ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

ザ・ホエール

2023年10月16日 | 映画みたで

監督 ダーレン・アロノフスキー
出演 ブレンダン・フレイザー、ホン・チャウ、セイディー・シンク、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン

 人を好きになるのはそんなにいけないことなのだろうか。大学の文学の先生のチャーリーは病的な肥満で家から出られない。死期も近い。ZOOMでエッセイの書き方などを生徒たちに教えて生計を立てている。チャーリーは孤独だ。訪ねて来るのは友人の看護師リズと怪しげな新興宗教の宣教師トーマスとピザ屋の配達人だけ。
 チャーリーは昔はまともな体形で妻も娘もいた。なぜこうなったのか。人を好きになったからだ。彼の男子生徒のアランを好きになって、妻と娘を捨てて二人で暮らした。アランはトーマスの教団の信者だった。ゲイであることなどで思い悩みアランは自殺する。それからチャーリーは過食になる。
 そんなチャーリーに疎遠になった娘が会いにやってきた。
 この映画に幸せな人はだれも出てこない。映画の舞台は常に室内で、うす暗い照明で登場人物の顔はよく判らない。それでも何を考えているかは観客には判る。不幸な人たちを、どうしようもない、という濃いスープでグツグツ煮込んだような映画である。
 作中、タイトルから判るようにメルビルの「白鯨」が重要なモチーフとなっている。チャーリーの中には「倒したい」との意志を持つエイハブ船長と「倒すべき」モビー・ディックが同居しているのだろう。