ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

Bジュース

2020年06月09日 | 作品を書いたで
 武兵県葦内市。たぶん月元一のセレブな街だろう。温暖な西月元の破戸内海気候で雨が少なく、冬に雪が降ることはめったにない。港町仏床の東隣で、丙寅園球場がある胡祭市の西隣である。
 大都会中革と仏床に挟まれた都会地でありながら、清冽な自然に恵まれている。25年前の革床大震災では葦内も大きな被害を受けたが、それは海沿いの南の方に被害は集中していた。私が念願かなって屋敷を建てた七頂陣地区は、葦内市の北にあり震災の被害はほとんどなかった。
 葦内市七頂陣地区。この国、月元で最も高級な住宅地である。八乙連山の麓に位置し軽く南に傾斜している土地だ。最寄りの駅、MR葦内や革急葦内川とは遠いが、七頂陣に住むような人は自家用車を持っているから問題ない。私も、このたびの引っ越しに際して車を買い替えた。国産のタカユ・ミレニアムから雄国製のジェームスジョイス・スーパーゴーストに乗り換えた。
 運び込まれた荷物の整理はあらから終わった。風呂に入る。ゆったりとミズナラの木の湯船につかって外を見る。高台にあるここからは、葦内市内が一望できる。視界の南の端は海だ。破戸内海が見える。
 いい湯だった。湯上りにBジュースを飲もう。この七頂陣地区には通常の水道とは別にBジュースが各戸に配送されている。蛇口をひねると、いつでも好きな時に好きなだけBジュースが飲める。新鮮なBジュースが好きなだけ飲めるというのも私がここに屋敷を新築した理由の一つだ。
 水道の蛇口の横に設置されているBジュースの蛇口をひねる。少し出て、すぐ止まった。
「おおい。Bジュースが出んぞ」女房にどなった。
「なんでも、Bジュース貯血池が空っぽになったそうよ。原料不足なんですって」
 洗面所で牙を研いでいた女房がどなり返した。
「なんでも、供給地で悪い疫病が流行って、外を出歩く原料が少なくなったんですって」
 しかたがない。Bジュースはがまんしてクロの散歩に行こう。外は月も出ていない気持ちの良い夜だ。クロを連れ出す。バタバタとうれしそうに羽ばたく。私の上空2メートル。そこがクロのお気に入り。コウモリとはいえウチの家族だ。散歩のついでに貯血池をのぞく。確かに空っぽだ。なんとかしてもらおう。

「7時のニュースです。高級住宅地として知られている兵庫県芦屋市で発生した集団行方不明事件が、思わぬ展開を見せました。三日前から行方が判らなかった13人が遺体で発見されました。13人とも体内の血液が抜き取られていてミイラ状で発見されました」

「ふ~うう。湯上りのBジュースはやっぱりうまいな」