ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

黒牢城

2022年12月13日 | 本を読んだで
 米沢穂信 KADOKAWA

 小生はあまりミステリーは詳しくないが、安楽椅子探偵というのがある。自分は一か所にじっとしたまま、話を聞いて事件を解決する。この作品は安楽椅子というより牢内探偵といっていいだろう。
 摂津の国の領主荒木村重が織田信長に反旗を翻して伊丹の有岡城にたてこもる。説得に来た織田方の黒田官兵衛を捕らえて地下牢に閉じ込める。
 織田の大軍に包囲された有岡城。武器食料は充分にある。毛利の援軍が来れば勝算あり。地下牢の官兵衛は織田方だが切れ者。城主村重は完全には家臣を掌握していない。その上、高槻衆、雑賀衆といった外様の軍団をかかえている。と、いう設定。で、有岡城で不可解な事件が勃発。そのまま捨て置けば家臣兵の士気にかかわる。ひいては落城につながる。側近の家臣は少しはマシな者もいるが、もひとつ頼りない。困り果てた村重は地下の官兵衛に相談する。官兵衛は敵方の武将。親切に謎解きをするわけではない。ポツとヒントをいう。それで村重が考えて解決する。
 織田方の軍勢の動き、有岡城内の人心の動き。官兵衛の意志。これらを総合的に村重は判断するわけ。現代の企業の不祥事なら「まことに申し訳ございません」と三つほどのハゲ頭を下げるだけが、なんせ戦国のこと、頭は下げるより胴体から離れる。命がけである。全編を通じて緊張感が漂う。そして荒木村重はある決断をする。どんな決断かは歴史が示す通り。決して悪い殿さまじゃなかった村重がなぜ、あの決断をしかかはラストで明らかになる。
 有岡城は今のJR伊丹駅の前に少し石垣が残っている。小生もよく知っているがそんなに大きな城とは思えない。往時は壮大な城だったんだな。