病巣を切除したつもりでも、本当に完全に病巣を切除しているということはありえないと考えます。我々の行なっていることは、最大限にdebulking(減量手術)しているだけです。

子宮内膜症の術後の状態は、コップの中に水が半分残っている状態に似ています。「半分しか入っていない」と思うのか、「半分も入っている」と思うのか、考え方はいろいろですが、子宮内膜症術後の場合は必ずコッブの底に小さな穴が空いています。

つまり、問題は「半分しか入っていない、半分も入っている」ではなく、「コップの底に小さな穴が空いているかもしれない」と考えているか、それとも「たぶん、穴は空いていないだろう」と考えているかになります。小さな穴が空いているかもしれないと考えるのであれば、指で穴を塞ごうとするでしょうし(つまり術後薬物療法)、穴は空いていないと考えるのであれば、そのままにしているでしょう。

その後、同施設の別演題のディスカッションで「完全に切除できたと思ったら、術後薬物療法はしません」というコメントもありました。(やっぱり、完全に切除できると思ってんじゃん

水を飲もうと思ったときに、コップの中にはほとんど水が残っていないことも有りえます。私たちの仕事は、彼女達が、水を飲みたいと思ったときに、どれだけ多くの水を残してあげられるかだと思っています。

子宮内膜症を完全に切除しているかどうかは別にして、完全に切除していると思ってはいけないのではないかと考えています。
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子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか? その8

2012-09-09 | 子宮内膜症
3.専門医の育成
最後にもっとも重要なのは、重症子宮内膜症を適切に手術できる専門医です。骨盤痛の多くは、低用量ピルやプロゲスチン製剤でコントロール可能ですが、子宮内膜症による不妊や挙児希望例には手術が重要な役割を果たします。また、根治手術は現在でも子宮内膜症診療において重要な位置を占めています。

手術は、拡大視による微細な手術操作ができるという点では腹腔鏡下手術が優れており、 まずは卵巣予備能に影響を与えず卵巣チョコレート嚢胞を切除できること、そして妊孕能に影響を与える大きな病変を安全確実に切除できることが必要とされます。今後、重症例においても腹腔鏡下手術での保存手術や根治手術ができることが重要になってくるでしょう。

手術適応や術後の管理も適切にできることが必要です。完全に切除すれば子宮内膜症は治ると言う人もいますが、大ウソです。そもそも完全に切除するというのは子宮と卵巣を温存しているかぎり有り得ません。重症例に保存手術を行っても妊娠が期待できるのはせいぜい術後1~2年程度です。何年もの間、体外受精を続けた場合、妊娠する確率は低下していき、子宮内膜症は再発してしまうでしょう。

これらに対して、私ができるのはせいぜい大阪中央病院での臨床診療を通じて少しばかりの努力をつづけていくことですが、教育だとか育成だと言うのはおこがましいかもしれません。優秀な術者は育てようと思って育つものではないようです。『親は無くとも子は育つ』と言いますから・・・。(本文ここまで)
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子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか? その7

2012-09-07 | 子宮内膜症
2.産婦人科医の教育
こんなことをいうと生意気な発言だと受け止められてしまいますが、子宮内膜症を知らない産婦人科医は多いです。痛みについて十分問診をして時間がかかるのがイヤなのか聞く耳を持たない人、また腟直腸診を全くしない産婦人科医も少なくないようです。CA125が高いので(実は月経時に採血していた・・・)子宮内膜症だと言う人もいます。もっとひどいのは、我々が直腸子宮内膜症と診断したMRIを見て「直腸は正常だ。」と言った人とか、ちょっと前まで「ピルを飲むと乳がんになる。」と平気で言っていた人、保存手術をして「子宮内膜症は治りました!」という人(骨盤痛は治りませんでしたが・・・)などなど、、、。

経腟超音波で卵巣チョコレート嚢胞が大きくなって初めて子宮内膜症だと診断しても遅いのです。最初の受け皿となる産婦人科医が、骨盤痛をある程度評価して、腟直腸診でダグラス窩や直腸の硬結を診断できることは早期治療のために重要です。また、子宮内膜症が疑われる例や機能性月経困難症にも低用量ピルを投与しておけば、 子宮内膜症の発症予防につながり、ひいては重症患者の減少につながるかもしれませんし。
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子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか? その6

2012-09-05 | 子宮内膜症
1.一般女性(子宮内膜症患者)の啓蒙
子宮内膜症患者になる可能性のある一般女性を啓蒙することですが、まず子宮内膜症にかぎらず、子宮がん検診、子宮頸癌ワクチン、避妊や月経時期の移動などいろんなことで相談できるかかりつけ医を見つけてもらうことです。それによって、婦人科に受診することが多くなれば子宮内膜症を早期に診断できる可能性は高くなります。

次に、『そもそも子宮内膜症という疾患は、非常に複雑なもので、診断するのが難しい』ということを知ってもらうことです。 また、『子宮内膜症の薬物療法の基本は、卵胞ホルモンの分泌と排卵を抑える』ことと、『低用量ピルがもっとも長期的に使用できる薬剤である』ということを理解してもらわなければなりません。これは、本来避妊に用いられていた低用量ピルの副効用です。

以上をまとめると、『子宮内膜症は診断するのが難しく知らないうちに進行していることもある。しかし、低用量ピルの副効用を利用して長期間安全に治療することができる。すなわち、子宮内膜症の発症予防や重症化の予防につながる可能性があるので、症状が乏しかったり、小さくても卵巣チョコレート嚢胞があるのなら低用量ピルを続けた方がよいだろう』ということになるのですが、時間の限られた外来診療で、このことを患者に理解させるのは容易ではありません。そもそも、ルナベルの適応症は“子宮内膜症に伴う月経困難症”、“機能性月経困難症”なので、子宮内膜症の発症予防や重症化予防の目的で勧めることが保険診療として正しいのかどうかわかりませんし、ピルを飲みたがらない人を説得する必要があるのかどうかとは思っていますが。
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子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか? その5

2012-09-03 | 子宮内膜症
4.子宮内膜症治療の遅れ
さて、このようにして、どうにか子宮内膜症と診断されたとしても、残念ながら適切に治療されるかどうかは別の問題です。「卵巣チョコレート嚢胞があります。3cmくらいであまり大きくないので様子を見ましょう。」「月経痛は、鎮痛剤でがまんできるなら様子を見ていいですよ。」そうして月経周期が繰り返されるうちに、せっかく子宮内膜症と診断されたのに、子宮内膜症病変は増殖をくり返し次第に重症化していきます。

でも、この程度なら、まだいいほうかもしれません。手術をしたにもかかわらず、膀胱や直腸、ダグラス窩の子宮内膜症病変が見逃されてしまうことも珍しくありません。術後、症状が改善しなかったり、しばらくすると症状が再燃したりします。上手い具合に薬物療法を組み合わせれば、そういう問題点を隠蔽することもできるのですが、本質的な問題は何も変わってないですね・・・

それでは、我々は何をするべきなのか?

ここまでは問題点を提示しただけで、これで終ってしまっては身も蓋もありません。一応、なんらかの解決策を提示したいと思います。
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子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか? その4

2012-09-02 | 子宮内膜症
3.子宮内膜症診断の遅れ
いざ、女性が婦人科を受診した場合でも、子宮内膜症の診断は容易ではありません。その理由の一つは、子宮内膜症病変の多くが腹腔内(卵巣、ダグラス窩、腸管など) に発生するために直接見ることができないからです。子宮内膜症の診断方法としては、問診、内診(腟直腸診)、経腟超音波検査などがありますが、卵巣チョコレート嚢胞がなければなかなか子宮内膜症と診断されないのが普通です。
痛みに関して言えば、女性が苦しんでいる症状は、月経時の痛みだけではなく月経以外の痛み、排卵時の痛み、排便痛、排尿痛、性交痛などさまざまな痛みがありますし、痛みによって生活がどの程度障害されているのかという情報も重要です。問診によって、どの部位にどのような病変があるのか、ある程度推測できるので、その情報に基づいて腟直腸診や超音波検査をすることで診断精度を上げることができます。
ところが、痛みに関して十分な問診ができる婦人科医師ばかりではありません。問診から子宮内膜症を疑って腟直腸診をすることがなければ、ダグラス窩や直腸の硬結は見逃されてしまうことのほうが多いのです。その場合、卵巣チョコレート嚢胞がある程度の大きさになって初めて子宮内膜症が診断されることになるのです。
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子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか? その3

2012-08-30 | 子宮内膜症
2.婦人科受診の遅れ
古くから日本には忍耐を美徳と考える風土があったためか、日本人は痛みに我慢強い人種のようです。月経痛が非常に強くても、それを病的と考えない人も多いようです。 また、異常な痛みであったとしても、特有の羞恥心から婦人科に受診するのも遅れがちです。何年もの間、市販の鎮痛剤の内服だけで経過してしまえば、その間に何度も繰り返す月経のために子宮内膜症がどんどん悪化してしまうこともあります。
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子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか? その2

2012-08-29 | 子宮内膜症
1. 女性を取り巻く社会情勢の変化
この数十年で女性のライフスタイルは大きく変化し、出産回数は激減し、出産年齢も高齢化しています。私が医師になったころは、30歳の初産婦は“高齢初産婦”と呼ばれていたのに、1993年以降は、それも35歳に変更され、今や35歳以上で妊娠する人は全然珍しくありません。仮に13歳で初めて月経があった女性が38歳で初めて出産するとすれば、その女性は出産までに約300回の月経を経験することになります。
月経周期の度に、女性は子宮内膜の増殖と剥離、排卵を伴う女性ホルモンの大きな変化を経験することになります。子宮内膜があるはずのない場所で、子宮内膜のような組織が勝手に発生して増殖するのが子宮内膜症です。月経周期を繰り返せば、子宮内膜症はどんどん増殖して悪化していくことが多くなります。
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子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか? その1

2012-08-28 | 子宮内膜症
この文章は、院内報に投稿したものです。言いたい放題書いてみましたが、予想外に評判がよかったので、ご紹介します。

「子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか?」という、かなり挑戦的な題名にしていますが、私自身は、大半の子宮内膜症は手遅れではないと思っています。しかしながら、子宮内膜症は、一般の方が思っているよりもはるかに妊孕能や骨盤痛などのQOL(Quality of Life)を損ない、非常に再発しやすい疾患であるのは事実です。子宮内膜症を手遅れにしないためには、患者さん自身が、この疾患に対して十分理解すること、治療に対する長期的な戦略を持つこと、そして、手術に対して勇気を持つことが必要なんだろうと思っています。

以下、本文

健保連大阪中央病院婦人科は、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科良性疾患に対する腹腔鏡下手術を中心とする診療を行っています。私どものような子宮内膜症を専門とする施設には、かなり重症で進行した子宮内膜症の患者さんが多く来院されます。そのような患者さんの多くに共通するのは、月経痛や骨盤痛などの症状が現れてから産婦人科を受診するまで、また産婦人科を受診して子宮内膜症と診断されるまでに(もしくは適切に治療が開始されるまで)非常に長い時間が経過してしまっていることです。10年以上もの長い時間が経過していることも珍しくありません。
このように、進行した子宮内膜症が増えている原因には様々なものがあります。今回は、それらの原因について考えてみることにしましょう。
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