ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

生きる LIVING

2023年12月11日 | 映画みたで

監督 オリバー・ハーマナス
出演 ビル・ナイ、エイミー・ルー・ウッド、アレックス・シャープ

 オリジナルはおおかた人がご存じの黒沢明の名作「生きる」黒沢の代表作は「七人の侍」だと小生は思っているが、志村喬の代表的主演作は「生きる」ではないだろうか。その名作をリメイクしたのが本作。「椿三十郎」を森田芳光+織田裕二でリメイクして大失敗した危惧を感じたが、脚本を書いたのがカズオ・イシグロだというので観たわけ。
 ストーリーはオリジナルがよく知られた映画なのでご存じのムキも多いだろう。無気力な市役所の市民課課長が、胃癌の診断を受け余命が少ないことを医者からいわれる。先がないことが判った主人公の課長は、がぜんやる気をだして、長年、地域住民から要請されていた空き地に公園を作る仕事を熱心に取り組む。
 映画にとって脚本が大切なことがよく判った。黒沢が技巧の限りをつくし、志村が演技力を十全に発揮して、感動的な映画となったオリジナルではあるが、黒沢の技巧が目につきすぎてあざといという知人がいる。小生もそれには賛成だが許容範囲である。
 イシグロの脚本はオリジナルのポイントを押さえつつ、実にスムースにストーリイを駆動させていく。黒沢のオリジナルを工芸品に例えると、作品の外部にはみ出たバリにグラインダをかけて滑らかにしたようだ。
 志村の渡邊課長が公園づくりに取り組むきっかけとなったのは、おもちゃ工場に転職した元部下の若い小田切とよが、うさぎのおもちゃを出して、「こんなものでも作ってると楽しいわ。課長さんも何か作ったら」といわれたことだった。
 本作のビル・ナイのウィリアムズ課長も元部下の若いマーガレット・ハリスと遊ぶが、マーガレットはウィリアムズに何もいわない。うさぎのおもちゃを手にするがゲームで取ったモノだ。
 オリジナルは渡邊課長が公園づくりに熱心に取り組む様子が描かれていた。ヤクザの邪魔が入ったりして苦労する。本作は雨の日に空き地を見に行っただけで、簡単にすませていた。
 後半の重要なシーンである、できあがった公園で課長が満足そうな表情でブランコに乗るシーンは両作ともあった。
 なんか、二つの映画を比べるレビューになってしまったが、オリジナルの名作なのはもちろんであるが、このオリバー・ハーマナス+カズオ・イシグロ+ビル・ナイも、黒沢明+黒沢明/橋本忍/小國英雄+志村喬に負けない傑作である。