ラパロスコピストの夢

大阪梅田で子宮内膜症と闘うラパロスコピストのblog
子宮内膜症、子宮筋腫に対する腹腔鏡下手術はどこまで進歩できるか?

はじめにお読みください

健保連大阪中央病院に勤務するラパロスコピスト(腹腔鏡術者)のブログです。婦人科腹腔鏡下手術、子宮内膜症、慢性骨盤痛等の治療を専門としています。

このブログでは腹腔鏡下手術、子宮内膜症、子宮筋腫に関する基本的な事柄については解説していません。まず、下記のウェブサイトをご覧になることをお勧めします。
日本子宮内膜症協会
子宮筋腫・内膜症体験者の会 たんぽぽ

手術を希望される方はこちらをご覧ください。

医療相談、ご質問にはお答えしませんのでご了承ください。

おすすめの本はこちら?ブックス・ラパロスコピスト

仕事納め

2006-12-28 | 大阪日記
今日もオペであった。これで今年のオペは終わりである。

4月から関西にやってきて、約300例近い腹腔鏡下手術を執刀した。
スタッフも慣れない環境で、はじめは大変だったが、
深部子宮内膜症病変切除、子宮腺筋症切除、膀胱部分切除、膀胱尿管新吻合、直腸低位前方切除など・・・
気がついたら極めて高度な手術でさえ多数行っていた。
助手やスタッフの協力の賜物である。

また、北海道から沖縄まで、ときには海外在住の方までこのブログを見た多くの方に来ていただいた。

今年の仕事や現在の環境にすべて満足しているわけではないが、今年は充実した一年であった。本当に大阪に来て良かった。
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きっと、よくなる

2006-12-24 | 大阪日記
子宮内膜症の患者さんの中には、ストレスを抱えている人が多い。

「ピルを飲み続けると乳ガンになる」と思いこみ低用量ピルが飲めない人(実際には若干リスクが高くなるだけなのに・・・)

「もう、妊娠できないのではないか」と悲観的になっている人(いやいや、腹腔鏡下手術のあとは妊娠しやすくなりますよ)

術後の再発の可能性を説明しただけだが「2-3年で再発してしまう」と思いこんでいる人(・・・)

骨盤痛や不妊に悩まされている人、見えない恐怖におののいている人も多い。インターネットで検索し、洪水のような情報に混乱してしまう。

たとえば癌だったとしたら5-10年再発しなければ治ったと考えていい。しかし、子宮内膜症は20-30代に好発し一生長い間付き合いつづけなければならない。たいへんストレスフルな病気だと思う。

しかし、子宮内膜症はまったく治療法のない疾患ではない。一生の内に数回の腹腔鏡下手術は必要かもしれないが、低用量ピルやGnRHaを上手く使いこなせれば生活の質(QOL=Quality of Life)をずっと高めることができる。

病気は人生最大のピンチの一つである。本田健氏によれば、こうした最悪の出来事が人生の転換点となることが多いそうだ。そこで立ち止まり、感じたり、考えたりすることで人生は様変わりし、のちの成功(幸福)のきっかけとなる。

本田氏はさらに言う。マイナスの出来事に目を向けるのではなく、力を抜いて、流れに身を任せましょう。長い目で見れば、どんな人の人生もよくなるように導かれています。


本田健
きっと、よくなる

身体と心が疲れたとき、癒されたいとき、本書を手にとってみてください。医療に100%はないのだけれど、確信できるでしょう。「きっと、よくなる」と。
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腹腔鏡下手術と数学的思考

2006-12-23 | 腹腔鏡
医学部の受験には数学、理科は必須であるが、医師の仕事にあまり数学や物理の学力が必要だと感じることは少ない。むしろ、国語や英語力のほうが重要だと感じることが多い。しかし、外科手術では数学的思考が大変重要だ。

子宮内膜症による強い炎症がある場合、解剖学的構造は大きく歪み、手術操作は困難を極める。このような手術をする場合、適切な剥離層を探し、尿管、直腸、膀胱や血管の位置を明らかにして内膜症病変を切除することが必要だ。当然のことながら手術書どおりに進めることなどできない。パワーソースの熱が及ぶ範囲を推測し、解剖学的な構造を明らかにしながら手術を進める。決してカンやセンスでやってるわけではない。周囲から見れば、なぜこのような謎解きができるのか?と思えるようだ。

このような手術をしていると、昔、受験勉強で数学や物理の問題を解いていたときに使っていた思考回路をそのまま使っているような気がしてくるのだ。だから私は中学高校時代に数学や理科を勉強することは優秀な術者になるために大変重要だろうと思う。

もちろん、腹腔鏡下手術をするのに数学ができなければならないというわけではない。それに手術は受験数学ほど甘くはない。正解は必ずしも一つではないし、正解があるとも限らない。
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子宮内膜症患者が腹腔鏡下手術を受ける価値があるのか?その11

2006-12-22 | 子宮内膜症
★痛みのわりに所見に乏しいケース
月経痛、骨盤痛の患者さんを診ていると、月経痛や骨盤痛の症状が強いわりに子宮内膜症の所見が軽い(もしくはほとんどない)ことがある。ダグラス窩の癒着はまったくないかわずか、また、子宮内膜症病変もわずかに存在するのみだったりする。

こういう場合、通常は仙骨子宮靭帯切断(LUNA)が行われることが多い。しかし、LUNAは長期的な予後はそれほどいいとは言えない。LUNAは効かないという医師も少なくない。(Charles H. Koh曰く”LUNA doesn’t help.”)

では最近このような状態に対してどのような手術がされているのか述べてみる。
仙骨子宮靭帯~骨盤腹膜の切除:慢性骨盤痛の患者に対して、正常に見える仙骨子宮靭帯や骨盤腹膜を切除する。正常に見える仙骨子宮靭帯でも子宮内膜症病変がみとめられたり、炎症が存在していたりするらしい。
(Histopathologic findings on uterosacral ligaments in women with chronic pelvic pain and visually normal pelvis at laparoscopy. J Minim Invasive Gynecol. 2006 May-Jun;13(3):201-4.)

しかしながら、ほぼ正常に見える仙骨子宮靭帯を切除した場合の予後については、あまりよくわかっていない。とはいうものの、多くの骨盤痛は改善しているようだ。

前仙骨神経叢切除術:仙骨の前面、大動脈~総腸骨動脈の分岐部の前面に上下腹神経叢が走行しており、その中に子宮へ入る神経がある。仙骨前面の神経叢を菱形に切除するのが前仙骨神経叢切除術である。central pain、すなわち骨盤痛のなかでも身体の中心部の痛みに有効であると言われている。
(Effectiveness of presacral neurectomy in women with severe dysmenorrhea caused by endometriosis who were treated with laparoscopic conservative surgery: a 1-year prospective randomized double-blind controlled trial. Am J Obstet Gynecol. 2003 Jul;189(1):5-10.
Presacral neurectomy for surgical management of pelvic pain associated with endometriosis: a descriptive review. J Minim Invasive Gynecol. 2006 Sep-Oct;13(5):377-85.)

本邦ではあまり行われていないが、本術式の特徴はLUNAに比べて、より効果的であり長期予後も良好であると言われている。私は原因のはっきりしない重症骨盤痛例に対して十数例施行したが、90%程度の奏功率であった。子宮内膜症切除や仙骨子宮靭帯切除などと組み合わせて行うことにより骨盤痛治療の効果を上げることができると思う。
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現代用語の基礎知識 大阪中央病院婦人科編 その4

2006-12-18 | 大阪日記
「ワニさん」

カールストルツ社のクリックラインシリーズの有鉤把持鉗子のこと。先端部分に歯がかみ合うような形で鉤があり、ワニの口のように見えるので、知らないうちに「ワニさん」と呼ばれるようになった。チョコレート嚢胞や筋腫の核出で用いられる。歯がついているので、まるでワニが食いついたかような把持力である。

先週、ちょっと調子が悪くなったので、スタッフに見てもらうと「あら?ワニさん、シッポ折れとる~!病院行きやわ~(修理に出すということ)」、まるで、動物園内の会話のようである。

「コブラ」

カールストルツ社のクリックラインシリーズの有鉤把持鉗子、コブラジョーのこと。先端部分に上1本、下2本の鉤があり、まるでコブラの口の形に見える。開閉する様はヘビのようでちょっと怖い(ウソ)。TLHの腟断端部の縫合などで用いる。

しかし、アヒルさんやワニさんと違って、なぜコブラには「さん」が付かないのだろうか?
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ついに出てしまった・・・

2006-12-16 | 大阪日記
12/10読売新聞朝刊(病院の実力)に技術認定医の治療実績が載った。なんでこんなのが?と思ったが、そういえば数ヶ月前にアンケートが送られてきて回答したのだった。これは昨年の症例数であり、私のは愛媛にいたときのものだ。(今年の私の手術数は、あれよりもはるかに多い。)

とはいえ、関西では我々の症例数はダントツでNo.1である。(本当は数ではなく質が重要だと思うが。)しかしながら、このような形で公表されても私たちにとっては単にwaiting lineが長くなるだけのことである。おそらく、症例数の多い病院では似たようなものだろう。

正直のところ、われもわれもと殺到されても困る。できることなら、その価値をより理解している患者さんに手術をしてさしあげたい。(手術は体力を消耗するものだが、いくら働いても給料は同じだし)少なくともネットや書物で疾患や治療法についてはしっかり勉強していただきたい。
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現代用語の基礎知識 大阪中央病院婦人科編 その3

2006-12-09 | 大阪日記
「アヒルさん」

カールストルツ社のクリックラインシリーズのダックビル鉗子をこう読んでいる。ダックビル(duckbill)とはカモやアヒルのくちばしのことである。片開きの鉗子で先端がやや四角で平べったい形が、アヒルやカモノハシのくちばしを彷彿させる。組織の把持、剥離、結紮縫合操作などで頻用される。

はじめは「把持鉗子」と言っていたが理解されず、「ダックビル」といってもなかなか出てこなかった。「アヒル」というとなぜかスッと出てくる。気がついたら通称「アヒルさん」になってしまった。

開閉していると今にも「アフラック!」と言い出しそうなのである。
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Q&A「子宮内膜症手術に対する術前GnRHaの投与」

2006-12-07 | Q&A
★質問
はじめまして、お忙しい所失礼します。
○○県内の総合病院で腹腔鏡手術をしようと思っています。

腹腔鏡手術の前に癒着している病巣を剥がれやすくするためにGnRHアゴニストの「ゾラデックス」の注射をするのは、よく行われる治療法なのでしょうか?副作用の強い薬と言う事は認識してますので、いざ使うとなると躊躇しています。

私は3○歳独身です。出産経験はありません。
症状として、生理痛があり、特に1,2日目。鎮痛剤を1回飲めば痛みは緩和されます。性交痛もあります。臨床診断で子宮内膜症(チョコレートのう胞)4期と診断されています。左右5cmほどチョコがある。(セカンドオピニオンを聞いた病院では片方は8cmと言われました。)

4、5年前に初めて子宮内膜症と診断されスプレキュア点鼻薬を1クール使いました。その時に、副作用が少しでました。1クール終わった時点で内膜症は小さくなっているとのことで、その病院には行かなくなり、今年○月に行った病院で、卵巣が腫れていると言われました。それ以降2、3件の病院でセカンドオピニオンを聞き、「3○歳以上でこの程度卵巣が腫れていると癌化することがある」と聞いたので、手術をしようと思っています。
現在通っている病院で手術を申し込んだところ、ここではあまりにも腹腔鏡手術が殺到している為、今は手術を今は受付できないとの事。○月まで予約でいっぱいらしいのです。(○月以降の予定は未定)「どちらにしても、すぐには手術できないので、その間にゾラデックスで4ヶ月ほど生理を止めましょう。」と言われ、次回の生理(来週中には始まる予定)を待っている所です。

ご回答頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。

★回答
GnRHaの術前投与は日本国内では比較的よく行われています。(子宮内膜症に対するGnRHaの術前投与の有用性が認められているわけではありません。)

子宮や卵巣の血流が少なくなるために、剥離操作による出血が少なくなるとか、術後の癒着が軽くなると言われています。また、月経を止めることで、手術までにチョコレート嚢胞が破裂することは予防できるかもしれません。

しかしながら、GnRHaを投与することにより子宮内膜症病変が小さくなり(あるいは一時的に消失する)、小さな病変を見逃してしまう可能性も指摘されています。また、子宮内膜症病変が萎縮するためにかえって癒着剥離がしにくくなるという医師もいます。

卵巣チョコレート嚢胞を核出するだけであれば、GnRHaを使おうと使うまいと結果はあまり変わらないかもしれません。しかし、骨盤痛や月経痛がひどい場合には、原因となる子宮内膜症病変が小さくなり、手術時に見逃してしまい術後に再度出てくるということがありえます。(とくに腹膜病変)

そこで私個人としては、子宮内膜症手術時のGnRHaの術前投与はおおむね以下の場合2-3ヶ月間投与しています。
1.月経痛、骨盤痛などの疼痛が我慢できず、手術日まで待てない。(もしくはチョコの破裂を予防したい)
2.子宮腺筋症、子宮筋腫などが大きくて、腹腔内のスペースが小さくなり手術が困難になる可能性がある。
3.チョコレート嚢胞が大きかったり、多房性であったりして、手術時の出血が多くなることが予想される。

子宮内膜症以外では子宮筋腫の術前にもよく使われますが、筋腫が小さく、子宮の血流も少なくなるために出血が少なくなり術後癒着も軽くなると考えています。(しかし、これも筋腫が小さくなり、ごく小さな筋腫は見逃す可能性もあり。また、筋腫が核出しにくくなることがある。)

結局は、これらの利点と欠点を考えて、術者の好み(と技量)で決めることになります。術前に一回だけというのもあれば、ルーチンに6ヶ月間としている施設もあります。

私個人としては、両側5cmのチョコ核出と癒着剥離ということだけであれば、わざわざGnRHaを使うほどでもないと思います。

※ご相談に対する回答は個人情報を削除した上で、メールマガジンやブログで紹介させていただくことがあります。ブログのコメントでのご質問、匿名のメールには回答いたしませんのでご了承ください。
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現代用語の基礎知識 大阪中央病院婦人科編 その2

2006-12-04 | 大阪日記
「安物ちゃん」

八光(メディカル事業部)が製造販売している臓器回収袋、EZパースの当院での俗称。他社従来品の約1/10のコストであるため「安物回収袋」と呼ばれていたが(可哀想に・・・)、婦人科では画期的なコストダウンに敬意を表して「安物ちゃん」と"ちゃん付け?"して呼んでいる。チョコレート嚢胞や子宮内膜症病変のほとんどは、「安物ちゃん」で回収される。

自作すれば、もっと安い?
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