ここではないどこかへ -Anywhere But Here-

音楽・本・映画・サッカーなど興味の趣くままに書いていきます。

Here I Am/Dionne Warwick

2008-03-15 21:46:06 | 音楽
Dionne Warwickシリーズの第三弾は、彼女の5枚目のアルバム『Here I Am』。
Burt Bacharach-Hal Davidコンビの落ち着いたプロダクションが堪能できるいいアルバムだと思う。
このアルバムから大ヒット曲は生まれていないがタイトル曲の「Here I Am」や「Looking With My Eyes」のような、
バカラックらしい凝った作品もあって聴き所は多い。

彼女の歌い手としての特徴や力量をきちんと把握していたBacharach-Davidコンビは彼女への楽曲提供を通して、
さまざまな音楽的な冒険や創意を重ねてきたのではないか。
歌いこなすことのできる才能にめぐり合えたことがこの作曲家チームにとっても幸運だったと思う。

ともすると作家の個性に埋没してシンガーとしてのキャラクターが際立ってこないところが、
今までDionne Warwickをあまり聴いてこなかったことのひとつの理由だったような気がするが、
リズムの変化や不思議な転調、詞の展開など、
彼女でなければここまでスムースに歌いこなすことができなかったであろう楽曲が多いことに気がつかされる。
そういう意味でも非常に興味深く聴くことのできる一枚だと思うのだ。

魔法の領域/杉真理

2008-02-26 06:10:50 | 音楽
杉真理もデビュー30周年だそうである。この人も本当に変わらない。
リッケンバッカーを抱えて佇むインナーの写真を見るとロック少年がそのまま30年間やってきましたという感じだ。

デビュー30周年ということで本作は古くからの気のおけない仲間たちと制作されている。
1曲目の「Make Love Not War」から、ビートとメロディーのシャワーの杉真理らしさ全開。
おなじみピカデリー・サーカスの面々や竹内まりや、伊藤銀次、村田和人といったゲストとのコラボレーションも楽しい。

杉真理の音楽に出会ってから25年ぐらいは経っていると思うが、そのテイストはほとんどぶれていないと思う。
そんな変わらない彼の音楽の本質は「優しさ」と「勇気」ではないか。
包み込んでくれるような優しさを持って背中を後押ししてくれる。
そして「明日も頑張ろうよ」という勇気を与えてくれるのが彼の音楽だ。
それも理屈っぽく声高に呼びかけるというスタイルではなくて前向きでポップなメロディと強いビートで
カラッとした世界へと一気に連れて行ってくれるのだ。

50'sロカビリー調の「シャローナに片想い」や堂島孝平のヴォーカルをフィーチャーした
「Good News」といったまさしくゴキゲンなナンバーが変わらない魅力だ。
盟友竹内まりやが書いた昔からの仲間たちの賛歌「僕らの日々」や「Chapel in the sun」は
これまでの人生を振り返りつつ、これからをポジティブに捉えたこのアルバムの性格をよく現した曲だ。

伊藤銀次とボサノヴァタッチでちょっとおどけた感じの「マイルドでいこう」や
村田和人とアコースティックのツインギターでファンタスティックなハーモニーを奏でる
「君にしてあげられること」などは意欲的でヴァラエティに富んでいる。
そして白眉は「Lennon=McCartney」。杉真理の変わらないビートルズへのオマージュ。この人は本当に永遠のマージービート少年だ。

久しぶりのアルバムだが、決して奇を衒っているわけではない。それだけに懐かしい場所に帰ってきたようなほっとするアルバムだと思う。

Burt Bacharachコンサート

2008-02-21 00:28:41 | 音楽
随分と久しぶりに相模大野の駅に降り立った。
グリーンホール相模大野には以前にも何度かコンサートに出かけたことがある。
一番最近ではもう3,4年前になると思うが矢野顕子のライブに行った覚えがある。
そういえば相模大野の駅も随分ときれいになっている。

今夜ここで行われるのはバート・バカラックの11年ぶりの来日公演。
御歳80歳。前回を見逃した私としてはまさに奇跡といっていい。
バカラックをこの目で見ることができるとは・・・。
しかも東京国際フォーラムで2公演、あとは大阪フェスティバルホールで1公演なのでなんで残りのひとつが相模大野?
という感じだが、都心からも少し遠いので穴場だったのか、11列目のど真ん中というすばらしい席が取れた。

東京ニューシティ管弦楽団を従えてのオーケストラ公演は本当に涙なしには見られなかった。
1曲目「What The World Needs Is love」の出だしでもう鳥肌が立った。
思えば、Jackie DeShanonの歌でこの曲を初めて聴いたのがバカラックとの出会いだったと思う。
あれから25年以上の時を経て目の前にいるのは、稀代の作曲家バカラックその人である。そのことが信じられない思いだ。

もともとハンサムで粋な伊達男という感じだったが、その佇まいは80歳を迎えてなお健在である。
とにかくかっこいい。同じ男としてこんな歳の取り方をしたいものだと思う。
さすがに歩き方が少しぎこちないし、ピアノのタッチもそこはかとない。
それでもリズム感覚も衰えていないし、ピアノを弾きながら中腰になってオーケストラを指揮したりと、音楽家としての衰えはほとんど感じさせない。
名曲「Close To You」ではあまりの美しさに思わず涙がこぼれそうになった。掛け値なしの感動とはこのことだ。
美しくて切ない。
「The Look Of Love」で自らのヴォーカルを披露。ちょっと苦しそうな感じがしたが、枯れた味わいがまたいい。

ゲストシンガー、オランダの女性歌手Trainchaによる伸びやかな歌声や、自身が手がけた映画音楽メドレーを披露したりと趣向を凝らしており、
メロディメイカー振りを大いに堪能して盛り上がった。
途中、「昔こんな日本の歌を作ったこともあるんだよ」と「Me Japanese Boy I Love You」を一節歌ったり・・・。

アンコールで再び「What The World Needs Now is love」。
最後は「Rain Drops Keep Fallin On My Head」を会場中で歌って最後は盛大な拍手とスタンディングオベイション。
年齢を感じさせないプロのパフォーマンス。あっという間の至福の2時間だった。
東京ニューシティ管弦楽団もさりげないながらもバンドとの息がよく合っていたと思う。

バカラックという人はロックという箱庭のようなフィールドから聴き始めた私のようなキャリアの人間にとっては分水嶺のような人である。
バカラックという高い山に登ってみるとその先にはジャズ、ボサノヴァ、イージーリスニング・・・音楽の大海が広がっている。
バカラックという人はそこから先に行くかどうかを試されるような音楽家だということだと思う。
こんな天才と同じ時代を生きて、わずかの時間でも同じ空間にいられたことを幸せに思う。

Setlist

An Evening With Burt Bacharach and The Tokyo Newcity Orchestra
2008.2.20 Green Hall Sagami-Ohno

Singer:Donna Taylor,John Pagano Josie James
Bass:David Coy Woodwinds:Dennis Wilson
Keyboards:Rob Shrock Drums:David Crigger Trumpet/Flugelhorn:Tom Ehlen
Guest Vocalist:Traincha
and Tokyo Newcity Orchestra

1.What The World Needs Now is love
 
(1963~1968 Medley)
2.Don't Make Me Over
3.Walk On By
4.This Guy's ln Love With you
5.I Say A Little Prayer
6.Trains and Boats and Planes 
7.Wishin’& Hopin’
8.(There's)Always Something There To Remind Me

(1962~1970 Medley)
9.One Less Bell To Answer 
10.I'll Never Fall In Love Again
11.Only Love Can Break A Heart 
12.Do You Know The Way To San Jose

13.Anyone Who Had A Heart
14.Heart Light 15.God Give Me Strength
15.God Give Me Strength

(Beginning Medley)
16.Magic Moments 
17.Story of My Life
18.The Blob 
19.Tower Of Strength

20.Go Ask Shakespeare 
21.ln Our Time
22.(They Long To Be)Close To You
23.For The Children

(featuring Traincha)
24.Falling Out of Love
25.Who'll Speak For Love

(Sound Track Medley)
26.The Look of Love 
27.Arthur's Theme
28.What's New Pussy Cat 
29.The World ls A Circle
30.April fools 
31.Rain Drops Keep Fallin On My Head
32.The Man Who Shot Liberty Velance 
33.Making Love
34.Wives&Lovers 
35.Alfie
36.A House ls Not A Home

37.That's What Friends Are For

(encore)
38.Any Day Now
39.What The World Needs Now is love
40.Rain Drops Keep Fallin On My Head  

The Sensitive Sound Of Dionne Warwick

2008-01-24 06:15:42 | 音楽
"Dionne Warwickを聴こうシリーズ"第2弾(笑)。作品はデビュー作から飛んで4作品目の『The Sensitive Sound Of Dionne Warwick』。
とにかく「センシティブ」なのがポイントなのだろう。

この頃になってくるとバカラックも彼女の力量がおおよそ分かってきたのか、
より彼女の個性を生かしたトータルなアルバム作りを志向しているようである。
したがって、アルバム・オリエンテッドな落ち着いた作品に仕上がっている。
シングル・ヒットの寄せ集めではないので、ヒット曲はないものの、
Bacharach-Davidの曲もアレンジも非常に凝ったものになっている。
徐々に彼らの作風や制作スタンスが明確になってきている点で聴き所の多いアルバムである。

「Unchained Melody」や「You Can Have Him」などのカヴァー曲も何曲か収められているが、圧倒的にBacharach-David作品の方がいい。
より彼女の個性を把握しているからだろうし、アレンジも自家薬籠の物という感じだ。
「Wives&Lovers」をはじめ「Don't Say I Didn't Tell You So」などアルバムの後半からはバカラック・サウンドの真髄を楽しむことができる。

Presenting Dionne Warwick

2008-01-20 10:45:57 | 音楽
2月にBurt Bacharachのコンサートに行く。
数年前の前回の来日公演を見逃しており、もう見る機会はないだろうと思っていたが、何と再来日が決定。
今年で齢80歳を迎えるバカラックのコンサートが見られるとは思いもよらなかった。
東京国際フォーラムのチケットは取れなかったが、首尾よく相模大野公演のチケットが取れた。
そんなわけで久しぶりにバカラックの音楽をまとめて聴いて予習をしようと思い立った。

Burt Bacharach。言うまでもなくアメリカを代表する作曲家と言っていい。
異能と言ってもいいほどの独特の作曲技法を持ちながら、
それでもCarpentersを始めとしてDusty SpringfieldやTom Jonesなど数々のポピュラー・ミュージックを世に送り出してきた人である。
独特の個性を持ちながら稀代のメロディーメーカーという、相反する才能を持った稀有な存在。

そんなバカラックが作曲家として成功したのが、作詞家Hal Davidと組んで手がけたDionne Warwickの数々の作品だった。
バカラックと言えば何をおいてももっとも成功した彼女の作品群である。
しかし、高校時代に初めてバカラック作品に接した頃からDionne Warwickは避けてきた。
R&Bやゴスペルを聞き始めたばかりの多感な高校生にとっては、やはりアレサ・フランクリンであり、マーヴィン・ゲイだった。
ソフィスティケートされていてソウルフルなパンチを感じない彼女に少ない小遣いを割く余裕はなかった。
しかし、40を超えてくるとそういう拘りというか、衒いみたいなものがだんだんとどうでも良くなってきている。
Dionne WarwickにはDionne Warwickの良さというのがあって、もうそれを受け入れるられるだけの歳廻りにいるということだと思う。
そんなわけで、バカラックの再来日公演は改めて彼女の音楽に接するいい機会となった。

ちょうど彼女のキャリアの初期の作品群がCollecters' Choiceからリ・イシューされているので今年はいっちょこれを聴き込んでみようと思う。
まずは、デビュー・アルバムの『Presenting Dionne Warwick』。

デビュー曲の「Don't Make Me Over」をはじめ、バカラック・スタンダードの一曲「Make It Easy On Your Self」などが入っているが、
まだBacharach-Davidキャリアの初期でもあり、彼ら独特のスタイルは薄い。
アルバムをトータルでプロデュースするという時代でもなかったので、曲調もさまざま。
彼女の歌もまだ荒削りで、正直に言ってそれほどのうまさはないと思う。
ただ、アレンジにその片鱗がうかがえる「Unlucky」やバカッラクらしいコミカルさが楽しい「I Smiled Yesterdy」など聴きどころも多い。



Denim/竹内まりや

2008-01-17 06:28:30 | 音楽
このアルバムがリリースされたのは昨年の5月だった。
週末にでも聴こうと思っていたら、思いもかけず父が急逝してしまった。
それから聴く機会を完全に逸してしまった。
竹内まりやという佇まいは、肉親を亡くしたばかりの私にとってまぶしすぎる存在だった。
正直なところ、夫唱婦随で穏やかな生活をおくりながら時折リリースされるポジティブな彼女の歌は当時は却って聴くのが辛い心境だった。
聴きたくなったらそのうち封を切るだろう。そのときが来るまで無理をせずにそのまま置いておこうと思った。

音楽というのは精神的にしんどいときに聴けるものではない。そのことを分かってはいたつもりだったが、実感した半年間だった。
音楽にはそんなに大きな力があるわけではない。本当に辛いときに人は音楽によって救われる訳ではない。
音楽によって救われていると思うのは、音楽がカタルシスになっているに過ぎないということなのだと思う。

機会を逸したままずっとラックに置かれていたこのアルバムを、もうそろそろいいかな、
ここを通り過ぎないと今年は新しい音楽を聴けないなあ、と思ってようやく開封した。半年以上遅れての新譜である。

結論から言うと音楽を聴けるような心境になるまで待っていたことは正解だったような気がする。
あのときならば受け止めきれなかったであろう言葉の一つひとつ、楽曲の一つひとつがすっと染み込んでくる。
少しずつ気持ちに整理がついて、前向きな気持ちが持てるようになってきて初めて彼女の歌は腑に落ちるのだと思う。

二度度会えない人への読まれない手紙について歌った「返信」などは今だから聴ける。
竹内まりやの旧友、杉真理のペンになる「Never Cry Butterfly」は杉真理らしいブリティッシュ・テイストあふれるゴスペル。
これには勇気付けられた。
この曲は伊豆田洋之が作曲に加わっており、バックのメンバーも彼女とは旧知のPicadilly Circusが務めている。

このアルバムではこのほかにも、同じく昔から彼女と一緒にやってきたセンチメンタル・シティ・ロマンスとのコラボレーションなど
彼女のこれまでのキャリアを彩るように山下達郎セッション以外のメンバーとも一緒にやっている。
個人的には、今までの彼女の作品は達郎の色が強くて若干オーバープロデュース気味な気がしないでもなかったので、
センチとやったり杉真理に任せたりというのは、彼女の「歌」を生かすという意味ではいいプロダクションだと思う。

そして、「人生の扉」。アルバムが出た前後でラジオのプロモーションに相当数出ていた彼女だが、
そうした番組も全く聴いていない私としてはこの曲を今回初めて聴いた。
まさか今この局面でこの曲に出会うとは思わなかった。
五十代を迎えた彼女がこれまでの来し方を慈しみながら、これからに向ける柔らかなまなざし。
声高に主張するのではなく静かに勇気付けてくれる、彼女らしい人生賛歌だと思う。
そしてこれは演歌ではなくてロックで育った私たちの世代以上の人に向けられた応援歌のようでもある。
ああ、ここでこの曲に出会えたかと、本当に思う。静かな感慨がある。

彼女は歌う。
デニムの色が色褪せていくように、人生は風合いを増しながらその味わいを生んでいくのだと。

思い返せば70年代末、彼女がアイドルの代わりをさせられていた頃からするともう30年近く彼女の歌を聴いていると思うが
このアルバムは、まぎれもなく今の時点での竹内まりやのマスターピースだと思う。

竹内まりやの歌は自らの生を選び取っていく人の背中をほんの少し押してくれる。
歌とは音楽とはそうしたものである。

『I say it's sad to get weak
You say it's hard to get older
And they say that life has no meaning
But I still believe it's worth living』




今年買ったレコード(2007)

2007-12-31 17:31:43 | 音楽
Mignonne/大貫妙子
Romantique/大貫妙子
Showdown/村田和人
Special Delivery
Living All Alone + Prime Of My Life/Phyllis Hyman
seasons colurs 春夏撰曲集/松任谷由実
Aventure/大貫妙子
Shades Of Blue + Family Reunion/Lou Rawls
On Love/David T.Walker
ブラジル/土岐英史とサンバ・フレンズ
ギター・ワークショップVOL.1/憲司、香津美、勝敏&潤史
FREE SOUL FLIGHT TO BRAZIL
DOWN TOWN/エポ
MY CREW/村田和人
Who's Foolin' Who?/Frankie Bleu
All Dressed Up/David Roberts
紅雀/松任谷由実
David T. Walker
seasons colurs 秋冬撰曲集/松任谷由実
Odyssey
Body Heart/Quincy Jones
Press On/David T.Walker

今年はここ15年あまりの間でもっともレコードを買わなかった年だったと思う。
22枚。年末に数枚買ったのでようやく20枚に達したという低調さだった。
今年は音楽を聴ける心境になかったというのが正直なところだった。
音楽というのはそんなに力はない。改めてそのことを実感させられた。
圧倒的な苦しみや悲しみの前では音楽や映画といったものはやはり無力だということだ。
そのことを再認識した上で音楽と向き合ってみたいと思う。

今年は日本人の再発リ・イシューものを比較的よく買ったほうだと思う。
大貫妙子や村田和人の初期の作品がようやくCDでそろってきた。
1、2枚買いそびれているので来年の宿題にしたい。
年末はDavid T.Walkerのライブに行ったこともあって彼がらみのアルバムを少し買った。
少しずつ意欲が出てきた感じもあるので来年は原点に立ち返って興味の趣くままに聴いていこうと思う。
また音楽との新しい出会いがあればいいなあ、と思う。





Press On/David T.Walker

2007-12-31 17:10:51 | 音楽
David T.WalkerのOde時代の2枚目にあたるのがこの作品。OdeというとCarole Kingだが、このアルバムにはCityのCharles Larkeyが参加しているし、
Carole Kingの「Brother Brother」がカヴァーされていたりして、Carole Kingの初期に通じるテイストがある。
もっともCarole Kingの初期の作品にはDavid T.が参加していたりするので同じ匂いがするのはもっともな話。

オリジナルの「Press On」は彼自身のルーツを感じるブルース・ブラックなグルーヴ感がある。
うって変わってThom Bellの「Did'nt I Blow Your Mind」、Stievie Wonderの「Superstition」など当時のソウルの名曲たちを自在に演奏している。
シルキー・タッチなとろけるようなギターと骨太なリズムトラックが見事に溶け合っている。

Ode時代の3作品の中ではもっとも完成度の高い一枚と言えるだろう。
楽曲への思いが込められた彼の演奏は聴く者を引き込む崇高さがある。理屈抜きに楽しめる。
Lennon-McCartneyの「With A Little Help From My Friends」のイントロのギターは鳥肌もの。
この曲がこうなるかという解釈がすばらしい。このアルバム中の白眉でもある。

Body Heart/Quincy Jones

2007-12-28 18:10:56 | 音楽
74年の作品。時代を考えるとかなりコンテンポラリーな感じの音作り。
メロウなグルーヴの根幹を成すのはやはりLeon Wareの参加が大きい。
Quincy Jonesはそれほど数多く聴いたわけではないが、このアルバムが後の彼の音作りに一定の方向性を与えたことは想像できる。
ポップだけど非常にクール。ソウル・オリエンテッドで非常に知的な味わいがある。
Herbie Hancock、Bob James、Dave Grusin、Richrd Tee、Eric Galeといった多彩なメンバーがこのえもいわれぬグルーヴと緊張感をもたらしている。
先日観たDavid T.Walkerもこのメンバーの中で渡り合っている。
Phil UpchurchやWah Wah Watsonも参加しており、ギタリストの競演も大きな聴き所だと思う。
時代の風雪に耐えられる音楽というのは、こういうぎりぎりのせめぎ合いを経てきた中からうまれてくるのだと思う。


David T. Walkerライブ(2007.12.19ブルーノート東京)

2007-12-21 23:29:38 | 音楽
ブルーノート東京にDavid T.Walkerのライブを見に行った。
ブルーノートに行くのは実に15年ぶり。John Simonのライブを見に行って以来だ。
見たいアーティストは結構いたのだけど、生来の出不精から足が遠のいていた。
その間に店舗は移転しており、SOHOの倉庫を思わせるような広々とした地下のスペースに漂う雰囲気は大人のジャズクラブそのもの。
以前の狭く窮屈なライブハウスの面影がなくなっていて驚いた。
しかももう10年近くも前に移転しており、そんなことも行くまで知らなかったことがちょっと悔やまれた。

David T.この人のギターは軽やかに主張している。
Jackson Fiveから井上湯水までさまざまなアーティストのバックでギターを弾いてきた職人の音は、決してフロント・アーティストの邪魔をしない。
それでいて一聴するだけで彼のものとわかる確固としたスタイル。
ヴォーカルの魅力を引き出しながら決してエゴイスティックにならないように
それでいてさりげなく自らを主張する。
その気張らない、嫌味のないスタイルが幾多のミュージシャンたちと渡り合いながら長年に渡って第一線で活躍できた大きな理由ではないか。
そんな彼のステージは、肩肘張らずに音楽に向き合っている姿が窺える楽しいライブだった。

スタジオミュージシャンはアーティストや楽曲を選べない。
Davidも自分のスタイルや好みには合わない曲を弾かなければならなかったことも一度や二度じゃないだろう。
好き嫌いを主張したり、あれやこれやと薀蓄を垂れているよりもまず演奏すること。
それによって徐々に楽曲に対するこだわりが取れて、音楽を純粋に音楽として楽しむ。
そんな思いが伝わってくるような佇まいなのだ。

彼は座って弾き始める。徐々にグルーヴに乗ってきてやがて立ち上がる。
息の合ったミュージシャンも乗ってくる。そしてその高揚感は徐々にオーディエンスに伝播していく。
リードしたり煽ったりするわけではない。そこにいる誰もがごく自然に音楽を楽しみ、自然に高揚していく。

今年は精神的にはしんどい年だった。音楽を聴くこと自体が減っていて、生の演奏に触れる機会からもずいぶんと遠ざかっていた。
それだけに久しぶりに出かけたライブがDavid T.Walkerのようなハートウォーミングなライブで良かったと思う。
すばらしいミュージシャンたちから滋養をたっぷりと注いでもらえたような気がする。

personnel

David T. Walker (g)
Clarence McDonald (key, p)
Jerry Peters (key)
Byron Miller (b)
Leon Ndugu Chancler (ds)

setlist

1. Q.C.
2. The Real T.
3. Plumb Happy
4. Never Can Say Goodbye
5. Going Up
6. Repcipe
7. Save Your Love For Me
8. Ahimsa
9. Lovin’ You
10. An-Noor
11. The Sidewalk Today
12. What’s Going On
13. Soul Food Cafe´
14. Walk On By