遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

昭和歌謡曲の軌跡-死の立会人

2017-10-09 | 心に響く今日の名言
坂田山心中のあった翌年、つまり昭和8年2月には、大島の三原山が自殺のメッカとしてクローズアップされます。

東京の実践女子専門学校国文科二年の富田昌子(21)が、同級生松本貴代子(21)の飛び込み自殺の死の立会人になったことが、判り、さらにその告白から以前の1月8日にも上級生真許三枝子(24)の自殺に動行したことが判り、猟奇的事件としてジャーナリズムにとりあげられました。それ以来、三原山は「賛美の墓場」となり、この年だけでも944人の自殺者を数えています。

(マスコミは昌子を「死の案内人」「死の立会人」とセンセーショナルに報道。昌子は学校からも追放され、脳底脳膜炎で4月29日に死亡しています)

たまたまでしょうか、この昭和8年の冒頭に小唄勝太郎の「島の娘」が発売され大ヒットしていました。それを「船頭小唄」に対する、対応と同じく「島の娘」のような歌が流行するから自殺者が急増するのだという論議までうまれました。

そのロジック自体は、こじつけに過ぎませんが、流行歌が時により、生を死にかえるスプリングボードの役割を果たすという点は注意しておく必要があるかもしれません。

後にこの「島の娘」は〈人目忍んで、主と一夜の仇情け〉の部分が私通奨励だとして、レコード検閲にひっかかり、改作を命じられて〈咲いた仇花 波に流れて 風便り〉となり、ついには発売中止の憂き目にあいますが、当局が流行歌に強い規制を強いるのは、早くからその影響力を重視していたからでしょう。

昭和9年5月2日に出版法が改正公布去れ、皇室の尊厳を冒涜するものや、安寧秩序を妨害するものに対する規制が強化され、レコード検閲も内務省の手によって行われることになり、時代の推移とともに規制の範囲は広がっていきます。

この検閲にふれて発売禁止になった第一号が、昭和10年7月に発売された「のぞかれた花嫁」(大谷俊夫監督、杉狂児・星玲子・花柳小菊・見明凡太郎主演の日活映画多摩川作品「のぞかれた花嫁」主題歌。)でした。

検閲の流行歌に対する態度はまず風俗関係にむけられ、杉狂児の歌ったこの映画主題歌は〈だれも見ていない部屋なら あの甘い接吻しない ネーおまえ あなたとふたり……〉という模写が、扇情的でホテルの一室での男女の痴態を表現しているというのが発売禁止の理由でした。現在の歌謡曲と比べてみても、当時の様子がわかるというものです。
(つづく)

悲鳴(現代詩)

2017-10-09 | 現代詩作品

はっときずくと
安楽椅子にもたれたまま
私にもどる
一瞬の闇、いかにも
甘い記憶が拭い去られるとは信じがたい
無言の時の欠落に
魅入られていた
くらくらするような喪失感に
どことなく
酔いしれていたわけではなかった


部屋の色も匂いも
かわりもなく
このまま向こう側の
見えない意味の漂流という
観念にあまえながら
見ようとする空しい意識の切迫に
切なさを滲ませて
おそらく無駄な空気感を突き抜けてく
ここにはいない人のことが
よみがえるのだろう


瞬間の
まぶしい午後のひかりのなかで
おそらく死の儀式が
ひっそりとゆきすぎるのを
みおくるために
おきあがろうとする
異色な彼の疲れ切ったゆらめきは
影もしらない
反目する安楽椅子に抱かれたままの恐怖、闇の手か?
青ざめた悲鳴が天井を走る


(上の写真と詩は直接の関係はありません)