ちょうど一年前、高3生・M君からメールが届きました。
「今日、京都大学を不合格になりました。某公立大学はおそらく合格していると思いますが、浪人して京都大学を目指したいと思います。英語の指導と浪人生活全般についてのアドバイスを一年間お願いできませんか」
会って話してみると、礼儀正しく穏やかで素直なM君でしたが、その芯には、目標に向かって突き進む強い信念を感じました。通塾には電車で1時間以上かかるものの、それでも構わないとのことで、一年後の捲土重来を期して、浪人生活が始まりました。
私立はもちろんのこと、国公立も京都大学以外は眼中にないので、授業は京都大学で求められる以下の3点にフォーカスしました。
①英文解釈力を極限まで高める
②和訳で要求される日本語表現力
③簡素ながらも洗練された英作文力
入塾時点で既に英検準1級には合格していましたが、文法力でいくつか盲点があったのでそこを修正し、常に文法に依拠して英文構造をとらえ、文脈の中で英文を解釈していくことを意識づけていきました。英作文は月に2題ほどのペースで課して、添削をしました。
そんな風にして、浪人生活を送る彼との授業は淡々と回数を重ねていきました。
彼との授業は午後3時からでしたが、初冬のある日、傾きかけた冬の西日が差し込む教場での一コマを今でも覚えています。
「この英文和訳のポイントは、何と言っても連鎖関係代名詞節だね。そして、diversity(多様性)を論じる英文はよく出題される。形容詞 diverse とその反意語 uniform、そしてそれぞれの同義語も以下のようにまとめて覚えておこう」
diverse ≒ heterogeneous
uniform ≒ homogeneous
迎えた二度目の受験戦線。予備校のHPにアップされた京都大学の二次試験の問題を見て、私は驚きを隠せませんでした。英語で言うところの be taken aback。
大問2は、heterogeneous と homogeneous がキーワード的に使われている長文。しかも、和訳問題の一つは連鎖関係代名詞節が最大ポイントとなっている出題でした。
「あー、あの時、授業で言及しておいて良かった」
問題を見ながら、私は武者震いと共に、頬に伝わる涙に気づきました。
そして昨日、合格発表がありました。彼からの第一声は「京大、受かってました・・・」。電話の向こうで泣き崩れる彼の姿を、手に取るように感じることができました。
大学受験で第一志望に合格するには、知力・体力と共に、やはりある程度の時の運が必要です。でも、弛まない努力を普段から行っていなければ、運を味方につけることはできません。どんなに辛い時もほぼ独りで勉強し、己と向き合ってきた彼の真摯な姿勢があったからこそ、英語でこんなデジャブ―な長文に出会えたのでしょう。
二次試験のちょうど一週間前に行われた京都マラソンに、私は出場しました。フルマラソンで最もきついラスト5kmに、京都マラソンでは上り坂があります。ランナーたちには「ラスボス坂」として恐れられている今出川通ですが、通り沿いには京都大学あります。私はそのラスボス坂を軽快に上って下りました。そして、京都大学前を通過した時、「今日は俺が頑張って走って自己ベストを出す!来週はM君の番だぞ!」と、ランナーズハイと相まって、涙しながら走りました。
翌日、学問の神様・菅原道真公を祀る北野天満宮で、M君を始め塾生全員の合格祈願をしてまいりました。御礼参りのために、来年も京都マラソンに出場しなければなりません(笑)。そして、沿道で私の走りを応援してくれるM君の姿が今から想像できます。
北野天満宮(2024年2月19日撮影)