遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「言葉が眠る場所」

2010-07-29 | 現代詩作品
言葉が眠る場所



息をととのえている、かに思える
余裕のない偶然で、
確信が持てない
そらぞらしい空や、そらぞらしい人々から
逃れようというわけではないが
分厚いコートを羽織る
朝の寒さに
ふっと漏らす吐息が、外聞で曇る
窓の結露が気になる

…いつからこんな曖昧な水際を
…呼び込んでしまったのだろう

かすかな潮騒が
瀬戸際の耳の生命力をおしはかり
感動の薄い日々とはいえ
しらぬ間に見失っていくものの
一瞬にさらわれた砂の塔にまつわる幼い空疎感
下世話な思いでとともに
目にとびこんできて
手帳に書いてある今日一日の日程にむかって
朝をめくる

…死後の世界を想像させる静かなホテルは
…はるかな異国の言葉が眠りいる場所か

カモメの群れが急に飛び立つ
遙か遊泳禁止の海岸線で
ちっぽけなこだわりに咽せている
自分の顔を想像しながら
冷たい風によりかかってみるが
砂利に足を取られて
(時代は毒のバロメーター、
無様な生き方をなぐさめてくれるかのような地平の果ての
たとえば、死者の視線が気になる

…よどみきった日常の隙間に曖昧な水際を
…いつからため込んでしまったのだろう

港町にきて顔を盗まれたのではない
見失ったのでもない
今日一日の
朝の雫が旅の予定をせかせる
窓の曇りを払えば、
見知らぬ顔がゆがんでみえる
等身大の鏡はさみしい、自分の
不確かな記憶に
もう一度熱いシャワーを浴びせなければならない



現代詩「幽霊教室」(近世編)

2010-07-25 | 現代詩作品
幽霊教室(近世編)



夢の儚さ
近世の文芸作品などに登場する
幽霊はいろんな習癖がある
中国から流れてきた
雲は、流れる霊気という
不可思議な力を表現するものであったという
近世の
雲は、他界と現世を結ぶ通路のようなもの
教室には金斗雲が漂い始めて
睡魔に襲われながら、…

一人の生徒は、、
 足がないだけではなく腰から下もなかったという(太平百物語)
つぎの生徒は、
 出現する時に下駄の音をさせる霊もいるという(怪談牡丹灯籠)
そのつぎの生徒は、
 人間の魂に形を与えられた故、斬られて赤い血を流す(加婢子)
…先生は、
 ほほえみながら肯いている


一人の生徒は、
 生臭い物ことに魚の臭いをきらうもの、と思います(雨月物語)
つぎの生徒は、
 亡霊も喉がわかいて水をもとめるもの、と思います(諸国百物語)
そのつぎの生徒は、
 そのうえ一日に千里を行くことができる、ものです (雨月物語)
…先生は、
 すこし憮然としている

一人の生徒は、
 しかも遠くへ行く為に馬に乗ることもあるそうです(雨月物語)
つぎの生徒は、
 死んだ時のまま成長もなければ老いもないそうです(雨月物語)
そのつぎの生徒は、
 そのため長生きした妻と不釣り合いとなり、のちに死んだ妻と一
 緒にこの世に出現したときに夫は二十四、五歳、妻は六十歳余り
 という事態もありました(保古の裏書)
…先生は、
 なぜか顔をあからめている

一人の生徒は、
 解任したままに死んだ女が、自分の力で体内の子を産み落とせず、
 通りかかった見知らぬ男に自分の腹をつき破ってくれるように頼
 みこんだといいます(太平百物語)
つぎの生徒は、
 母親の亡霊はこの世に残した幼い自分の子に乳をのませることが
 できるものです(加婢子) 
その次の生徒は、
 幽霊となった女が現世の男につれそって、その男の子を生むこと
 もあるということです(諸国百物語)
…先生は、
 しきりに女生徒を気にしている

一人の女生徒は、
 幽霊がまだ生きていると信じている人の目には、生前の姿を見せ
 るが、すでに死んでいることを知っている者の眼には、骸骨だけ
 がうつる、そうです(三十石よふね始)
つぎの女生徒は、
 女の亡霊は、契りをかわした恋人の前だけには、そのかたちを見
 せるが、およそかかわりなどのないひとにはまったく見えないこ
 ともある、そうです(加婢子)
最後の女生徒は、
 恨みある主人にだけ血しぶきの怪異を見せる召使いの女の幽霊も
 いる、そうです(太平百物語)
…先生は、
 しばらくこたえず、

流れる霊気がなぜ女性のみを取り込んでしまうのか
近世人の虚空に浮かぶ浮遊華、
だからとは、云わずに
先生は、超越的な存在の幽霊草をにぎり
金斗雲にのって消えたという
夢の儚さ 

                *参考(「日本の幽霊」諏訪春男著)


*今朝はいくぶん涼しく感じますが、日中はどうなることやら。

江戸時代の幽霊については、まだ分からないところが多くあります。
当時の民衆の心理について、どなたか教えていただける方や、
適当なテキストをごぞんじないですか?

現代詩「六月の声」

2010-07-24 | 現代詩作品
六月の声



雨あがりで
無花果の葉の上を
ころころ、ころがる
眩しくて見えない
水の声は、和音うずまく
歓喜のつゆ玉
……。
みどりの肉厚が
切ない
影を落とし
樹木のそばの
小川の背面を射ぬこうとする
光の棒が、屈折して
……。
中空に浮かぶ雨の幻影けぶり
不意にみどりの閃光が目蓋の堰を切る
通行人の意識の上に落下する巨大なクレーンを
かたつむりも夢をみるか、雨去りて、
……。
親しみと
懐かしさが
無花果の葉の上で
ころころ、ころがる
水の影は、歓喜をまとう
朝の鮮麗


*家にいても(冷房の)胸のあたりに汗をかいている。これは病気だろうか?
来週の火曜日に定期的な検診があるので、そのときにせんせいに聴いてみたい。

現代詩「とろとろの吐露」

2010-07-23 | 現代詩作品
とろとろの吐露




川幅は見えないが
人と
人の、間にも
深く浅く流れている川
そのめぐりで
孤立するひと
孤立に悩むひと
孤立を観念するひと
それが川のせいか、どうか
こちらからは
暗くて見えないから
耳を澄まして
川音を聞く
小さな波立ちにさえ
心を痛める、やさしいひとは
そちらの世界に足を踏み入れているひとだ
きみはそれを否定するが
流れるものは
変わりやすくて
一夜にして世界が
一転する明暗
分かったことを言うなと
あの日の、きみは強気だったが、
強すぎて折れやすい
柿の木の枝のように
人と
人の、間にこそ
殺したいと思う
奴ばかりのあの頃は
泡沫の闇がとろとろ流れる
泥の川もあった

仕掛けられた網の目を
逃れるのは魚ばかりではない



*毎日暑い日が続いていて、そろそろ暑さから抜け出す頃かなと思いながら、
パソコンを叩いています。朝のうちは涼しいので今朝は無理して4時に起きました。