ラパロスコピストの夢

大阪梅田で子宮内膜症と闘うラパロスコピストのblog
子宮内膜症、子宮筋腫に対する腹腔鏡下手術はどこまで進歩できるか?

はじめにお読みください

健保連大阪中央病院に勤務するラパロスコピスト(腹腔鏡術者)のブログです。婦人科腹腔鏡下手術、子宮内膜症、慢性骨盤痛等の治療を専門としています。

このブログでは腹腔鏡下手術、子宮内膜症、子宮筋腫に関する基本的な事柄については解説していません。まず、下記のウェブサイトをご覧になることをお勧めします。
日本子宮内膜症協会
子宮筋腫・内膜症体験者の会 たんぽぽ

手術を希望される方はこちらをご覧ください。

医療相談、ご質問にはお答えしませんのでご了承ください。

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子宮内膜症は再発する その4

2010-11-23 | 子宮内膜症
一般的に卵巣チョコレート嚢胞の再発は取り残しによるものと考えられている。しかし、術後、排卵により新たにチョコレート嚢胞が形成されてくることによる再発もあるのだろう。

もし、ほぼ切除したと思っていた症例でごくわずかに取り残した子宮内膜症病変が再びチョコレート嚢胞になるのであれば、少なくとも再発までに3~4年はかかるのではないかと思う。しかし、実際には術後早期にチョコレート嚢胞が再発していることも珍しくない。おそらく、排卵することにより、いとも簡単に新たなチョコレート嚢胞ができてしまうのではないだろうか?

卵巣チョコレート嚢胞を核出する際にもっとも注意しなければならないのは、子宮内膜症病変を取り残さないこと、そして正常卵巣組織を傷つけないことである。

もし、卵巣血管を傷ついて過度に凝固止血(もしくは縫合)した結果、卵巣血流が低下して卵巣機能不全を起こした場合、その卵巣は排卵障害になるだろう。

もし、チョコレート嚢胞がきれいに核出でき、卵巣自体はほとんど傷つかなかった場合、卵巣機能は正常だろうし術後もどんどん排卵するだろう。

ということは、きれいに手術できた場合には、何度も排卵して、すぐに再発してしまい、雑に手術して卵巣の血流を低下させてしまった場合には、全然排卵できないので、あまり再発しない…のだろうか
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子宮内膜症は再発する その3

2010-11-21 | 子宮内膜症
卵巣チョコレート嚢胞核出術後の再発については、文献によってかなり差がある。その上、術後治療について検討した場合にも結果は大きく異なっている。その気になれば、自分の主張に都合のいい内容だけ集めて考察できるだろう。

術後治療がない群と低用量ピル(OC)を投与した群が差がないとする論文の多くは、術後にOCを6ヶ月間だけ投与して、その後は投薬なしで経過観察したものが多い。GnRHa投与と比較するために作成された研究デザインであろう。

GnRHaの投与は骨塩量減少や卵巣機能欠落症状などの副作用により6ヶ月までとされている。一方、OCは長期間の投与が可能である。GnRHaとOCは、全く違った目的で使用されるべきである。

そういう論文で、GnRHaの効果について考察しているのはわからないではないが、OCについてコメントしているのは奇妙に感じる。長期投与が可能な薬剤を6ヶ月間だけ投与して、その有用性を論じることが科学的といえるだろうか?

子宮内膜移植説からは卵巣表面の子宮内膜症が卵巣内に陥入してチョコレート嚢胞を形成していく(cortical invagination)とされているが、卵胞がそのままチョコレート嚢胞に変化するといっている論文もある。チョコレート嚢胞に黄体が存在していることはしばしば観察されるので、卵胞がチョコレート嚢胞になっていくというのもあるのだろう。(化成?それとも排卵時の破裂孔から子宮内膜症が侵入?)

Vercelliniは、卵巣チョコレート嚢胞の再発を予防するための策は排卵を止めることであると考えている。一度チョコができてしまう症例だから、排卵を止めないかぎり再発しやすいのもしれない。

再発したチョコレート嚢胞については、取り扱いは慎重でなければならない。妊娠するべき時期までOCで排卵を止めて、チョコレート嚢胞の再発を最小限にしておくことが賢明ではないだろうか?


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子宮内膜症は再発する その2

2010-11-08 | 子宮内膜症
子宮内膜症の中でも卵巣チョコレート嚢胞は再発しやすい。術後薬物療法を行わない場合、Vercelliniは術後3年で約半数が再発東大は術後2年で約30%が再発していたと報告している。

3年で半数が再発するなんて…(ちょっと再発率高すぎる気もするが)
手術する意味がないではないか

再発チョコレート嚢胞を核出すると卵巣機能が著しく低下するリスクがある。(それでもやらなければならないような再発チョコはあるけれど…)できるだけ再発させない治療プログラムを考えた方が賢明じゃないだろうか?

術後にOC(低用量ピル)を服用した場合には、Vercellini:術後3年で約6%東大:術後2年で約3%にまで下がる。

大事な卵巣ならOC内服して、来るべき時期(排卵していい時、すなわち妊娠したい時)までチョコの再発を防ぎ、妊孕能を低下させないようにしようではないか

つまり将来的な妊娠を考慮するのであれば、チョコレート嚢胞を核出した後、妊娠を希望していない時期はできるだけOC(ディナゲストのようなプロゲスチンでもいいけれど)を服用してチョコの再発を防ぐのがよいと思われる。妊娠を考える時期になったらOCをやめればよい。
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子宮内膜症は再発する

2010-11-07 | 子宮内膜症
子宮内膜症は良性疾患であるが、子宮と卵巣を温存するかぎり、完全に切除するのは困難である。

薬物療法(低用量ピル、GnRHa、プロゲスチン)で、一時的に病巣が縮小することはあっても完全に消失することはない。薬物療法を中止したら、また大きくなるのが普通だ。完治することはない。

子宮内膜症病変を摘出し卵巣と子宮を温存する保存手術では病変を完全に取り除くのは困難である。(眼に見えない病変は取り除けない。)術後、月経を繰り返しているうちに(とくに排卵を伴うと)、骨盤痛が再燃するかもしれないし、病巣が再発するかもしれない。

子宮と卵巣を摘出する根治手術であれば再発は極めて稀となるが、妊娠を目的とする場合には選択肢にはできない。

もっとも子宮内膜症は良性なのだから、ひどい骨盤痛が楽になり、不妊の人が妊娠でき、問題が解決するのであれば、完全に治る必要はない。

しかし、QOLの高い生活を送るためには、そのための戦略は必要である。つまり、いつ手術するのか、何のために手術をするのか、どのような手術を選択するのか、術後のホルモン療法をどうするのか、不妊治療のプランは、などなど。選択肢は数多くある。診察や検査が進むうちに、厳しい現実がつきつけられるときもある。子宮内膜症をよく理解しなければ、よりよい選択をすることはできないだろう。

病院は夢が与えられるところではない。ともに厳しい現実と闘うところである。



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