ラパロスコピストの夢

大阪梅田で子宮内膜症と闘うラパロスコピストのblog
子宮内膜症、子宮筋腫に対する腹腔鏡下手術はどこまで進歩できるか?

はじめにお読みください

健保連大阪中央病院に勤務するラパロスコピスト(腹腔鏡術者)のブログです。婦人科腹腔鏡下手術、子宮内膜症、慢性骨盤痛等の治療を専門としています。

このブログでは腹腔鏡下手術、子宮内膜症、子宮筋腫に関する基本的な事柄については解説していません。まず、下記のウェブサイトをご覧になることをお勧めします。
日本子宮内膜症協会
子宮筋腫・内膜症体験者の会 たんぽぽ

手術を希望される方はこちらをご覧ください。

医療相談、ご質問にはお答えしませんのでご了承ください。

おすすめの本はこちら?ブックス・ラパロスコピスト

子宮内膜症患者が腹腔鏡下手術を受ける価値があるのか?その1

2006-05-18 | 子宮内膜症
大阪に来て一ヶ月いろいろなことがあったが、子宮内膜症の方が手術を受けることをためらうことが多いのに驚いている。また、ふーん・・・と思うことも多い。

今回は子宮内膜症とくに月経痛や骨盤痛などの強い痛みを伴う方が手術を受ける価値があるのかどうかについて考えてみたい。

子宮内膜症取扱い規約第二部治療編・診療編(金原出版)をみると、子宮内膜症で腹腔鏡下手術を受けた患者のうち、一年以内に骨盤痛が再発してしまったのが40%、五年以内に再発したのが60%であったとされている。

このデータをみると、骨盤痛の治療のために腹腔鏡下手術を受けるのは約半数の患者さんにとっては無駄ということになってしまう。

この研究は国内の大学病院を中心とした多施設共同研究によるものである。大学病院を中心とした多施設共同研究というのが曲者だ。薬物療法と違って、術者の技術には大きな差がある。おそらく手術の内容自体がかなり異なっているのではないかという話を聞いたこともある。(たとえば、ダグラス窩の剥離自体ができていないなどなど・・・)

ところが欧米のエキスパートの成績では5年後の再発は、ほとんどないというものから30%程度のものまでとかなり成績は良好である。この違いはいったい何なのでしょうか?

では、私のデータをお見せする。近いうちに発表予定の抄録である。

【目的】
骨盤痛を伴う子宮内膜症に対する腹腔鏡下手術の予後は決して良好ではなく、半数以上が術後1年で元に戻ると言われている。今回、我々は骨盤痛を伴う子宮内膜症に対して施行した腹腔鏡下手術の短期的予後を検討したので報告する。

【方法】
平成15年10月から平成18年3月までに骨盤痛を伴う子宮内膜症93例に対して骨盤内の子宮内膜症を可及的に切除した。このうち64例では手術直後の月経痛の評価が可能であり、40例では術後1年後の評価が可能であった。腹腔鏡下で術前、術後初回月経、術後1年前後での月経痛をVisual analogue scale (VAS)にて評価した。

【結果】
術前の月経痛はVASで8.41から術後初回月経で3.10に軽減しており(64例)、12ヶ月後にさらに2.24まで軽減していた(40例)。術後1年までのフォローが可能であった40例について検討すると、術後初回月経痛は24例でVAS5未満となり16例ではVAS5以上のままであった。術後初回月経痛VAS5以上であった16例も月経痛は次第に改善しており、12ヶ月後には13例がVAS5未満で3例のみがVAS5以上であった。この月経痛改善不良例3例のうち2例に12ヶ月後の検診時に経膣エコーで小さな子宮腺筋症の所見がみとめられた。また、術後初回月経痛がVAS5未満であった24例は、12ヶ月後に22例がVAS5未満であった
が2例はVAS5以上に戻っていた。12ヶ月後にVAS5以上のものは5例であったが、3例は鎮痛剤でのコントロールが可能であり鎮痛剤が奏功せず低用量ピルを服用していたものは2例であった。

【結論】
我々の施行した腹腔鏡下子宮内膜症病巣切除術は、骨盤痛、月経痛に対して有効であった。手術直後の月経痛が強くても数ヶ月経過するうちに次第に改善した。少数の再発、改善不良例については今後の検討を要するが、ほとんどの症例では少なくとも術後一年までの予後は良好であった。

えー、ちょっとわかりにくかったかもしれないが、術後1年フォローできた40例のうち、月経痛が改善されたのは37例で改善不良のものは3例であった。そのうち低用量ピルを内服する必要があったものは2例、わずか5%であった。

そして骨盤痛(たとえば排便痛や性交痛)についても90%以上が改善(ほとんどは消失)していたのだ。

多施設共同研究の場合40%は1年後に再発・・・この違いはいったい何なんだ?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

直腸子宮内膜症は切除する必要があるのか?その13

2006-05-18 | 子宮内膜症
直腸子宮内膜症は切除する必要があるのか?切除しなくてもいいのか?

その気になれば、薬物療法(GnRHa+add backや低用量ピル)で長い間、子宮内膜症病変を眠らせておくことはできる。下手な手術を受けるくらいなら、延々と薬物療法を続けるほうがいいのかもしれない。

腹腔鏡下手術で丁寧にできるだけ病変を切除(Pelvic clean out)してQOLを最大限にすることもできる。放置すれば病状は進行していく。また、子宮内膜症の悪性化は今後の検討課題であるが、決して無視できる問題ではない。

直腸病変にしろ、その他の部位の子宮内膜症病変にしろ、医師と患者が術前に十分なディスカッションをすることが必要である。最善の治療はその結果得られるのだと思う。答えは一つではないのだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする