Box of Days

~日々の雑念をつらつらと綴るもの也~ by MIYAI

外では雨が降っている

2005年02月16日 | old diary
 昨日は、朝にジャクソン・ブラウンの『For Everyman』を途中まで聴いて、「帰ったらつづきを聴こう」と家を出たのだけど、実際に聴いたのはスプリングスティーンの『The Ghost of Tom Joad』だった。ま、後でジャクソンも聴いたけど。ただ、なんていうのかな、どんな毎日にも苦味があるわけで、別に昨日が嫌な1日だったわけじゃないのだけど、そんな苦味を静かに噛み締めたいときもあると。で、『The Ghost of Tom Joad』というアルバムには、そんな気分ともじっくりとつきあってくれるような、言いようもない深みがあるのだと思う。

 そこでふと思い出したこと。映画『男はつらいよ』の山田洋次監督が言ってたこと。映画が大ヒットして、シリーズの本数が増えてくると、周囲からは「マンネリだ」という批判が聞こえてきた。「こっちは血のにじむような想いで作っているのに…」と監督はそのことをとても苦々しく思っていた。そんなある日、主演の渥美清と撮影所へ向かうタクシーに乗っていたときのこと。「あぁ、このまま熱海の温泉にでも行っちまいたいね」と監督はつい漏らしてしまう。すると渥美はなんでもないような口調で「いいですね。行きますか?」と言ったそうだ。「そうだね。行こうか‥」と監督が言うと、渥美は「よし、決まった!運転手さん、熱海ね」、そう言ったという。結局、撮影の穴はあけられないということで、途中からUターンして撮影所へ向かったそうだけれど、「あのとき、僕は嬉しかったな」と監督は後のインタビューで語っている。「少しの間だけでも、ほんとに熱海の温泉に行ったような気持ちになれたからね。ほら、人にはできないとわかっていながらも、ついに遠くへ行きたいとか、そういうことを言いたくなるときってあるでしょ。渥美さんはその辺の気持ちがわかる人でしたね」。

 これを読んだとき、僕もいつかそんな人になりたいと思った。鈍い人間にはなりたくないと。

 で、今もそう思っている。そうなれるなら、多くのことを失ってもいいと思うくらいに。