曇り。
日の丸が初めてしかも真ん中に上がった。
オリンピックの表彰でかつて何度も耳にした君が代がこんなに誇らしげに聞こえてきたことはない。
このオリンピックで勝ちきれない日本にようやくメダルが、それも金メダルがもたらされたことで、
私の中のナショナリズムが刺激されたということはあるのだろうがそれだけではなく、荒川静香の金メダルは本当に私たちを元気付けてくれたと思う。
なにか誇らしげな気持ちになったというか、同朋にこんなすばらしいアスリートがいたのかという尊敬の思い。
ショートプログラムで僅差の3位。上にいるイリーナ・スルツカヤもサーシャ・コーエンも実力をそのまま発揮すればこの順位は動かないのではないか。
ショートプログラムが終わった段階で私は漠然とそう思っていた。
フィギア・スケートというのはあらゆる競技の中でもとりわけ集中力とか精神力といったメンタルが占める割合の大きな競技だと思う。
例えば、野球やサッカーだったらチーム・スポーツということがある。
個人が失敗しても誰かがカヴァーできればいいし、或いは9回とか90分の間で挽回のチャンスもある。
それから対戦相手という常に向き合う対象がある。
長い試合の中では研ぎ澄まされた緊張というのが常に持続しているというわけでもないだろう。
でも、フィギアはたった数分間という凝縮された時間に注目を一身に浴びて
一度でも失敗したらもう終わりという緊張感の中で演技をしなければいけない。
たった一人で。誰かと面と向かって競うわけでもない。
しかも採点競技であるから、審判や会場の観客をも味方につける必要がある。
見えない相手にたった一人で向き合うという過酷さがある。
あの大舞台で最高の力を出せるには技術やその日のコンディションもさることながら雰囲気に動じない精神力も必要で、
それらすべてをぴたっと一箇所に持ってくるというその難しさにおいては
フィギア・スケートというのは最も厳しい競技かもしれない。
とりわけオリンピックというのは4年に一度しかないわけで、
4年に一度のたった数分間に自分のもてる最高の力を出し切ってなおかつそれが相手を上回らなくては頂点に立つことが出来ない。
スポットライトを浴びた華やかな演技の裏には、そのわずか数分を最高の状態で迎えるためのこの4年間の
(荒川の場合は長野以来だから8年間)並大抵ではない努力や挫折、苦悩があったであろうと思うし、
そのことに思いを致せばやはり自然に「ああ良かったな」と思う。そしてその努力に素直に敬意を表したいと思うのだ。
それは、スルツカヤやコーエンやメダルを取れなかった村主や安藤にも等しく感じるものである。
スポーツの持つ本質的な美しさに酔いしれたひと時であった。
こころからおめでとう、そしてありがとう。