ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

回樹

2023年10月22日 | 本を読んだで
 斜線堂有紀                  早川書房

 SFを読む醍醐味に、ようこんなこと考えたな。という話を読む楽しみがある。ちょっと普通の人じゃ思いつかん奇妙な話。この人の頭はどんな頭しとんねやろ。この本の著者斜線堂有紀もそのたぐいのご仁であろう。そんな話が6編入った短編集だ。
「回樹」出色の百合SF。湿原にバカでかいもんが出現。回樹という植物らしい。そいつは人の遺体をとりこむ。律は恋人初露の遺体を遺族から盗んで回樹のところに持ってきた。律と初露はほんとに愛し合ってたのか。
「骨刻」生きているうちに身体に傷をつけず骨に刻印する技術ができた。レントゲンでしか見えないけど、みんな、どんな文字を自分の骨に刻むか。
「BTTF葬送」映画には魂がある。名作映画は死んでその魂をつぎの映画に継承させる。歴史的な名作映画が死ななきゃ次の名作ができない。これから「ネバ―・エンディング・ストーリイ」のお弔いにでなきゃ。
「不滅」死んでも死体は腐らない。化学的な変化はしない。死体はそのままの状態でいつまでも残る。人間の死体は燃えない溶けない腐らない。そのまんま。限界がある。葬送船で宇宙に飛ばさなしゃあない。
「奈辺」黒人奴隷制度があったころのアメリカはニューヨークの酒場。白人オンリーの酒場だが主人が黒人を店に入れる。黒だ白だと騒いでいたら緑が出現。白、黒、緑、三色入り乱れて大さわぎ。
「回祭」「回樹」の続編。回樹が遺体を取りこんで時間が経った。多くの遺体が回樹の中に。遺族たちにとって回樹は信仰の対象。年に一度回樹の前で祭がある。善男善女の中に古洞蓮華が。彼女は雇い主の少女洞城亜麻音のためにここに来た。蓮華と亜麻音はいかなる関係か。
 この短編集を通底しているのは死と愛と永遠。生は限りがある。いつか終わる。死は限りがない。死はいつまでたっても死だ。