ラパロスコピストの夢

大阪梅田で子宮内膜症と闘うラパロスコピストのblog
子宮内膜症、子宮筋腫に対する腹腔鏡下手術はどこまで進歩できるか?

はじめにお読みください

健保連大阪中央病院に勤務するラパロスコピスト(腹腔鏡術者)のブログです。婦人科腹腔鏡下手術、子宮内膜症、慢性骨盤痛等の治療を専門としています。

このブログでは腹腔鏡下手術、子宮内膜症、子宮筋腫に関する基本的な事柄については解説していません。まず、下記のウェブサイトをご覧になることをお勧めします。
日本子宮内膜症協会
子宮筋腫・内膜症体験者の会 たんぽぽ

手術を希望される方はこちらをご覧ください。

医療相談、ご質問にはお答えしませんのでご了承ください。

おすすめの本はこちら?ブックス・ラパロスコピスト

ホーム&アウェイ

2005-10-30 | 腹腔鏡
プロスポーツの試合はホーム&アウェイで行われるものが多い。野球、サッカー、アメリカンフットボールなどなど。とくにサッカーの場合、サポーターが12人目の選手といわれるくらいホームのほうが有利だ。逆に敵地で行われる試合はかなりシビアになる。腹腔鏡下手術の場合はどうだろうか?自分の病院でする時と他の病院でするとき・・・鉗子や機器も全然違うし何よりも一番大事なスコープ操作や補助鉗子操作をする助手が慣れていない。ホームの力を10としたら、アウェイだと5~3くらいになってしまうこともある。開腹手術であれば、どこでやろうとあまり変わらないのだが。

1~2年前にAPAGE(Asia-Pacific Association for Gynecologic Endoscopy and Minimally Invasive Therapy)が台湾であったとき、Harry Reichがライブサージェリーをしたときのことを聞いた。それほど難しい症例ではなかったらしいが、意外にも出血が多く開腹手術に変更になってしまったらしい。そのライブを見た人の中で、Reichの時代はもう終わったという人が何人かいた。

果たしてそうなのだろうか?ニューヨークの医師が台湾でオペをする、しかも機器や鉗子も使い勝手が違うだろうし助手も思い通りに動かないだろう。スタッフに細かなニュアンスも理解してもらうのも困難だろう。Reichをはじめとする先駆者たちは、このような過酷なアウェイの状況で手術を成功させてきた。そのような状況の中で一度開腹に変更したからと言って、腕が落ちたとかいうことができるのだろうか?(私はその手術を見ていないのでなんとも言い難いのだが)

私も他の病院で手術をすることが多くなった。なかなか思うとおりにいかないことが多い。自分の施設にもどるとホームのありがたみがよくわかる。もちろん、満足しているわけではないのだが。

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a lady's hand

2005-10-29 | 腹腔鏡
a lady's handは貴婦人のような繊細な手をもつということである。たぶん、単に器用なという意味ではなさそうだ。おおざっぱで雑なという意味ではなく、丁寧で細かな手術操作ということだろう。腹腔鏡下手術では鉗子を通してしか手術操作ができないので、開腹手術よりもおおざっぱな手術操作しかできない人が多い。パワーソースに頼りすぎて他臓器損傷を引き起こす場合もある。しかし、腹腔鏡では拡大して見ることができるので逆に開腹手術よりもはるかに細かい手術操作ができるのだ。

何故、多くの術者にはそれができないのだろうか?何が必要なのか?

たぶん意志だと思う。より安全で美しい手術をしたいという気持ちがあるかどうかが大事だ。はじめは不器用かもしれないがそういう意欲を持って手術を続け、術者を目指すうちにlady's handは身に付いてくるものだと思う。

次に、身体の柔らかさを身につけること。必要以上に硬直した身体ではよい手術はできない。腹腔鏡の場合、なおさらだ。いかに身体をゆるめるかが大事ではないかと思う。腹腔鏡下手術は開腹手術より時間がかかるし難易度もはるかに高いので、ガチガチの身体では緊張が続かないし細かな手術操作ができなくなる。

a lady's handとは繊細なだけではない、強い意志と柔らかさがその繊細さを支えている。
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an eagle's eye

2005-10-27 | 腹腔鏡
eagle's eyeは鋭い観察眼のことである。腹腔鏡の場合は画面に映る情報が全てである。術者は、助手にスコープを近づけてさせて拡大視したり、離させて全体視しながら手術を進めていく。このとき、慣れない助手は画面全体を見ていることはない。中央しか見ていないのだ。(中には何がなんやらわかっていないのもいるが)画面の端で起こっていることには気が付いていないことが多い。せっかく腹腔鏡を使うのなら画面に映る情報は最大限利用したものだ。

画面に映るものが全てではない。画面に映らないところで何かトラブルが起こっていることだってあるのだ。たとえば、婦人科の腹腔鏡下手術では骨盤高位にするので出血が多いときには、上腹部に血液が貯まっていることがある。(上腹部が低くなるので血液が貯まり、放置しておけば術後の発熱の原因になる。)吸引をくり返すと知らないうちに結構出血していることもある。(一番まずいのはモニター画面に映らないところで出血していたりすることだ)術者はその時点での術中出血量を推測できていなければならない。

画面を見ながら、画面に映らないところの情報にも気を使いながらオペを進める。イマジネーションあふれる手術とはそういうものではないかと思う。
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A lion heart

2005-10-26 | 腹腔鏡
A good surgeon must have an eagle's eye, a lion's heart and a lady's hand.という英語のことわざがある。an eagle's eyeは鷲の鋭い観察眼、a lion heart はライオンの強い心、a lady's handは貴婦人のような繊細な手ということだ。この中で最も大事なのはa lion heartだと思う。

いくら上手くなっても術中のトラブルから解放されることはない。特に難しいオペのときにはトラブルを回避できるかどうかリカバリーできるかどうか、術者の差は著しく大きい。強固な癒着例では強い心が本当に必要になる。

腹腔鏡下手術で困難に直面したとき、どうするか?いかに解剖学的な構造を理解しながら手術を進めるか?強出血があったとき、いかに止血するか、それとも開腹に変更するか?オプションは1つや2つではない。状況が刻々と変わるので、その場に応じて判断していかなければならない。しかも、腹腔鏡下手術では、直視下に見えず手は届かない。

吸引する、小ガーゼで押さえる、鉗子で押さえる、結紮縫合する、クリップで留める、電気乾燥(バイポーラ、モノポーラ)で止血する、もしくは開腹に変更するなどなど、多数のオプションがある。その中で最良の手技を臨機応変に選択することができるだろうか?腹腔鏡の場合はこのまま対処するのがいいのか、それとも開腹へコンバートしたほうがいいのか、処置をしながら常にイマジネーションを働かせながら対処しなければならない。それには、解剖に対する知識と豊富な経験が必要だ。

かなり前に、アメリカンエクスプレスのCMで青木功が「ゴルフで強い奴は何やっても強い」と言っていた。数千万円の優勝賞金よりは人の命のほうがはるかに重い。腹腔鏡下手術はゴルフ以上に人間力が試されている。
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医師はお得か?

2005-10-19 | 医療全般
週刊朝日10/21日号に”東大vs.医学部「勝者」はどっち”という記事があった。最近は東大離れが進んで医学部が人気だそうだ。この記事を読んでみると、東大のローカル化が進んでいて関東の進学校は東大へ、西日本は医学部に進むという傾向があるようだ。東大を出ても西日本ではあまり良い就職口がないというのも背景にあるらしい。

うーん、本当に医師が良いのだろうか?医師免許という資格があるから、それなりに安定はしているかもしれない。でも勤務医は重労働のわりに意外と薄給、責任を問われるリスクも高いということを忘れてはならない。また、医療制度改革などで今後医療費も削られていくだろうから、決して医師の将来は安泰ではないと思う。

安定しているという理由だけで医師という職業を選ぶとしたら、それは大きな勘違いかもしれない。
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バシャッ!

2005-10-17 | 腹腔鏡
先日、ある外科医と話す機会があった。その先生の病院で胆石と卵巣嚢腫の手術を同時にすることになったそうだ。胆嚢摘出は腹腔鏡下で、卵巣嚢腫は悪性だったら内容液が腹腔内に漏れてしまうということで(婦人科医が)開腹手術で行うことになったらしい。

無事、腹腔鏡下胆嚢摘出術が終わり、次は婦人科で卵巣嚢腫の手術となった。ところが開腹して手術操作を始めたらいきなり卵巣嚢腫を破裂させてしまい嚢腫内容が腹腔内に漏れてしまったそうな。

「始めて5分でバシャッ!ですよ。いったい何のために開腹したんでしょうかねぇ?」
確かに腹腔鏡下手術なら多少は内容液が漏れてしまうが、こんなに大量に漏れてしまうことはない。腹腔鏡下で嚢腫内容液を丁寧に吸引してから手術するか、もっと大きく開腹して手術すれば良かったのかもしれない。まあ、当事者ではないので何ともコメントしようがない。

開腹手術ってビデオが残らないので、こういう結果になっても何とでもごまかせてしまう。ただ、この場合、ラパ胆のあと、引き続きスコープでビデオ撮り続けてたらどうだっただろう?
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結紮縫合は必要か?

2005-10-13 | 結紮縫合
子宮筋腫核出では子宮の縫合、子宮全摘では腟断端の縫合など、手術で結紮縫合が必要な場面は多い。しかし、血管や靱帯であれば、自動縫合器やクリップ、バイポーラ(高周波凝固)などで代用することができる。また、数センチメートルの小開腹を加えたり、経膣的な手術操作をしたりすることで内視鏡下での結紮縫合を避けることもできる。

それでいいのだろうか?内視鏡下での結紮縫合は習得するまでは難しいが、慣れれば、わずか数センチメートルの小開腹から狭い術野での縫合に比べれば、はるかにきれいに安全に縫合することができると思う。

以前、須賀川のセミナーでのことだが、「べつに腹腔鏡補助下手術でいいんじゃないか?」と体内結紮や体腔内操作の必要性に懐疑的な先生がいた。残念ながら、いい手術を見ていないのだろう。それは、それでいいんじゃないかと思うが、そこで止まってしまうと却ってトラブルが多くなるのではないか?

結紮縫合を練習することで、腹腔内操作の基本が身に付く、すなわちhand-eye coordinationが良くなるという副効用もある。結紮縫合をしっかり練習して安全な手術ができるようになってほしい。
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JSES結紮縫合手技講習会

2005-10-12 | 結紮縫合
先日、県内で日本内視鏡外科学会主催の内視鏡下結紮縫合手技講習会があり、講師をした。受講者は全て外科の医師で、婦人科医は私だけ。講習の内容は外科における結紮縫合に即したものになっており、若干手技に違いがあったが興味深いものだった。私は子宮内膜症手術における直腸と子宮の癒着剥離、子宮内膜症切除の手技や腸管の縫合などを供覧した。

外科における腹腔鏡下手術では結紮縫合が必要になる場面はあまり多くないようだ。血管を分離してクリップをかけるという操作が多いのだろう。そういう意味では婦人科手術よりは切開剥離操作についてはシビアなのだと思う。参加した先生方は腹腔鏡下手術の経験が多くてhand-eye coordinationがよく、結紮縫合手技の習得は非常に早い。コーディネーターの先生は、結紮縫合のトレーニング自体が細い糸をつかんだり複雑な結紮操作をするために、鉗子操作のトレーニングになることを強調していた。

私もいい勉強になった。ちょっとしたテクニックを学ぶことができた。(どっちが講師やねん?)
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子宮筋腫核出

2005-10-11 | 腹腔鏡
先週、かなり難しい腹腔鏡下子宮筋腫核出術をした。術中に鉗子がひん曲がるほどだったが、どうにか600gの筋腫を核出して終わった。

腹腔鏡下手術の保険点数は25,300点である。つまり手術料は253,000円。一見かなり高いなと思えるかもしれない。しかし、これにはディスポーサブルの医療器具の経費が含まれている。筋腫核出を腹腔鏡下でする場合、トロッカー、吸引洗浄装置、子宮のマニピュレーター、超音波凝固切開装置、モルセレーター(筋腫を切開して回収する装置)などがあり、これらを合計すると10万円以上になってしまい実際の利益は開腹でするほうが上になってしまう。(開腹手術の点数は13,800点)

うーん、はじめから開腹したほうが儲かるなんて・・・しかも入院期間は長くなるから病院はもっと儲かる・・・

ちなみに小開腹を併用する腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術(保険点数は腹腔鏡として請求できるので25,300点)ではモルセレーターも使わないので開腹手術より利益が大きくなるかもしれない。しかし、4-5cmの小さな開腹とはいえ、手術侵襲は開腹に準ずることには変わりないのだ。

より高度な技術を駆使して小さな傷で手術するほうが、利益が小さくなるなんて・・・なんかおかしくないだろうか?終わった後、へとへとになるくらい頑張ってるのに、逆に儲かってないとは・・・あー、なんか、あほらし・・・
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