ここではないどこかへ -Anywhere But Here-

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輪違屋糸里/浅田次郎

2006-01-23 22:56:43 | 
晴れ。

まことの武士になりたかった多摩の百姓たち。彼らが武士たらんとすればするほど蠱惑されていく女たち。
そして彼らが剣のみで依って立つ世界に畏れていることを、女の強さと引き換えに描ききった、これは女たちの物語である。

浅田次郎には新選組を描いたベストセラー「壬生義士伝」がある。
吉村貫一郎という、今までの新選組では決してスポットのあたってこなかった男を、この男のモノローグを通して描いた傑作である。
「壬生義士伝」では題材としては既に語りつくされた感のある新選組を取り上げる、その視点の新鮮さに驚いたが、
今度は近藤、土方らが新見錦を陥れ、芹沢鴨を切るという、
新選組黎明期のまさに語りつくされた騒動を女たちの側から描いた異色の作品である。

芹沢に無礼討ちにあった島原の芸妓音羽太夫、
土方を密かに想う天神の糸里、同じく隊士の平山五郎を恋い慕う吉栄、
芹沢と情を通じていた大店菱屋の妾お梅、新選組隊士たちの屯所八木家のおかみおまさ、そして前川家のお勝。
女たちはそれぞれの立場で新選組の運命の渦に巻き込まれていく。

男たちの抗えない生き方と女たちの業の深さと強さ。
人生とは本当にままならない、どうしようもない、だからいとおしいものなのかもしれない。